[2]一日目:頼れる幼馴染です。
魔王城内・謁見の間。
魔王に扮するアリシアと幼馴染の暗殺者デュラは、魔王討伐のためやって来た勇者、ノービスとサイレンスの二人と対峙する。
「君一人が、僕たち二人を相手にするだって? 流石にそれは侮りがすぎるんじゃないかなぁ!」
ノービスは腰にぶら下げたホルスターから銃を取り出す。それはリボルバー式の拳銃、照準を目の前のデュラに合わせて射撃の準備を整える。
「ノービスさん、援護するわ……!」
サイレンスはノービスの背後に回り、杖を取り出して魔術詠唱を始める。
対するデュラはナイフを構え、二人の出方を伺う。
(女の方は魔術師ね……どんな魔術を使ってくるのかしら)
「馬扁っ!」
サイレンスが魔術を唱えると、前に立つノービスをモヤが包み姿を消した。
バキュンッ!
「そこっ!」
デュラはステップで一歩下がり、その場でナイフを振るった。
途端に金属が衝突する音を響かせ、デュラの足元には真っ二つに割れた銃弾が転げ落ちる。
「なんですって!? 見えているとでも言うの!?」
「あんたら、よくマヌケって言われるでしょ。言われないの?」
デュラは姿勢を低くして勢いよく地面を蹴る。そのまま真っ直ぐ、サイレンスのもとへ飛び込むようにして走る。
バキュンッ! バキュンッ!
駆けるデュラに向けて銃弾が放たれる。デュラは前方に向けて回転しながら銃弾を避け、着地と同時にサイレンスへナイフを投擲する。
バキュンッ! キィンッ!
再びの銃声、サイレンスへと投げられたナイフは銃弾で弾かれた。
「だからあんたはマヌケなのよ」
デュラはもう一本のナイフを回しながら取り出し、部屋の空いた空間に向けて投擲する。
「ぐあぁっ……!」
何もない空間にナイフが刺さる。次第にモヤが現れ、足にナイフの突き刺さったノービスが姿を晒す。
「ノービスさんっ!」
「よそ見しないで、あんたの相手は私」
「ッ!?」
デュラはサイレンスの目の前に移動し、近くに落ちていたナイフを拾い上げてサイレンスに刃を向ける。
「避けろサイレンスっ!」
ノービスは痛みを堪えつつデュラに照準を合わせる。
「ちっ……」
ノービスが銃撃し、銃弾はデュラの頬を掠める。
デュラは後方に回転しながら飛んで距離を取った。
「どうしてわかるのよ……! 私たちの攻撃がっ……!」
「……姿を消すくせに、音を鳴らしてちゃ意味ないでしょ」
「そ、それだけ!? それだけで、どうして反応できるのよ!」
「はぁ……それは悪かったわ。だって、私は音より速いもの」
「ッ!?」
デュラはナイフの切先を自らの首に向ける。
「ネタばらしもしたし、そろそろ本番。遊びはここまでよ」
「何をするつもりっ……!?」
サクッ……!
デュラは自らの首を切り落とした。
頭の無い首元からは黒いモヤが立ち上がり、デュラの首は小脇に抱えられた。
「魔王様、これ持ってて」
「えっ、ちょっ!」
デュラは玉座に座るアリシアに向け、自らの首を放り投げた。アリシアは慌てつつしっかりとキャッチし、その顔と目が合ってしまう。
(うぅっ……! これ結構生々しいよ、デュラちゃんっ……!)
「首なし……デュラハンかっ……!」
ノービスは再びサイレンスのもとに合流し、デュラを警戒する。
「影の舞踏に招待するわ、存分に楽しみなさい」
デュラの足元から影が伸び、部屋全体を黒が覆う。
暗黒空間に蒼い炎が灯り浮かぶと、どこかで嘶きが響いた。
「こ、こんなものまやかしだ! 所詮はただの魔術にすぎない! サイレンスなら対抗できる!」
「ええ! 任せて……!」
サイレンスが杖を掲げると、杖の先に光が灯る。
その足元、黒い何かが蠢いた。
「いやあああぁぁぁ!!!」
「な、どうしたサイレンス───」
ノービスがサイレンスを見やると、彼女は人の形をした黒いドロドロに捕まれていた。
「なんだ、こいつは……!」
「いやぁっ! 離してぇっ!」
地面から這い出るドロドロはサイレンスを掴んで離さない。その体を貪るようにうねるドロドロはサイレンスの首を絞める。
「離れろッ! こいつめッ!」
ノービスはドロドロに向けて銃底で殴りつける。べちゃべちゃと飛沫を上げながら、サイレンスからドロドロを剥いでいく。
「のーびす、くん……」
「なっ……この声はっ……!」
突然、ドロドロが声を上げる。
それは魔王と対峙した勇者、ドラジャンの声だ。
「たす、けて……」
「ドラジャン! くそっ! こんなことっ……!」
ノービスは手を使って必死にドロドロを剥いでいく。サイレンスはすでにドロドロに飲まれ、全身を黒で包まれている。
「楽しそうね、泥遊びは気に入った?」
「貴様ァッ!」
蒼い炎の中から姿を現した首なしのデュラに向け、ノービスは銃を構える。照準の先に頭はない、狙うのは心臓だ。
「くらえぇっ!」
幾つもの銃声が響く。
「うぅっ……!」
銃撃を受けたデュラは苦しみだして悶える。
途端に暗黒空間は消え、先程までと同じ謁見の間へと戻った。
「ノービス……さん……」
「なっ……!? サイレンス……!?」
ノービスの前には、銃撃を受けたサイレンスがいた。全身から鮮血を噴き出し、顔を暗くしている。
「うわああああああ───ッ!!!」
ノービスは倒れ込むサイレンスを抱き止め慟哭する。
「そっちはハズレよ。弾は当たったみたいだけど」
サイレンスを抱きながらうなだれるノービスの背後、再びデュラが姿を現した。
デュラの手には大鎌が握られ、その刃先はノービスの首元に添えられている。
「許さないッ……! 絶対に許さないッ……! 貴様だけは絶対にッ……!」
「あら、自分の失敗を棚に上げて私を恨むなんてお門違いも甚だしいわ」
「黙れッ……! 黙れ黙れだまれぇッ……!!!」
ノービスは銃を手に取り、背後のデュラに向けて勢いよく腕を上げて構えた。
バキュンッ!
ノービスが構えた銃口の先には黒いモヤを立たせるデュラの首元があった。
「残念ね、これでおしまい」
デュラは大鎌を持つ手に力を込める。
ピュッ……!
ノービスの首元から勢いよく頭が飛んだ。残された胴体からは勢いよく飛沫が上がり、地面に倒れ込む。
「やっぱりあんたたち、マヌケって言われるでしょ。せっかくだから、代わりに私が言ってあげる」
デュラの持つ大鎌が蒼い炎に包まれて焼失する。
「なんて、言うと思った? ばーか」
◆
帝国城・作戦司令室。
「勇者ノービス、勇者サイレンスともに魔力反応が消失……!」
「な、なんだとっ……!?」
兵士から報告を受けたバルバは目を見開きひどく動揺する。
その手を握り震わせ、円卓を強く叩く。
「クソッ……! これほどまでとはッ……!」
「ふーん、魔王も結構強いんだね」
Dr.ヘックスは円卓の一部分を埋め尽くすほどの料理を前に食事をしている。大皿に乗ったスパゲッティを一口で平らげると、口元を正してバルバを見る。
「バルバ、少しやり方を変える必要がありそうじゃない?」
「あぁ……わかっている」
バルバはため息に合わせ、顔を覆うようにして円卓に肘をつく。
「ヤツを呼べ、最凶の竜狩りの剣士をだ……!」
◆
魔王城・謁見の間。
「さすがデュラちゃんっ! ちょっとエグかったけど、一人で勇者を倒しちゃった!」
「当たり前よ、あんなやつらに苦戦する方がありえないわ」
デュラはアリシアに預けていた自分の頭を受け取る。
ブッピガーンッ!
デュラはヘルメットを被るようにして自らの首に頭を乗せる。少し左右に揺らしながら程度を確かめると、満足して繋がった首を動かし始めた。
「アリシア、私があなたを守るから……」小声で呟く。
「えっ?」
「なんでもないわ、早くゴミを片付けましょう」
「デュラちゃん! ていうか、またこれ首ないじゃん!」
アリシアは勇者だったものを一目見てすぐに顔を両手で覆う。
「ふふっ……慣れなさいよ、魔王様」
閲覧ありがとうございます。
ぼちぼち更新する予定ですのでお待ち下さいませ。
※無断転載を禁じます。