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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
光なき星のトロイメライ
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見えない星(2)

 カフェテリアで見えない星のお互いの感触を語り合っているとシステムが時空間復帰(タッチダウン)反応を告げてくる。オイロニカの調査船が到着しコンタクトを取ってきた。


「分析は一緒にしたほうがいいみたいだわ。直結(ダイレクト)通路(パスウェイ)接続を求めてきてる」

 まずは打ち合わせ(ミーティング)からはじめねばならない。

「とりあえず挨拶と今後の方針決定かな。先方に探査の専門家はいると思う?」

「普通に考えれば連れてきてると思うけど。まあ、件の大学教授が直接降りたがるかはわからない」

「なんか押し強そうだよね?」

 フロドもデラと同じ印象を抱いているらしい。


 不安を口にしながらも、少年は寸分狂わぬ操船で調査船とランデブー。第一惑星の影というには少々離れているが、主星の影響を抑えた位置で接続する。


「ご足労感謝します、プリヴェーラ教授」

 惑星管理部のサキダル主任が出迎えてくれる。

「いいえ、これも私の職務ですのでお気になさらず」

「こちらが今回の調査団長を務められるオイロニカ国立大学天文学教授のスワード・ゼーニン氏。あちらが渉外担当をなされている外務政務次官ヘルミ・ケッチュ氏です」

「どうぞよろしく」

 それぞれと握手を交わす。


 ゼーニン教授は五十を超えているだろう紳士。ただし、挑戦的な顔つきからして野心家で権威主義的な部分を覗かせている。

 ケッチュ次官は三十一歳の若手政治家だと名乗る。年の近いデラに親近感を抱いた様子で朗らかに接してきた。少しふくよかだが顔立ちは整っている。


「そちらのクルーは必要なのか?」

 ゼーニン教授は眉を曇らせる。

「彼らは私の探査サポートチームとして扱ってください」

「とてもそうは見えないが?」

「重要なメンバーです」

 頑強に主張する。


 見るからに十代前半の子供が混じって、正確には半数を占めていれば不安にもなろう。一度は聞きながす。


「まあまあ、教授。デラさんは惑星探査でも実績ある学者さんです。専用の人員を揃えているものですよ」

 ヘルミが取りなしている。

「担当範囲の意見は聞こう。専門的な部分はあまり口出ししないでもらいたいが」

「基本的なプランはお任せします。問題になりそうなときは彼らの助力が不可欠となりますので悪しからず」

「それが君のやり方なら仕方ない。だが、過度な干渉は遠慮したい」


 どうやら誤解がある様子。サキダル主任やデラはどちらかといえば監督する立場なのだが共同調査くらいの感覚だと思えた。新事実発見の名誉を奪われたくないと考えている様子である。


(もう自国の管轄に組み入れてるつもりなのかしら。まだ申請は通ってないのだけれど?)


 彼にしてみれば第一惑星が炭素惑星で、ダイヤモンドの層を掘り当てて国庫を潤すことができれば歴史に名を刻めると思っていそうだ。邪魔されたくないという気持ちを隠してもいない。


(いけない。そっち方面でラフロが清らかすぎて、こういう人物が煙たく感じるようになってきてる。前はもっとあしらえたのにね)

 スイッチを切り替えなくてはならない。


「善処しましょう。それで、今のところのデータなのですが……」

「我々が来る前に調査を開始していたのか?」

 不快感を露わにする。

「事前の環境調査程度です。実際に降下するにも探査用アームドスキンを運用できる条件なのかどうかも重要ですから」

「確認してもらいたかったものだが取ったものは仕方ない。それで?」

「かなり特殊です。接近するにも慎重さを求められるほどだと感じました」


 鼻持ちならない言動をするゼーニン教授にサキダル主任は自重を求めるが改める気はなさそうだ。尊大な態度を崩さない。


(小娘に嘗められたら負けだと思ってそう)

 面倒なことになりそうだとサキダル主任を横目で見ると、目顔で謝ってくる。


「まだ、詳細分析前なのですが、わずかに昼の面の様子を写したものです」

「ほう?」


 そうはいっても普通の惑星のように昼の面と夜の面の区別がつかない。通常なら細く三日月状に見えるアングルなのに、すべてが黒い円盤としか写っていなかった。


「ご覧のように極めて反射率は低いのだと思われます」

 デラは立って大盤パネルを投影して示した。

「この距離でさえほぼ確認……、ん?」


 昼の面と思われる部分で赤い光がうねって見えた気がする。目を凝らすが本当だったかどうかわからない。見えやすいように輝度を上げてみる。


「なにこれ?」


 昼の面どころか夜の面でさえ赤い燐光が流れるがごとき状態が確認できる。それほど強い光ではないが、惑星全体で無数にうごめいているのがはっきりと見えた。


「オーロラ現象?」

「これだ!」

 ゼーニンが会議卓を叩いて立ちあがる。

「これこそが炭素惑星ではないかと私が推測した原因。我が大学の高性能望遠鏡がこの光を捉えている。どうだね、ヘルミ君?」

「ええ、お話しのとおりでしたわね。改めて確認できました」

「ほぼ確定だぞ」


 意味不明の会話が交わされる。オイロニカ勢だけで盛りあがっている様子をデラは怪訝に眺めた。


「すみません、ゼーニン教授」

 サキダル主任が切りだしてくれる。

「見識が足りず意味がわからないのですが、ご説明いただけますか?」

「わからないのか? これは単純な熱発光だよ」

「それが炭素惑星の証明になると?」

 専門家特有の自分だけわかっている状態である。

「説明してさしあげてくださいな」

「仕方ないな。第一惑星の地表はおそらく炭素粒子で覆われている。もしかしたらアモルファス状態で固着しているかもしれん。ゆえに反射率は異常に低い」

「アモルファス、なるほど」


 原子が単結晶や多結晶状態で規則的な配列をしていると表面は安定して光沢を持つようになる場合が多い。対して不規則な状態になっているのをアモルファスという。

 不規則なだけに乱反射を起こしたりスペクトル分解をして一定の色に見えたりする。正反射をしないということは反射率は総じて低く吸収率は高い。


「このアモルファス構造が第一惑星を見えない星(インビジブル)にしている。新たな種類のインビジブルだ」

 高説だといわんばかりに手を振りまわしている。

「それで、あの光は?」

「高温がゆえにアモルファス層の下には燃焼層がひそんでいると私は推察した。表層が割れると燃焼層の光が漏れてくる。すぐに冷えて見えなくなるがね」

「漏れでた光が先ほどのものだとおっしゃりたいのですね?」

 重ねて質問すると、鬱陶しそうにしている。

「いわゆるホットジャイアントであればこんな光は観測できない。気体金属の大気が吸光しているのだからね。断定したのが誰かは知らんが、見落としたか雷光と見間違えたのであろう。だが、この私の目は誤魔化せんぞ」

「ありがとうございます。理解いたしました」

「なに、説明するのも私の仕事だからね」


(あー、この人の講義受けたくないわー。半分以上が自慢話で終わりそう。得るとこなくってレポート書くのにも苦労するでしょうね)

 うんざりしてきた。


 しかし、説として否定材料を持っていないのも事実。現状、ろくにデータも揃っていないので推論さえも立ってない。そういう意味で彼女は実践派なのである。現地に飛び込んで自分の目で確認するまでは心証を決めない。


(面倒くさ)

 どうだといわんばかりに顎をそびやかして視線を送ってくる。


「わかりました。で、探査プランは?」

 彼女にはそっちのほうが重要。

「プランもなにもあるまい。接近して降下し、掘削してサンプル採取を行う。ダイヤモンド層まで到達すれば文句なしだが、どのくらいの深度に存在するかまでは予想がつかない。まずは炭素惑星だというのを確認するべきだろう。本格的な掘削は改めて機材を持ち込んでからでもかまわない」

「とにかく確認したいんですね。了解しました」

「協力を頼む」


 鷹揚なつもりのゼーニン教授に、デラはさらにうんざりした。

次回『見えない星(3)』 「根拠を示したまえ、根拠を!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……あぁ……自分を有能(頂点)と思っているタイプかぁ……。 で、自分から依頼しておいて見下している、と。
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