人生の大バクチ中です! このバクチに勝たなければ、わたしの人生終わります!
我ながらすげぇな……と思いました。完全にギャンブラーです! わたし、バクチ打ちでございます!
ギャンブルはキライです。自分の努力でどうにもならないコトに、大事なお金を賭ける気になれません。ですから賭博場へ近づいたことは、ほとんどありません。
生まれ育った福岡県には、公営の賭博場が3種類あります。3ヶ所もあるのは、全国でも珍しいそうです。ボートレース、競馬、あと一つはオートレースだったかな? あら? 競輪?? そうなると4種類ありますね……。すみません。ほとんど行ったことがないので、わかりません。 家から一番近いのはボートレース場でした。一度だけそこの特別観覧席へ行ったことがあります。知り合いの社長さんが招待券をくださった。ボートレースに興味はありませんけれど、お弁当がもらえる & 社会見学がしたいので突撃してみた。
週末の秋晴れの日にボートレース場へ行きました。言うと失礼ですけれど、冴えない格好をしたおじさんたちがひしめき合っていました。お天気の良い日曜日に家族サービスをするでもなく顔も洗わずバクチに一喜一憂するおじさんたち……。楽しいのですか? どこら辺が楽しいのですか?
おじさんたちの間をくぐり抜けて、特別観覧席の入口へ到着しました。さっきまでおじさんたちが芋洗いのようにウロウロしていたのに、ここには怖い顔をした警備員さんたちしかいません。トコトコ歩いてきたわたしを見て警備員さんは3人がかりで追い払おうとしました。そりゃ、そうだ。どう見てもお金持ちには見えない格好でしたから。わたしはジャージのポケットから招待券を出しました。そのチケットを見た瞬間、警備員さんたちは飛び上がって敬礼せんばかりの勢いで「あちらでございます!」そう言いました。場違いなヤツですみません。
頭を下げながら警備員さんの前を通りゲートを通過すると、エレベーターの前にスーツを着た男性がいました。すでにエレベーターを呼んでいて、にこやかにドアを開いて待っていてくださいます。「どうも……」ゴニョゴニョ言いながらエレベーターに乗り込むと、男性はドアが閉まるまで深いお辞儀をして見送ってくださいました。
最上階でドアが開くと、美しい女性が最上の笑顔で待っていてくださいました。レース場を一望できる広々とした部屋の全面ガラス張りの窓際席へ案内されると、大きな紙袋をくださいました。
ソウ:これは……何でしょうか?
女性:(ニッコリ)特別注文の幕の内弁当と、本日の記念品でございます。
ソウ:あ……りがとうございます。
でかいお弁当と、記念品をもらってしまった。記念品はボートレース場の名前が入った置き時計やボールペンなどでした。作るのはお高いでしょうけれど、ボートレース場の名前が入っているから使いにくい……。
ドキドキしながら席へ座ると、美しい女性が飲み物の注文を取りに来てくださった。ソフトドリンクが飲み放題らしい。クリームソーダをお願いすると、喫茶店で出てくるようなヤツが出てきた! これが飲み放題!? どういうこと!?
落ち着かない気分でソワソワしながら窓の外を見ると、大きなプールでボートが競争しています。その様子を地上のおじさんたちが息を詰めて見ている。はるか眼下でひしめく群衆を見ていると、自分が女王様にでもなった気分です。民草どもが一喜一憂しておるわ(← 失礼ですみません!)。
群衆は見飽きたので横目で室内を見ると、只者ではない方々がズラリと窓際席に座っていました。服装はカジュアルですけれど、一目で高価なお品だとわかる。そしてまともなサラリーマンには見えない。何をしてるかわからない自営業っぽいおじさんやおばさんたちが、冷めた目でレースを見下ろしています。その横には美しい女性やスーツを着た男性が、直立不動で立っています。お一人に一人、担当者が張り付いている。そしてどなたもお金を賭けているようですけれど、勝ったのか負けたのかわからない。レースが終わると地上で「おおお!」と大きなどよめきが上がるのですけれど、特別観覧席は静かです。誰も何も言わない。そして次のレースが始まる前に、お財布ではなくカバンから数十枚の1万円札を無造作に取り出す! そうなのです! お財布に入らないほどの現金をお持ちなのです!
あ然として見ていると、ろくに数えもせずお金を取り出して「〇ー〇を」と呪文みたいなことを言う。すると担当者が「かしこまりました」そう言って、券を買いに行く。自分で券を買いに行かないんだ……。すげぇ世界やな……。
イヤな予感がして後ろを振り返ると、わたしのすぐそばにも担当者の女性がいらっしゃった! えええ!? わたしも買わないとダメなの!? 女性はニッコリ笑ってくださいましたけれど無言です。別に買わなくてもいいらしい……でも……。わたしは震える手でお財布を取り出すと、なけなしの3千円を出しました。まさか券を買うとは思ってもいなかったから、予定外の出費です。
ソウ:おそれいりますが、これで〇ー〇をお願いします。
女性:(ニッコリ)かしこまりました。
そもそも賭け方がわからないので、適当な番号を言った。何枚買えるかわからないから3千円を渡したら、お釣りはなかった。すぐにレースが始まりました。数台のボートが勢いよく飛び出したけれど、どのボートに賭けたのかわからん。ぼーっとしている間にレースは終わったようです。女性が無言なので、どうやら負けたらしい。かまいません。こんな場所でヘタに勝ったらのめり込んで一生を棒に振りますから、負けて満足です。
本当は眺めの良い席でお弁当を食べて帰るつもりでしたけれど、早々に逃げ出しました。本物のギャンブラーたちが大枚をはたく横で、お弁当を食べる度胸はありません!! おうちへ帰って食べたお弁当は、すごく豪華ですごく美味しかったです☆
この時は尻尾を巻いて逃げ出したのですけれど、その後も頻繁に賭博場へ通うことになります。主にパチンコ店です。なぜか? なぜギャンブルをしないわたしが、パチンコ店へ通うのか?
きっかけは当時付き合っていた彼氏さんが、大のパチンコ好きだったからです。デートがパチンコ店で、わたしはずっと終わるのを待っていた。いま思えばそんなクソみたいなデートをするクソ男、捨てれば良かった! わたしのバカ!! バカなわたしは静かに本を読みながら、彼とパチンコ台のデートが終わるのを辛抱強く待っていたのです。そして彼がパチンコに勝ったお金で食事をご馳走してくれるのを、お腹をすかせて待っていた。
パチンコがお好きな方なら「あれ?」と思うかもしれません。まるでパチンコで勝ったお金で食事をするのが当たり前みたいな書きぶりだからです。そして実際、勝つのが当たり前でした。わたしは彼が負けたのを見たことがありません。いつも食事をご馳走してもらえるのが当たり前でした。
そうこうしているうちに、彼が周囲に自慢をし始めました。
クソ彼:マチと一緒にパチンコへ行くと、必ず勝てる!
これ、小さな頃も言われていました。両親や親戚がたまにパチンコへ行っていたのですけれど「マチが来ると勝つ!」そう言って、よく連れていかれました。両親も親戚もすぐパチンコに飽きたので行かなくなりましたけれど、それまで連行されていました(苦笑)。
大人になってからも同じことを言われたので、何らかご利益があるのでしょう。知らんけど。その噂を聞きつけたクソ彼氏の男友達たちが、こぞってわたしを誘うようになりました。そして実際、勝つらしい。噂が噂を呼んで、わたしは大人気になりました。けれどもパチンコ店で何時間も本を読むのは退屈です。最初は感謝されるのが嬉しくて付き合っていましたけれど、そもそも彼氏でもない人たちと出かける意味がわからん。イヤになったわたしは誘いを断るようになり、そのうちクソ彼氏とも別れました。
こうしてギャンブルとは無縁の生活を送るようになり、流れながれて滋賀県へ引っ越してからは、さらにギャンブルの機会は減りました。滋賀県の方は堅実な方が多いので、ギャンブル好きな方って少ない気がします。
そして紆余曲折ありましてシャレにならないビンボー生活を経て、作家ソウ マチが生まれました。作家とはいっても印税で生活していけるほどではありませんから、執筆活動をしながらバイトで生計を立てることにして先日、無事にバイトが決まりました♪ 良かった♪ 良かった♪
昨日はバイトを始めてから、最初のお休みでした♪ ゆったりとした気分で過ごして、ご機嫌さんでお風呂に入っていました。いろいろあったけど、何とかなったなぁ~! 崖っぷちから脱出できて、本当に良かった! これからは堅実な生活を…………、あら??
ソウ1:お金、バイト代だけじゃ足りないんじゃないの??
ソウ2:足りませんねぇ~。
ソウ1:どどど、どうすんの!?
ソウ2:ほかで稼ぐしかありませんねぇ~。
ソウ1:ほかって、なにさ!?
ソウ2:お忘れですか? わたしたち、作家ですよ?
ソウ1:作家って言っても売れない作家じゃん! どうすんのさ!?
ソウ2:ざっくりした計算で、年金や予定外の出費が足りません。
ソウ1:よく考えたら、お洋服とか買うお金もないじゃん!
ソウ2:ありません。バイト代で食費をまかなうのが精一杯です。
ソウ1:そんな生活、死ぬじゃん! どうすんのさ!?
ソウ2:ですから本を書いて印税を稼いでください。
ソウ1:印税??
ソウ2:そうです。わたしたちの生活設計には、印税収入も含まれています。
ソウ1:出せるかわからん本の印税が入ってんの!?
ソウ2:はい。本の印税が入らなければ、アウトでございます。すぐ路頭に迷います☆
お風呂でボーゼンとします。
ソウ1:くううううううう…………! どんだけ自分を追い込んでいるんだ!? 出せるかわからん本の印税を生活費に組み込むなよ! なんでそんな大博打をしたんだ!? 負けたら死ぬぞ!
ソウ2:人生なんてしょせん、バクチみたいなものですよ♪ 必ず勝ってくださいね♪ そうでないと路頭に迷って死にますから♪
わたし、ギャンブルは大嫌いだと思っていました。勝負に大金を賭ける人たちのことを、内心バカにしていました。ところがわたし、大金どころか人生を賭けていました……。バカだ。わたし、本物のバカだ……。
そして気づくのが、遅すぎる……。
今でもギャンブルはキライですけれど、このバクチには勝たねばなりません! 自分の人生をかけた大勝負に、勝ってみせます! えぇ、勝ちますとも! 負けたら即死ですから!!
どうぞ皆さまは、平和な人生を送ってください。…………わたしの分まで平和な人生を…………。