[11]四日目:最凶の勇者です。
魔王城・謁見の間。
瓦礫の上に立つ玉座につく魔王アーデルトの前に、一人の男が姿を現した。
「貴様が、今回の勇者か」
「オマエが魔王か……、全ての竜はオレが狩る」
最凶の竜狩りの剣士、ジーク・ムントである。
◆
時間は遡り、数時間前。
魔王城・会議室(仮)にて。
アーデルト、アリシア、デュラ、コッツの四人でテーブルを囲む。
「今日で勇者の侵攻四日目だ。これまで三度の襲撃を乗り越えてはきたが、正直なところ限界が近い」
アリシアとデュラは俯き、自らの体に巻かれた包帯を見つめている。
「しかし、手が無いわけではない。城の魔族が姿を消した原因は、あのDr.ヘックスによる召喚魔術だ。奴はどこかに疑似空間を作り、そこへ魔族を強制的に召喚し閉じ込めているのだ」
「それじゃあ、その空間を見つければみんなは戻ってくるってことですか……?」
アリシアが質問した。
「ああ。そもそも、召喚魔術というのは”繋がり”が最も重要になる。Dr.ヘックスは魔王城と擬似空間にパスを繋ぎ、魔族を隔離している」
「パス……?」
「故に、そのパスさえ見つかればこちら側から居場所を突き止めることが可能だ」
「それでみんなが帰ってくるんだ……!」
「待って……魔王様はこれまでに、スエルとコッツを召喚していたはずでは? それを使えば他の魔族も召喚できないかしら?」
デュラが質問した。
「あぁ、あれは契約召喚だ。我と直接、契約を交わした僕を召喚する特別な魔術だ」
「契約召喚……? 普通の召喚魔術と何が違うんですか……?」
アリシアが首を傾げている。
「アタシたちは隠居した身、そもそも魔王城にはいなかったの。だから疑似空間関係なしに、契約召喚でここにやって来たのヨ」
「でも、スエルは魔王様がドラゴンだと知らなかった。スエル自身もどうして召喚されたのか分からなかったみたいだったけど?」
「まぁ言ってないしな、ドラゴンだってこと。コッツにも、ついさっき教えたばかりだ」
「えぇ───ッ!?」
「そうなのよぅ! アタシったらビックリしちゃってぇ! 腰が抜けそうになっちゃったワ!」
「どうしてそんな大事なことを……スエルは普通に召喚されたと思って勘違いしていたってこと……? 不器用にも程があるわ……」
デュラが呆れている。
「契約は魔王に就く時の慣例みたいなものだしな、本当に役立つとは思わなかったが。はっはっは」
(魔王様って結構テキトーなところがあるような……)
「とにかくだ、今後の侵攻を乗り切るためにもパスを見つけて魔族達を取り戻すことが重要になる。その任をお前達、三人に任せようと思う」
「……っ!」
アリシア、デュラ、コッツそれぞれが顔を見合わせる。
「やれるな?」
「はい!」「ええ」「モチロンよ!」
「いや、掛け声バラバラッ!」
◆
時間は戻り。
再びの魔王城・謁見の間。
アーデルトとジークは互いに睨み合い、ジリジリとした雰囲気の中で様子を窺う。
「またしても一人とはな。貴様たち勇者は人手不足か何かなのか?」
「……」
ジークは何も答えず、じっとアーデルトを睨む。
「……そうか。しかし、こちらとしても都合がいい」
アーデルトは玉座から立ち上がり、右手を構えて力を込める。
手には魔力が集まり、やがて赤黒い大剣の形を作った。
「さぁ、剣を抜け。我が相手になろう」
瞬間、ジークは勢いよくアーデルトに向かい走り出した。
掴みかかるようにして腕を伸ばし、アーデルトを攻撃する。
「フハハハハッ! 血を寄越せッ……!」
「なんだ、こいつ……?」
ジークは両手を交互に伸ばして掴みかかろうとする。それをアーデルトはステップで回避していく。
「ッ!」
アーデルトが瓦礫に足を取られた瞬間、ジークの右手がアーデルトの左肩を掴んだ。
そのまま引き千切る勢いで肩の鎧を引っ張り、軋む音を響かせる。
「なめるな……!」
アーデルトは右手に構えた大剣を振り上げ、ジークの体を裂いた。
ジークの左腕が吹き飛び、血を撒き散らしながら後方に着地する。
「……フフフ、ハハハハハッ……!」
「何ぃ……?」
「血だ……! 血を寄越せ……!」
片腕を失っても尚、ジークは鎧を引っ張り続ける。
ガシャッ! カランコロンッ!
アーデルトの肩鎧はジークによって引きはがされ、同時にアーデルトの左腕も崩れ落ちた。
「くぅっ……!」
ジークからの拘束が解けたアーデルトはステップで距離を取った。
対するジークは剥ぎ取った鎧を投げ捨て、後方に転がる自らの腕のもとへと移動する。
「血が足りない……」
ジークは自らの左腕を拾い上げると、そのまま口を大きく開けて噛り付いた。
大きな租借音を立てながら、ジークは肉を貪る。
「こいつは、狂っているな……」
「ごくりっ……あぁ……」
ジークは口元の血を拭い、不敵な笑みを浮かべる。
「オマエの血も……寄越せ……!」
◆
帝国城・作戦指令室。
円卓にはバルバが着いている。穏やかではない心を落ち着かせるように、両肘を立てて顔を沈める。
その近くにはDr.ヘックスが椅子にもたれかかりながら、魔術書を開き読んでいる。
「随分と緊張しているようだね、バルバ」
入り口から落ち着いた声色をした男の声がした。
バルバが顔を上げて見た先には、蒼銀の鎧を身に纏う金髪蒼眼の青年がいた。
「あ、貴方は! エース様っ……!」
「様は付けなくていいのに……、エースでいいよ」
「……誰?」
Dr.ヘックスは魔術書越しに睨むようにして青年を見る。
「僕は貴女を知っているよ。最強の魔女、Dr.ヘックスだね」
「質問してるのはこっち。あなたは誰なの?」
「ど、ドクター! 彼はっ……!」
青年は苦笑いをすると、あたふたしているバルバに手を向けて制止させた。
「僕もまだまだだね、もっと頑張らないといけないかな……」
青年を見るDr.ヘックスは変わらず怪訝な表情を崩さない。
対する青年はニッコリとした笑顔を見せ、姿勢を正した。
「僕は蒼銀の勇者団・団長、エース・ザ・トリニティ。今回の魔王攻略作戦を立案した、最強の勇者……だよ」
「ふーん、どいつもこいつも最強って……頭悪すぎじゃない?」
「それは……貴女にだけは言われたくないかも……」エースは苦笑いする。
「あたしはいいの。だって、最強だし」
「ど、ドクター! あまり彼を困らせるな! 彼に何かあったら私の首がっ……」
バルバは再び慌てふためく。
「ていうか、作戦の立案者ってどういうこと? あなた何者なの?」
「まぁ、どこから話したらいいか難しいのだけど……」
エースは顎に手を当てて思考している。
「あ あ あ……」
「……ッ!」
エースの呟きに、Dr.ヘックスは椅子から飛び上がった。
バルバは二人の間に立ち、何が起きているか理解していない様子だ。
「ふ、ふーん……あなたがそうなんだ……? 情報提供者の『あああ』ってのは……」
Dr.ヘックスの顔が引き攣っている。
「うん、それは僕だよ」
「情報提供者? ドクター、それは一体?」
「僕から説明するよ、今回の作戦に関して予めドクターには様々な情報を提供していたんだ」
エースは部屋を徘徊し、窓際に移動する。
「ドクターが召喚魔術を使うにも、魔王城とのパスが必要なんだ。そこで、僕がそれを提供した」
「魔王城とのパス……?」バルバは首を傾げる。
「そう、僕は一度魔王城に行ったことがあるからね。ドクターにはパスを提供して、魔族の隔離と勇者の転移を任せたんだよ」
「そ、そうだったのですね……! 流石はエース様です! 御見それしました」
「だから様はやめてよ、僕に出来ることをしたまでさ」
「ちょっと、まだあたしの質問に答えてもらってないよ……結局あなたは、何者なの……?」
エースは振り返り、二人に背中を見せる。
「僕は……異世界から転生した、最強の勇者だよ」
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