[4]二日目:魔王は大変です。
「えー、では早速ですが作戦会議を始めたいと思います!」
アリシアがかしこまった口調で宣言する謁見の間。
魔王に扮するアリシアの前に、ドラゴンを抱えるデュラとスライムのスエルがテーブルに着いている。
「まず、七日間を通して一日に最大で三人まで勇者が攻め込んで来ます! それをわたしたちだけで何とかするのが目的になります!」
「そうね。それぞれの特技を共有して予め作戦を立てておこうって話よ」
「自分、不器用ですから……」
「はいそこっ! そうやってすぐ自分を卑下しない! 罰としてまずはスエルからいってみよう!」
アリシアはビシィッとスエルに指を向ける。
対するスエルはぷるぷると震えながら深く考え込む。
「自分は見ての通りスライムでございます。故に、クソザコ耐久のクソゴミモンスターに変わりありません」
(えぇ……自己評価低すぎじゃない……?)
「しかし、クソであることは自分にとって誇らしい部分でもあるのです」
「ほう? 詳しく聞かせなさい」
(急に食い気味だよデュラちゃん……)
「クソはクソなりに、相手をキレさせることに特化しているのです」
「面白いわ、採用」
「待って! そういう特技じゃなくてさ! もっと能力的な部分について教えてよ!」
「能力ですか……」
スエルは再び考え込む。しばらく沈黙が続き、アリシアは我慢が出来ずカチャカチャと震えながら鎧を鳴らす。
「まぁいいわ。代わりに私の特技を発表するから」
デュラは腕に抱いていたドラゴンを前へ突き出すようにして掲げた。
「一生懸命に頑張る幼馴染の女の子が好きですっ」
「別に性癖を発表しろって言ってるんじゃないんだけど! というか、ぎゃおちゃんで遊ばないで!」
デュラはあたかもドラゴンが喋っているかのようにして高めの裏声を出した。
「ドラゴンだし、乗り物の方が好きだったかしら……」
「いいよどっちでも! 特技の話をしてよ!」
「ぎゃおっ……」
ドラゴンが呆れたようにしてうなだれる。
「そういえば、ドラゴンの召喚魔術について触れていなかったわ」
「それでしたら自分なりにひとつ、考察がございます」
(急に饒舌になるじゃん……)
「ぎゃお様はおそらく魔術の扱いに長けたドラゴン、魔竜の類であると考えます。故に、勇者の亡骸から魔力を吸収して自らの魔力に変換したのです」
「なるほど、だから生首に触れていたのね」
「しかし、スエルの召喚で魔力を使い果たしてしまったようですね。次の召喚のためには再び勇者の魔力を吸収する必要がありそうです」
「ねぇ! 今は別にぎゃおちゃんの特技を知る必要ないんじゃないかな!?」
「そうね。でも、勇者を倒せば新しい仲間を召喚できるかもしれない、案外有意義な情報だったわ」
(そうかもしれないけど、勇者と戦うのはわたしたちなんだしもっとお互いのこと理解したいよ……)
「スエルもそんなに話せるなら、もっと自分のこと教えてよ……」
「自分、不器用ですから……」
「不器用すぎるでしょ! 何で自分のことになると途端に話せなくなるのさ!」
アリシアは頭を抱えて唸り出した。
「あぁーもうっ! ちゃんと真面目に会議しろぉ───っ!!!」
◆
「隊長! 新たな勇者を呼んで参りました!」
「でかした!」
帝国城・作戦司令室本部。
一人の兵士が意気揚々とバルバのもとへ報告に来ていた。その兵士の背後、地面を擦るようにして歩を進め、司令室に姿を見せた一人の男。
「召集により参上仕った。拙者、カザマと申す者。今こそこの刃、大義のため振るおう」
「勇者カザマ! 来てくれたのか!」
彼は勇者カザマ。顔を覆う大きな浪人笠を被り、浅葱色の袴を着たサムライのような風貌をしている。
「あれ、一人だけ? せっかく魔王城に転移するんだから、あと二人まで一緒に行けるけど?」
近くにいたDr.ヘックスが不思議そうにする。
「否、拙者は一人に非ず。この身に秘めたるは三の命なり」
「……よくわからないけど、一人で行くってことでいいの?」
「ドクター、彼は一人にして三人なのだ。私にも詳しくは理解できていないが、勇者カザマは三位一体の剣の使い手としてその名を馳せる強者なのだ」
「ふーん、やっぱりよくわからないからいいや。さっさと魔術を始めるから、あたしについて来て」
「御意」
Dr.ヘックスはカザマを連れて司令室を離れる。
「では、私はジークに会いに行くとしよう……何としても最凶の竜狩りの剣士をこちらに引き入れなければならん」
「隊長! お供します!」
バルバは円卓から立ち上がり、兵士を連れて司令室を離れる。城の地下に囚われている最凶の竜狩りの剣士のもとへ向かって。
◆
再びこちらは魔王城・謁見の間。
先行き不安な作戦会議は熾烈を極め、混沌と化していた。
「どうして! こんなにも! 話が進まないの!」
アリシアは頭を抱えて苦しみ悶えている。
何も語ろうとしないスエルはまだしも、デュラのおふざけが止まらず一向に話が進展しない。
「あ、それダウトね」
「おや、バレてしまいましたか」
デュラはスエルとカードで遊んでいる。手を使えないスエルはドラゴンが代わりにカードを選んでいる。
「なんでカードで遊んでいるのさ! 危機感持てって言ったのデュラちゃんだよね!?」
「甘いよ魔王様。これも心理戦を仕掛ける上でとても重宝するものよ」
「デュラ様はとてもお強い方です。自分には手も足も出ないほどに」
「ふっ……」
デュラは勝ち誇ったようにドヤ顔を見せる。
(それ、ただ接待されてるだけだよデュラちゃん……。気持ちよく勝たせられているだけだよ……!)
「これは些か面妖な、かような場に立ち入るとは思わなんだ」
部屋の扉が開かれ、男の声が響いた。
「……あんた何者?」
「拙者、勇者カザマと申す者。魔王討ち入りに馳せ参じた次第にござる」
「これはこれはご丁寧に」
スエルがぷるぷると震えながら返答する。
(いや、相手は勇者なんだけど……)
「して、魔王なる者は如何に。手合わせを願う」
カザマは腰に携えた刀を抜き、刃先をアリシアたちに向ける。
「一人で来るなんて、随分良い度胸ね。でも、まずは私が相手をしてあげる」
デュラがテーブルから立ち上がり、懐からナイフを取り出す。
「わ、わたしも何か魔王っぽいことしなきゃ……!」
アリシアは咄嗟に玉座に座り、足を組んで偉そうなポーズを決める。
「フハハ! デュラよ、そんなやつやってしまえー!」
「魔王様、ちょっと黙ってて」
アリシアはデュラに睨みを返された。スエルとドラゴンも同じような視線を送っている。
「はい……頑張って下さい……」
「其方が拙者の相手とな? 見る限りは女子のようだが、果たしてその力量や如何なるものか……」
「安心して。あんたじゃ太刀打ちできないぐらい私は強いから」
デュラは姿勢を低くし、勢いよく地面を蹴り上げてカザマに向かい駆ける。
「とくと見定めさせていただくッ!」
カザマが両手で刀を握り構え、駆けてくるデュラを警戒する。デュラは左右にステップを繰り返し、まるで分身をしているかのような挙動だ。
デュラは逆手に持ったナイフを構え、カザマに刃先を向けて飛び込んだ。
キィンッ!!!
激しく金属のぶつかる音を響かせ、デュラはガサマを追い越し背後に立つ。
互いに刃を構えたまま、ピクリともしない。その様子をアリシアは固唾を飲んで見ている。
「呆気ないね、手応えはバッチリ……」
その瞬間だった、背後を振り返るデュラの首筋に横一閃が現れ、ストンと首が断たれた。
「デュ……デュラッ……!」アリシアの叫び。
「これぞ、一の太刀・身冴なり。しかし、此方は一切の手応えも無しに候」
デュラの足元には首が転がる。デュラはその首を掬い上げ、小脇に抱える。
「へぇ、案外やるじゃないの。変なヤツのくせに」
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