表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/40

第22話:無責任に言えたなら

 決闘は一瞬で方が付いた。

 ワンツひとりに対して、相手方は5人。

 戦力差は圧倒的であったが、ワンツの圧勝だった。

 悪役が言いがちな捨てセリフを残した奴らの背中を見送り、静かになった空間でワンツはマリ─に向き直る。


「大丈夫?」


「ヒッ! あ、はい、その……ええと……」


 チンピラに絡まれた挙げ句、自分の意志が関わらない所で賭けの賞品にされた。

 そんな非常識な人間からの視線など、不愉快で恐怖でしかないだろう。

 しかし、ワンツにその気はない。

 少しでもその気持ちが伝わるように、できるだけ優しい声色で話しかける。


「まぁそんなに緊張しないでくれ。奴らの手前、君を賭けるようなことを言ったが、別に俺は無理に勧誘しようとは思ってないんだ」


「え……? でもあなたは私を……」


「確かに俺たちは、君を勧誘するために新校舎まできた。けど奴らと決闘したのは、君が困っていると思ったからだ。それを口実にして、逃げられないようにするためじゃない」


 マリ─は胸の前で両手を握りしめ、顔をうつむかせる。


「だから君自身の返事を聞かせてほしい。俺らがクランを結成するため、よかったら最後のメンバ─になってくれないか?」


 マリ─はそわそわと落ち着かない様子で、キョロキョロと顔を動かす。

 そして何度目かの深呼吸のあと、マリ─は言葉を発した。


「ええと、その……助けて頂いたことには感謝しています。嘘じゃ……ないです、はい」


 結論に近づくにつれか細くなっていく声は、静かな校舎裏にいるのに聞き取りづらくなっていく。

 それでも嫌な顔せずマリ─の返事を待つワンツの顔を見て、マリ─は心に秘めた結論を口にするのを躊躇うように、何度か開口する。

 そしてついに、マリ─なりの返事を聞かせてくれた。


「……でも、その、ごめんなさい!」


 マリ─は謝罪の言葉とともに、勢いよく腰を折り曲げる。

 体を傷めないか、心配になるほどの勢いだった。


「さっきの方たちや、あなた。そして学園長も口を揃えて言うんです。私には治療魔法という、唯一無二の才能があるって」


「アリスが?」


「……はい。私は治療魔法という才能があると、見込まれただけで推薦された、卑しい女です。本当は、そんな才能なんてないのに」


「さ、才能がない? でもアリスが、君には治療魔法という才能があるって、言ったんだろ? 魔法に関しては、あの人の勘は外れないと思うんだけど」


「でしたら、学園長の勘が外れた初めての人間が私なんでしょう。治療魔法というのは、世界で唯一の稀有な能力なんですよね?」


「あ、あぁ俺はそう聞いたけど」


「私には、特別な力を扱えるような、非凡の才能はありません。この特別の魔法が、あなたのような特別な人に宿っていれば、たくさんの人を助けられたでしょうに。現実は、グズで役立たず、存在自体が罪深い私のような人間が、持って生まれてしまった」


 自嘲。

 後悔。

 それとも自己嫌悪だろうか。

 話し終えるとマリ─は、ため息を混じりに笑った。


「で、でも治療魔法を持っているのは君なんだろう? なら……」


 せっかく人をたくさん助けられるような才能を持っているのだから、もっと頑張ればいいのに。

 そんな無責任な言葉は、マリ─の表情を見れば喉の奥に引っ込んだ。

 笑っている。

 ワンツからどんな非難の言葉を浴びせられようとも、自分はそれを受け止めなければならないと、覚悟を決めたような悲しい微笑。

 彼女が背負うと決めた業は、どれほどの重さなのだろうか。

 それがワンツに分かるのなら、彼女にもっと頑張れなんて言いかけることもなかっただろう。

 思わず口を閉ざしてしまったワンツに気を使うように、マリ─が優しく声をかける。


「私はあなたのような良い人ではありませんし、あなたのように誰かを助けられる強い人でもありません。だからごめんなさい。私はあなたのクランに、参加することはできません」


 抑揚のない声とともに、マリ─は再び頭を下げた。

 ゆっくりと上げられた顔には、何かを諦めているような無色の笑顔が浮かべられていた。


「そう……か、分かった。また君と会えるかな」


「同じ学園にいるのですから、機会があれば……。それでは、失礼します」


 深く頭を下げて、マリ─はこの場を離れた。

 ゆっくりと小さくなっていく背中を見送りながら、ワンツは息を吐いた。

 後悔の念が背中にのしかかる。

 マリ─を仲間にできなかったことではない。

 無神経に、沢山のことを背負ってきたであろう彼女の心を傷つけてしまったことだ。


「よかったのですか、ワンツ様」


 近くによってきたゲルダに、力なく聞き返す。


「何が?」


「あの様子ならこちらから押せば、どうとでもなったでしょうに」


「それじゃあ意味ないだろ。ああ言われちゃ、強引に勧誘なんてできない」


「でもどうするのよ。あの子を頼りにしてきたのに、これじゃあ私たちのクランを作れないじゃない」


「う─ん、そうだな。他にいい子がいないか、またルキウスにでも聞いてみるさ」


「なんか嫌だわ、その言い方」


 あまり暗い顔をフレアたちに見せると、心配をかけてしまう。

 そんな気分ではないが、軽口を叩きながらワンツたちは、旧校舎の方へ歩きだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ