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短編集

片付けられない人

作者: 暮 勇

 僕は片付けができない。

 部屋はいつも、散らかっている。


 僕の部屋を見た人は、大概「どこで生活してるの?」と言われる。

 確かに側から見れば足の踏み場もないくらい、地面に物が散らばっている。書類を置くことが多い机上からは雪崩をおこした書類が地面に滑り落ち、机周りの床を紙束で白くしている。

 他にも、料理中に読む本はキッチン周りに、トイレで読む漫画はトイレ周りにそれぞれ平積みされていたりする。家中、物で溢れかえっている状態だ。

 綺麗好きの人が見たら、きっと卒倒する光景だろう。

 それでも、僕はこの状態を不便だとは思わない。むしろ、こうしていないと僕は混乱してしまう。

 僕の記憶は、そこに置いたものと紐づいている。椅子に座って、右手を伸ばせば今抱えている仕事を思い出し、左手を伸ばせば先日行った映画の内容を思い出す。こんな感じなので、片付けられてしまうと、僕の思い出も綺麗さっぱり無くなってしまうじゃないか。そんな不安が、一層部屋をモノまみれにした。


 対して、僕の彼女は片付けが得意だ。

 彼女の部屋はいつだって整然としていて、ともすれば生活感がないと僕は思ってしまう程に物が少なく感じた。

 いつお邪魔しても塵一つない部屋に僕が足を踏み入れるのは、なんだかこの綺麗な空間を汚すようでやましい気持ちになる。

 本人曰く潔癖症ではないらしいし、僕のことをゴミ屋敷の住人ではなく恋人として認識してくれてるお陰で、今の所部屋にいることを許されている。それでも僕は、今着ている服が僕の家の埃やら何やらを引っ付けて来ていないか、内心ビクビクしてしまう。

 そんな片付け上手な彼女なので、僕の部屋に来る度に「片付け手伝おうか」と親切心で言ってくれたりもする。その度僕は、自分が好きで汚したものを片付けてもらうことが申し訳ないからと、やんわり断り続けている。もちろん、その気持ちも半分は本心だし、もう半分は片付けられることへの恐怖があったりもする。

 そんなこんなで、今でも僕の部屋は散らかったままだ。


 時折、僕は考えてしまう。

 僕は部屋が汚いから、色々なことを思い出すし、考えもする。手を伸ばしてそこにあるものが、僕の記憶も引っ張っって来てくれるからだ。

 ならば、彼女は一体どうやって、思い出を記憶してるんだろう?

 僕の混沌とした記憶とは違い、きっと彼女の記憶は部屋同様綺麗に整理された上で、あるべきところに保存されているんだろう。

 僕のように不器用に物を媒介しなくても、きっと脳内には記憶の索引録がしっかりあって、その索引を使えばいつでも特定の記憶を引っ張り出せる。そんな感じだろうか。

 僕には到底、そんな器用なやり方は真似できない。

 右手前に置いた美術館のチケットをな手でなぞる。彼女と初めてのデートが思い出される。僕が少し遅刻して、大袈裟なくらい謝り倒したんだっけ。彼女は特に気にもしていない様子で、そんな僕を笑って許してくれた。

 このチケットがここにあるお陰で、僕はいつだって新鮮な気持ちで思い出せる。

 結局、僕は不器用なままで、部屋は散らかったままだ。

 けれども、それのままでいいと僕は思う。

 大切な思い出を忘れないために、僕は昨日二人で行った動物園のチケットを、美術館のチケットの隣に置いた。

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