アルフォードの溺愛1
お読みいただきありがとうございます。溺愛モードに入って来ました。
クララがアルフォードに告げた期限が残り二ヶ月になった。
伯爵は娘を呼んで状況を尋ねた。
「アルフォード殿とはどのような感じだ?」
「どのようと言われましても以前と変わられたので戸惑っております。毎日顔を見せに来てくださいますし贈り物が増えました」
「好意を持っていると思うか?」
「よくわかりません」
「そうか、もう少し様子を見るか。気持ちがあるなら破棄してしまうのは考えものだ。かといってクララが不幸になることは絶対に望んではいない。婚約を楽しむくらいの気持ちでいて欲しい」
難しい事を言っている自覚のある伯爵は父としてそう言った。
十二歳の娘に判断をさせるというのも可哀想な気がするが、相性という面もあるのでないがしろには出来ない。アルフォードの事をもう一度調べてみようと思う伯爵だった。
アルフォードの生活は、朝早くから剣の素振りに始まり学院、その後はプレゼントの赤い薔薇を一本持ちスイーツなどを携えながらクララに会いに来て談笑をし、帰れば勉強と研究をするといった、優等生的な一日だった。
一時期学院でやっていた研究は休止していて、周りをウロウロしていた女子生徒もいつの間にかいなくなっていた。侯爵家が裏から手を回したのだろうと推察できた。
休日もクララを観劇や公園に連れ出しての散歩、町歩きも恥ずかしそうに手を繋いでいるらしい。報告を護衛から聞き、考えてやってもいいかもしれないと思う伯爵だった。
クララはアルフォードの事を綺麗な顔の婚約者だとしか認識していなかった。整った顔の男の子が自分に好意を示しているのが、何とも不思議な感じがしていたのだ。自分の容姿は悪くはないが、アルフォードに比べれば月とスッポンだ。
豊かな利益を持つ伯爵家の婿という立場が、魅力があるのだと思っていた。
だからアルフォードに相応しいのは、我が家ではなく、他の家の美しい令嬢なのではないかと密かに考えていた。
なのにどうして手を繋ぐだけでそんなに恥ずかしがるのか理由がわからなかった。色が白いので赤くなっているのがよくわかるのである。
今日はアルフォードの屋敷でお茶会だった。家まで迎えに来てくれ花の咲き乱れる庭園でメイドが最高級のお茶を沢山のスイーツと一緒にサーブしてくれる。眼の前には整いすぎた顔の青年になろうとしている男の人がいる。
このまま一生裏切られないで過ごせたら、この人でいいかなと考えが一瞬頭をよぎった。この頃友達に借りて読んでいる恋愛小説の影響だわとクララは思った。
お父様も仰ってた、婚約を楽しんでと。
今だけ、短い間だけ恋をしたつもりになるのはどうかしら。
この間まで見向きもしてくれなかったのに、今は好意を示してくれるのが不思議だもの。きっと覚めてしまう夢なのかもしれない。
クララはアルフォードを疑似恋愛の相手だと思うことにした。
そこへ短い髪をした爽やかなイケメンが近づいてきた。
「この令嬢が未来の妹殿?可愛いな。僕は兄のギルバートだよ」
「兄上、お帰りだったのですか?珍しいですね」
「ああ、今日は久しぶりにゆっくり我が家の食事を摂ろうと思って帰ってきたんだ。いつも慌しく食べているから。そしたら未来の妹殿が可愛い弟とお茶をしていると聞いたものだから、挨拶に来た」
「クララ・スタンレイと申します、よろしくお願いします」
「よろしくね、アルフォードは優しくしてくれるかい?何か困ったことがあったらいつでも相談に乗るからね」
「兄上、変な事を言わないで下さい」
「そうかい?御免。でも本当の事だから、頼ってくれたら嬉しいよ。これでも騎士の端くれなんだから」
「ありがとうございます」
「クララは僕が守るから兄上は気にしないでいい」
「ごめん、ごめん、邪魔をしたようだから失礼するよ。頑張れアルフォード」
「兄上は直ぐからかうんだから」
去って行くギルバートを見ながら
「お兄様と仲がよろしいのですね」
笑顔でクララがアルフォードに言った。
「うん、我が家は貴族にしては家族の仲がいいと思う、ありがたいよ。クララのところも仲が良いよね」
「はい」
「ねえ、兄を好きになっちゃ駄目だよ、僕がいるんだから」
甘い瞳で言われた。
「なりませんよ、どんな浮気者だと思っているんですか?」
まるで本気で口説かれているようだとクララは思った。
「兄上は格好いいからね、一番上の兄はモテすぎて女性不信になっているくらいだよ。心配だな」
「私なんて子供ですよ、相手にされるわけがないです。それにお兄様達に失礼です」
「クララが僕だけを見てくれるならそれでいいんだ」
この人は天然の女たらしなのだろうか、歯が立たないとクララは思った。疑似恋愛をしてみたいと思った自分を心の中で叱っておいた。
一方でライバルの存在に改めて気づいたアルフォードは気が気ではなくなっていた。父親のことだ、家のためなら婚約者の挿げ替えもするだろうと思った。
兄は浮ついたところがない良い男だと認識していたからだ。
ブリゼールの男は想い入れが強い、これと思った相手に執着するのだ。上の二人にはまだそういう相手は見つかってないようだが自分はクララが好きだ。何としても逃さないようにしないとと改めて決心したのだった。
帰りももちろんアルフォードが送り届けた。馬車を降りる時にエスコートをし、玄関の前まで送ると初めて指先にキスを落とした。
驚いたのだろう、クララは目を見張り真っ赤になっていた。なんて可愛いんだろう。アルフォードは心を鷲掴みにされた。
「また明日、クララ」
「はい」
クララはそう答えるのがやっとだった。急いで屋敷に入り自分の部屋へ向かった。今の自分に何が起きたのかよくわかっていなかった。
えっ、私指先にキスをされた?じわじわと顔が熱くなっていることがわかり、心臓もドキドキしている。初めての感覚だ。
十二歳の少女には刺激が強かった。
恋愛小説では恋人のドレスを褒めて手を取り合って、舞踏会へ出かける貴公子や騎士が指先にキスをしている描写が出てきていたが、まさか家まで送られた後にされるんなんて書かれてはいなかった。
なんて気持ちがふわふわする出来事なのかしら、これはほんの挨拶なのよ、勘違いをしてはいけない。マナーとしてされたのかもしれないもの。
部屋に戻ったクララは侍女が着替えの手伝いに入ってくるまで何も考える事ができなかった。
夜になりベッドの中で昼間アルフォードに言われた言葉を思い出していた。
兄上を好きになっちゃ駄目だよ、僕がいるんだから。
クララは僕が守るから。
クララが僕だけを見てくれるならそれでいい。
恋愛小説並みの甘いセリフだった。トドメがあのキスだ。ふわっとした気持ちはそのままで、甘さが体を侵食していき心地よい眠りにそのままついた。
誤字報告ありがとうございます。クララを自覚させるまでもう少しのところまで来ました。後少しです。