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プロローグ

「ねえ、この展示会を見に行かない?」

「《アウレンティ王家の秘宝》?宝石とかドレスとか興味ねえから、友だちと見にいってくれば?」


「私は毎日でも君に会いたいのに」

「……狡いぞ」


 ジトッと自分を見る少年に少女はニコッと笑う。


「ありがとう」

「はいはい」


 少年の承諾がよほど嬉しかったのか、少女はテーブルの上の広告チラシを手に取る。


「魔道具の展示エリアもあるみたいよ」

「え?何で?」


 少年の問いに首を傾げた少女は、答えを知るべくチラシの裏を確認する。


「展示品は五十年くらい前に亡くなったエドアルド王の遺品みたい」

「残虐王クラウディオの娘婿で、若いのに王位を退いて隠居生活していたんだよな。あのディア工房の創始者は彼の次男だし、その繋がりかな」


「ディア工房って、小さい頃から就職したいと言っていた工房だよね」

「そう。王の遺品になった魔道具か、すごいのがあるかもしれない」


「いい情報を持ってきた私に感謝してよね」


「ありがとう!」

「やだ、ちょっとこんなところでっ」


 そんな会話をする少年と少女のテーブルと植木を挟んで隣にあるテーブルでは品のよい老女が楽しそうに口元を緩めた。


「はしたないですよ」


 嗜めるような声と同時に手元が翳ったので、老女は机の脇に立つ人物を見る。

 背が高くて、体格のよく、白が混じる茶色の髪を角刈りにしている。

 騎士を思わせる風情だが、騎士にしてはやや年齢が高い。


「若いっていいわね」

「マリサ様も十分お若いですよ」


「五十点」

「え?」


「その台詞、使い古されていて独創性がないから百点満点中五十点。テオ卿、女心を学び直しなさい」


 憮然としたテオの表情にマリサは楽し気にコロコロと笑う。

 一通り笑い終えたマリサは立ち上がり、テオが止めるのも聞かずに自分でトレーを持って返却口に向かう。


「マリサ様、私が」

「いいのよ、ここはセリフサービスなのでしょう?ごちそう様」


 店員に気さくに声をかけると、カウンターにいた店員がにっこり笑いながら「ありがとうございましたー」と元気な声で応えた。



「若いってだけで素敵だわ。パワフルで、生気に満ちていて、こっちも元気をもらえちゃう」


「王妹殿下であったマリサ様が庶民に気安く声をかけるなど」

「そういう時代は終わったの。相手が誰であろうと、自分が何であろうと、感謝の気持ちはきちんと伝えなければいけないわ」


 自分の言葉に「はい」と素直に頷いたテオにマリサは悪戯っぽく笑う。


「あなたは自分でお茶を入れたことがある?」

「いいえ、ありません」


 兄である国王が自分につけた護衛騎士である。

 近衛もできる伯爵家以上の出身だと思っていたマリサの予想通りテオは首を横に振る。


「やってみるといいわ、難しいから。侍女を見る目が変わるし、お兄様なんてはまっていたわ」


「はまる?」

「同じ茶葉でもお湯の温度や蒸らす時間で味が全然変わるの」


「ご主人にも淹れてさしあげたのですか?」

「もちろん。旦那様と一緒にお茶を飲むときはいつも私が淹れていたの。私が作った苺のタルトがお好きだったわ」


「お茶はともかく、なぜ王家の姫君がお菓子作りなど?」

「自分たちの手で作ったものでなければ安心して食べられなかったからよ」


 屈託なく笑う姿とは対照的に殺伐とした言葉にテオは息を呑む。


「七十年前の城はかなり荒れていたのよ。私の父であるエドアルド王には正妃の他に側妃たちがいたでしょ?私の母もその一人だったけれど、側妃(かのじょ)たちはそれはもう気が強くてね。国王陛下(あにうえ)が側妃制度を廃止したのは、国を乱すからだと言っていたけれど、母たちの諍いを身近で見てきたからだわ」


 「王妃陛下(あねうえ様)は優秀で素晴らしい方だし」というマリサの言葉にテオは同意する。


「いまの穏やかな王宮からは想像もつきませんね」

「お兄様の初恋の君のおかげね」


「初恋の君ですか」



―――この女性(ひと)と婚約する。


 国王となる長兄には連日のように国内外から婚約の打診がきて、「我が兄ながらマメだな」と感心してしまうくらい長兄は律儀に全ての絵姿と釣書に目を通していた。


 そして長兄は自分の花嫁を決めた。

 『この女性(ひと)』といって見せられた絵姿に弟妹たちは「ああ」と納得し、父であるエドアルドが苦笑したことは五十年以上経ったいまもマリサの中でしっかりとした記憶で残っていた。



「エドアルド陛下の遺品の展示会のテーマは『初恋』でしたね」


 テオの言葉にマリサは黄ばんだ紙にたった一言だけが書かれた手紙を思い出す。



『僕と恋をしませんか?』

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