第4話 白虎の毛皮パンツ
どうぞ、というように女は手を出し、椅子に座るように促してくる。疲れたわけでもないので別に座る必要はないのだが、教えてもらう身として、敬意を表す意味も込めて俺は動いた。
まず、武器である金棒を入口横の壁に立てかけ、戦闘の意思はない事を示す。そして軋む音をさせながら椅子に座り、テーブルに右肘をかけて楽な姿勢をとった。見ると、女は俺のことを警戒すらしていないのか、目を瞑っている。
「ここは何処で、お前はなんだ?」
整えていた呼吸を、一旦飲み込んで女はこちらを見ると、
「人に物を尋ねる前に、まず名乗ったらどう?」
キッと睨みつけながらそう言った。
その瞳は炎の様に揺らぐ赤色で……。自分の目の色なんて見つめる機会はないのだが、何故だか“同じ”だと感じた。
それ以外にも気になる事はいくつかあるが……。ひとまず女……いや、鬼灯と呼ばれていただろうか。彼女に応えなければ──
「……それはそうだな、すまない。俺の名は“赤”だ。鬼ヶ島から来た」
俺は一旦目を閉じてそう答えた。
「アカ……って…………」
すると、鬼灯の纏う気配が険しいものから柔らかいものへと変化した。見ると、その目は驚いたように見開き俺を見つめていて。
どうかしたのか? と、その瞳を見つめ返すと、次の瞬間、堰を切ったように大口を開けて笑い出した。
「あーーっはっはっはっ! まんまじゃない! 赤って…………‼︎」
そういうと両手で口を覆い、肩を震わせこちらを見る。
何がそんなに可笑しいのか。
俺は、目も髪も、全てが赤みを帯びた色で。これ以上に自分を表すのに最適な名前はなかろうと思うのだが。
「わかりやすくて良い名だろ? 因みに鬼長は“青”だぞ?」
別に珍しい名前の付け方じゃない、と言うために長の事を話してみる。
「長……? 髪も目も、青なの……?」
「そうだ。おまけに青い物がが好きすぎて、青いモノ食ったりして腹下すようなアホだ」
「ふふっ……」
尚も笑い続ける鬼灯に、アホだが凄い奴なんだ、と伝えたくて俺は長の話題を続けた。
「そんなアホだが……奴は力だけじゃなく本当に強くてな。ある日突然、強さの最上級に位置する神獣『白虎』の毛皮が、月明かりで青く輝いて見えるからと言って、挑みにいった時は、心の底から呆れたが……。
戦って勝って、その毛皮でパンツ作るくらい、強い……」
長は一本角なのに、力だけではなく頭の回転も速い。神獣を倒すという事は紛れもなくそれを証明していた。
そして、その顔立ちは女達が黄色い声を出すほどに端正で。それが関係しているのかどうかはわからないが、一族全体からの求心力もある。
「先代の長を倒して、代替わりしちまうくらい強いところは……まぁ尊敬しているよ」
俺の言葉を大人しく聞いていた鬼灯は、右手を握りしめて壁に押し付け、こちらを見ていた。左手で口を覆い、目に涙を浮かべ、肩を震わせながら。