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挿絵(By みてみん)



新宿、歌舞伎町。

午後20時。


ケイは絶叫しながら走っていた。


職安通りの内側。

街灯が点いているのに、どこか薄暗い裏路地は人気が少なかった。


時たま、外国人や同業のホストとすれ違った。

しかし皆チラと見るだけで、すぐに自分たちの会話に戻った。

そりゃそうだよな、とケイは内心思う。

この街には、この手の挙動不審が多い。

いちいち構っている余裕なのないのだ。



「いやでもおかしいだろッ!」



ケイは息絶え絶えに毒づいた。

せっかく整えた金髪もめちゃくちゃになっていた。

メイクも汗でドロドロに溶けていた。



「なんで俺しか……ッ!俺しか『見えてない』んだよ!!」



ケイは背後を、巨大な黒い塊に追われていた。

ムカデだった。

無数の足を滑らせ、軽トラックほどの巨体がうねっていた。




その、まるで踊っているような姿は、ケイにしか『見えていなかった』。




「わぷッ!」



足がもつれた。

普段から運動していないケイの体は、恐怖と動揺で強張っていた。

そのまま地面に倒れ込んだ。

肩を強打し、骨に響く痛みで身を捩らせた。


だが寝転がっている暇などなかった。


キチキチ……と音に、ケイは背後を振り返った。

そこには、巨大ムカデが首をもたげていた。

長い触覚と太い毒ヅメが暗がりの中で、怪しく光った。


ケイは心臓が、ヒュッと落ちたのを感じた。

指先が凍り、アスファルトに爪が食い込んだ。



あ、これ、俺、死ぬわ。



走馬灯は見なかった。

振り返れる過去がなかった。

先にあるのは闇、きっと何もないんだと思った。

そうして、せめて目は瞑ろうと瞼を下げた。



その時だった。



ケイの頭上を何かが通り過ぎた。

輝く筋。

LEDよりも数段明るい光だった。

光は瞬間的にケイの視界を漂白し、そしてムカデの眉間に突き刺さった。


ムカデは金切声を上げた。

巨体をビタビタと地面に打ち付けた。

ボウッと青い炎が身体中に広がった。

ムカデは狂乱したようにのたうち回った、次第に全身を炎に包まれた。



「なん……」



ケイは尻餅をついたまま、その光景を呆然と眺めていた。



「なにが……?」



わけもわからぬまま、ただ誘われるようにして、光が飛んできた方を振り返った。



そこにはデカイ弓を携えた、女が立っていた。



歳は、20代前半くらい。

Tシャツにジーンズという、ラフな格好。

白とグレーのグラデーションヘア。

頭には黒キャップを被っている。



女は一見、どこにでいそうな子だった。



「なに、あれ……」



だが、ケイは鳥肌が立つのを抑えられなかった。

黒キャップの上には、鳥が乗っていた。

不思議な鳥だった。

全身は真っ白で、目はフクロウのようギョロギョロしていた。

嘴はワシのように突き出していた。

けして生物に詳しいわけではなかったが、ケイはそのような鳥を見たことがなかった。




鳥が嘴を開いた。




『借智時間が終了しました』



機械的な音声だった。

声は明らかに、鳥の嘴から発していた。


新手のドローン?!とケイは思いついた。

しかし、その考えは即座に改まった。


女の持つデカい弓が燃えて、消えたのである。


ケイはこめかみから垂れるのを感じた。




そんなもんじゃない。

もっと異常なこと。

今目の前で起きているのは、もっとーーーー。



女がケイに近づいてきた。

ケイは同様し、上手く喋ることはできなかった。



「ア、アン、アンタ、い、一体……」



足が震え、立ち上がることもできなかった。


女は、ケイを無視して通り過ぎた。

ケイは何も言えず、ただ女の動きを目で追った。

女は巨大ムカデが焼けた場所に腰を下ろすと、地面からヒョイと何かをつまみ上げた。

ムカデの死体だった。

ムカデは、靴紐くらいに小さくなっていた。

女は口をひん曲げて言った。



「なんだこれは?低級霊か?」



それに対して鳥が答える。



『3相当の智です。獲得しますか?』

「……見掛け倒しか」

『獲得しますか?』

「ああ……するする、獲得する」

『獲得しました。帳簿残高-45です』

「ハァ〜〜大損じゃないか」



女はムカデを放ると、忌々しそうに手をはたいて、その場に立ち上がった。



「藤太の霊弓……借りるのに12も借智料払ったのになあ……」



女は打ちひしがれたように肩を落とした。

その動作からは人間らしい感情が垣間見えた。

ケイはわずかばかりに平常心を取り戻し、女に言った。



「アンタ……もしかしてさっきのムカデ『見えた』のか……?」



女は「んん?」は落胆から脱しきれない声で、顔を上げた。



「あんな低級、見えるも何もーーーー」



女の口が止まった。

女の目はみるみる内に丸くなった。

女の瞳は、渦のように底がしれなかった。



「おい、おいおいおいおいおい!」



女は高速で近づいてきた。

ケイはビクリと肩を揺らしたが、逃げる間もなく女はケイの側にしゃがみ込んだ。



「君、君ィ!」



女はケイの顔を無遠慮に掴んだ。



「君、めっちゃ呪われてるな!」



そして頬を赤く染め、にんまりと笑った。








SNSにて更新ポストなどをしてます

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https://x.com/_ohsko_


ブルースカイ

https://t.co/YrR7qkmi8z


(Xは日常垢を兼ねてるので、純粋に更新だけ追うにはブルスカがお勧めです)


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