第9話 コレで身を守れ!
「あたしの役目は、管理されている風を装って、過去からきてしまった鬼達を、元の時代に送り帰す為の繋ぎをすること。
表向きには、鬼の超回復の力を利用した治療法で、怪我を治す仕事をしていて。よく怪我をする、子供たちとは仲良しなの」
なるほど、子供たちがよく懐いているようだったのには、そういう訳があったのか。
こんな未来でも、鬼達はなんとか生きている。だが────
鬼灯のこれまでの言動と、話してくれた一族の現状、そして長にはなれなかったという自分……。
俺の中で、何かが変化していくのがわかった。
これまでは漠然としていた目指す『道』……その目的地が見え始めた気がしていた。
「こっちよ」
鬼灯が案内してくれた場所は、小さいが美しい滝壺のある場所だった。
「ほぉ……」
時折射してくる木漏れ日は美しく、滝は涼しく心地よい感覚で、じわりと出てきていた汗を引かせてくれる。
「ここにある自然のエネルギーを借りて、道を開くわ」
そう言うと、首から下げていた黒い石のペンダントを右手で包み、左手を滝壺の水面に向けてかざした。そして聞き慣れない言の葉を紡ぎだす。
外国の言葉だろうか? 呪文とか、そう言った類のものなのか……
滝壺から、その付近から。何かエネルギーのような物が、その手に集まってきていることを静かに感じる。
紡がれる言の葉と、その情景が、共に俺の脳裏へと刻み込まれていく。
やがて、水面が白く輝き出すと鬼灯が言った。
「開いたら飛び込んで!」
開いたら、って何をどうやって判断するのか。
「開け扉よ!」
力ある言葉に呼応するかのように、水面の光は増した。
何かが開く──そう感じた時。
空からの殺気に気づいた俺は、咄嗟に鬼灯の手を引き、滝壺へと飛び込んだ。
それまで二人の立っていた場所は、黒く焦げている。そしてプスプスと音を立てながら、草木が燃え始めていた。
「なんでここが⁉︎」
そう言って、空を見上げる鬼灯の顔は青くなっていた。
いや、違う! この光は……!
「鬼灯!」
気づくも俺一人、何故か滝壺の中央へと見えない力によって引っ張られていた。空には今の攻撃をしてきた何かがいる。ここからで届くか⁉︎
「コレで身を守れ!」
俺は、ポケットから出したソレを鬼灯の頭めがけて放り、背負っていた金棒を空にいる何かに向けて投げつけた。
金棒は見事に空中のソレに命中し、爆発音と共に黒い破片が降ってくる。
だがソレさえ被っておけば、銃弾や拳大の石が直撃しても跳ね返す。
「俺の一張羅は! スンゲェ丈夫なんだぞぉおおおおお‼︎」