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識者の書と模倣の魔術師  作者: 三色団子
第一章:始まりの書架
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模倣の代償と刃の知識(下)

(そうだ、模倣は一つじゃない!複数の知識を…組み合わせるんだ!)


リアムの『模倣眼』が、再び覚醒するかのように強く脈打った。単一の知識の模倣では足りない。ならば、複数の知識を同時に、そして複合的に模倣し、再構築するのだ。彼は、手にした直剣を一度手放し、代わりに、床に落ちていた両刃の短剣と、奇妙な曲線を描く投擲用の刃物を拾い上げた。


右手の痣から、これまで経験したことのないほどの情報が脳裏に殺到する。短剣の繊細な突き、投擲用の刃物の正確な軌道、そしてそれらを剣術と組み合わせた時の動き……。まるで、彼の脳が無限の演算を瞬時に行うスーパーコンピューターになったかのようだ。だが、その情報の奔流は、彼の脳を焼き焦がすかのような激しい痛みを伴った。全身の血管が浮き上がり、視界が歪む。


「ぐっ……!」


それでも、リアムは必死で意識を保った。このチャンスを逃せば、今度こそこの場所で倒れてしまうだろう。


仮想の敵が再び襲いかかってくる。重厚な盾を構えた一体が前面に出て、その背後から槍を持った一体が、正確な突きを放った。


リアムは、息を深く吸い込むと、短剣を構えた。そして、模倣した剣技と投擲術を融合させるかのように、一瞬の隙を突いて短剣を盾の裏側へ滑り込ませた。短剣は、まるで生き物のように敵の守りをすり抜け、その核を正確に貫く。同時に、もう一方の手に持っていた投擲用の刃物を、槍を持った敵の足元へ、寸分の狂いもなく投げつけた。


「フンッ!」


短剣が盾の隙間から敵の核に命中し、一体目の敵が淡い光となって霧散する。投擲用の刃物は敵のバランスを崩し、槍を持った敵は体勢を崩した。その隙を見逃さず、リアムは一気に間合いを詰める。模倣した剣技で、最後の一体を打ち破った。


「…見事な応用だ」


フードの奥から聞こえる守護者の声に、微かな驚きの色が混じっていた。その視線は、リアムの深層を見透かすかのようだ。


「真の知識とは、模倣を超え、己が手で新たなものを生み出すこと。貴殿は、その片鱗を示した」


守護者の姿は再び光の粒子となり、広間中央の書物へと戻っていく。書物のページが、まるで彼を招くかのように、一枚、また一枚と静かに捲れていく音がした。広間の奥には、新たな通路が姿を現している。そこからは、さらに奥深い、複雑な「知識」の気配が漂っていた。


しかし、達成感も束の間、リアムは、その場に崩れ落ちた。全身から汗が噴き出し、吐き気が胃の底からこみ上げてくる。視界は白と黒の斑点に覆われ、耳鳴りがキーンと響く。短剣と投擲用の刃物を握りしめた手は、微かに震えていた。


(…はぁ、はぁ…これほどの、代償…)


これまでのどの模倣よりも、今回の複合的な模倣は、彼の体に甚大な負荷をかけた。脳の奥がズキズキと痛み、まるで神経が一本一本引き千切られるようだ。両親の手記には、この「代償」についての具体的な記述はない。ただ、「力が君を導く」とだけ記されていた。この痛みが、その「導き」の一部なのだろうか?


リアムは、激痛に喘ぎながらも、ゆっくりと顔を上げた。彼の顔には、苦痛の中にも、確かな達成感が浮かんでいた。単に知識を模倣するだけでなく、それを組み合わせることで、新たな力を生み出せる。この発見は、彼にとって大きな希望となった。この場所でなら、もしかしたら両親が消えた理由、そして自身の『模倣眼』の真の秘密を知ることができるかもしれない。


彼は、残された僅かな気力を振り絞り、這うようにして立ち上がった。彼の目に映るのは、奥へと続く新たな通路。そして、その先の書架に眠る、未知の知識への誘いだった。足元が覚束ない。それでも、彼の心は、両親への想いと、自身の能力への好奇心に突き動かされていた。


「まだ、だ……まだ、進める……」


リアムは、揺れる視界の中、通路の奥へと一歩、また一歩と足を踏み入れた。彼の前途には、更なる試練と、そして深まる『模倣眼』の謎が待ち受けている。この図書館のどこかに、彼の探している答えが必ずあると信じて。

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