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第27話:望まれぬ部外者

「こんな所にいらしたのですか、セレ─ネ様。ずっとあなたのことを探していたのですよ」


 ワンツの言葉を遮って、第三者である男の声が割り込んでくる。

 短い髪を整髪料でまとめた、融通の聞かない真面目そうな男だ。

 数人の仲間を引き連れやってきた男は、路傍に寝転がる人間を見るような目で、ワンツを見てくる。

 視線に込められた侮蔑を隠そうともしない男に、ワンツは苛立ちのこもった視線を返す。


「……君たち、また来たのか」


 夜空で輝く満点の星空のような目で話していたセレ─ネの目が、キッと険しくなる。

 話に割り込んできた男に向けられる視線は、鋭く冷たい。

 おっとりと柔らかい雰囲気だったセレ─ネにも、ここまで冷たい感情があったのかと少し驚いた。

 それと同時に、セレ─ネをこうまでさせるこの男に興味が出てくる。


「セレ─ネ、こいつらは?」


「貴様! その方をどのようなお方だと心得ている!」


 またワンツの言葉を遮って、男が声を荒げる。

 威嚇でもしているつもりなのか、グイグイ距離を詰めてくる。


「おい君、余計なことは言ってくれるなよ」


 なぜか急に興奮を始めた男に、セレ─ネの低く抑揚の無い声でされた警告は聞こえていない。

 男はセレ─ネが言った余計なこと、を下々の者によく言い聞かせるように宣言した。


「そのお方は、御三家の内のひとつ、ライトニング家のご息女。セレ─ネ・ライトニング様であるのだぞ!」


「御三家? それがどうしたってんだよ」


 視界の片隅に映っているゲルダの肩が揺れた気がしたが、なぜ男がそんなことを高らかに宣言したのか、ワンツには分からない。

 ワンツが聞くと、男は何かに気がついたかのように目を細める。

 そして人をバカにするように笑った。


「その顔、どこかで見たかと思えば貴様、魔王だな」


「そうだったら、なんだよ」


「そうか分かったぞ。魔王、貴様! 自らに人望が無いからライトニング様、ひいては御三家の威光を利用してやろうという魂胆だな!」


 セレ─ネによく聞かせるように、男はワンツを糾弾した。

 男のひとり演技を、取り巻きの人間は拍手や声援ではやし立てる。


「はぁ? 俺がこの人を訪ねたのは、ライトニング家だ御三家だなんて理由じゃない。そもそもそんなお偉いさんだなんて初耳だよ」


「そうやってライトニング様に取り入ろうという作戦だろう。なんと卑怯な。ライトニング様、魔王などと一緒にいてはお家の名にも傷がつきます。早くこちらへ!」


 勢いよく伸ばされた男の手を、セレ─ネは言葉で制する。


「あまりその名で呼ばないでもらいたい」


「な、何を仰りますか、ライトニング様!」


「だからその名で呼ぶなと言っている」


「は、はいぃ……?」


 男はなぜセレ─ネが、不愉快そうな顔を向けてくるのか、本心から理解できないといった様子だった。

 呆けた顔で、セレ─ネを見る。


「私は生家に誇りを持っている。けどね、私は家の名で私を呼ぶ人間が大嫌いだ。今すぐここを立ち去り、二度と私の前に現れるな」


「グッ……しかし我々とてあなたを勇者様の所へお連れしなければならないのです。こうなったら力づくでも……」


 セレ─ネの腕を強引に掴もうとした手を、ワンツは力強く抑える。


「おいおい、結局は暴力で解決するのか? 俺に人望が無いとか好き勝手言ってくれた割に、最後は乱暴するんだな」


「貴様には関係のないことだろう、魔王。部外者は首を挟まないでもらいたい」


「関係ないことないさ。なぜなら俺は、その人を俺のクランに誘おうと思っているんだからな」


「貴様が、ライトニング様をクランに? 笑わせるなよ魔王。そんなこと許されるはずがない」


「それを決めるのは彼女自身だ。お前じゃない」


「貴様ッ……」


 ワンツが手に力をこめると、男は眉をひそめる。

 敵意のこもった視線でワンツをいちべつすると、男は後ろに控えている男たちに、顎で指示をだす。


「何をボ─っと突っ立っているんだお前ら、さっさとそのお方をお連れしないか!」


 控えていた男たちはセレ─ネを捕らえるべく、慌てて走り出すが、すぐに立ち止まる。


「そうはさせないわよ」


「ワンツ様が、いえわたくしたちのリ─ダ─がこう仰っているのですもの。こちらの女性は、死守させて頂きますわ。女性に対して暴力を振るうような輩には、きつい制裁が必要でしょうね」


 フレアとゲルダが、セレ─ネの前に立ちふさがる。

 普段、あんなに嫌味を言い合っているとは思えないほどのコンビネ─ションに、ワンツは思わず口元がゆるむ。


「チッ!」


 力づくでもセレ─ネを連れ帰ることは無理だと判断したのか。

 男は乱暴にワンツの手を振り払う。


「魔王など、いつか勇者様に討たれるだけの存在であるはずなのに」


「小物らしい捨てセリフだな。どこまでも他人任せだ」


 ひときわ大きな舌打ちを残して、男たちは帰っていった。


「……すまない、ワンツ君、皆。嫌な役回りをさせてしまったね」


「いやいいよ、これくらい。慣れてるから」


「慣れてるか……魔王という肩書とは、やはり重たいようだね」


「それも慣れたよ。そんなことより、どうかな。俺たちのクランに入ってくれないか? 最後のひとりが揃わなくて困ってるんだ」


「ワンツ君が率いるクランか。いいね、楽しそうだ」


「なら!」


「でもすまない。あの男たちが言っていた通り、私は御三家の人間だ。私がいることで君にいらぬ悪評を言われてしまうかもしれない」


「……そっか」


「でも安心してくれ。彼らの下へ行く気もないから。……それじゃあ、私はお先に失礼するよ」


「あ、あぁ、また」


 とぼとぼと歩いていって、ワンツの隣を通り過ぎていく。

 そのまま数歩進んで、セレ─ネはぼそっと呟いた。


「……今日は楽しかったよ」


 寂しそうに歩いていく背中に、誰も声をかけることはできなかった。

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