至高の料理
ここに一人、料理人が居た。
頭巾と白衣を纏い、料理場に佇む。
彼は苦悩していた。
世界各国数多の美食を喰らってきたが、どれも理想には程遠い。
最上の料理とは、誰しもを満足させるものとは……自分にしか作れない料理とはなんであろうか。
悩み続けた彼は一つの結論に達する。
赤身、脂肪、塩分、糖分、ミネラル。ハーブやなんかもたくさん食べさせて、体質管理を完璧に行い育て上げた肉を。
骨を煮出し、肉を刻み、臓を焼く。
スープは素材の味を生かすように薄味がいい。
肉を焼きすぎてはいけない。最高に仕上げた肉の旨味を閉じ込めるように。
これは自分の舌を満足させるためだけに作り上げた至高の一品。
もしかしたら、その美味を理解するものは現れないかもしれない。
けれどそれでもいい。
ひとくち、それを口に含む。
それでもいいのだ。
自分は、自分にしか創り出せない最高の料理を、最高の味を造り出した。
命が潰えるその瞬間、
骨を削り、肉をはぎ取り、臓を失った男の目から涙が零れ落ちた。
――さぁ、温かいうちにお召し上がりください。