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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
光なき星のトロイメライ
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パーティーから宇宙(3)

 ジャナンドを家族のところに帰してからも学者たちはなんだかんだと議論を交わす。程よい肴が持ち込まれたみたいなものだ。


「掘って出てきたダイヤモンドが少しくらい減っていてもわかんないわよね」

 デラも調子に乗る。

「だって試料だもの」

「先輩、それヤバいです。きゃははは」

「んはははは、なに買うつもりなんだよぉ?」

 完璧に酔っぱらいの会話だった。

「もっと大きな家に住んでやる。研究室も作っちゃうんだから」

「ヤベえぞ、フェフ。星間(G)保安(S)機構(O)に通報だ」

「時々差し入れしてあげますからね、先輩」


 フロドやノルデも笑い転げているが、ラフロはいつもどおり物静かに座っている。青年はほとんどアルコールが効かないタイプらしい。


「ちゃんとベッドまでたどり着きなさいよ」

「先輩こそ」

「僕ちゃん、自信ない。泊めてよ、デラ女史ぃ?」

「そんな危ないことできないわ」

 二人もオートキャブを呼んで送りだす。

「どんな話になるかわからないから、あなたたちは泊まってなさい。部屋はあるから」

「いいのな? じゃあ、お言葉に甘えるんな」

「デラをベッドに送り込む仕事もありそうだしね」

 足元が怪しい彼女を青年と少年が支えてくれる。


 記憶があるのはそこまで。朝目覚めるとデラはベッドでシーツに包まっていた。なぜか黒髪の美少女を抱きかかえながら。


「あれ、ノルデ?」

 憮然とした面持ちで美少女が睨んでくる。

「ノルデは汚されたんな」

「うえ?」

「初めてだったのな」

 そこまで言われてデラは「えう!」と悲鳴をもらす。

「わ、私、なんかした?」

「無理矢理ベッドに連れ込まれたんな。抱きしめられて……」

「ううっ!」

「眠ったんな」

「なんもしてないじゃない!」


 酔っ払っていた彼女はノルデを抱き枕にしてしまったようだ。脳の擬似生体部分の構造上、睡眠が必要な美少女義体はろくに眠れなかったらしい。


「ご、ごめんなさい」

 平謝りする。

「酔い方が悪いんな。客用寝室を普通に案内してるから意識はあるのかと思ったら豹変したんな」

「ちょっと羽目を外しすぎちゃったみたい。夕べは楽しくって」

「祝った甲斐はあったみたいなんな」

 不機嫌を演じていたノルデは一転して微笑する。

「肩書に見合った大人に見せようとして、友達いっぱい集めてパーティーなんてずっと敬遠してたかも」

「気が緩んだのな?」

「私の仕事なんてほとんど役に立ってないでしょ。社会を壊しかねない敵を狩ってたりしないわけだし」


 彼らに比べたらたいしたことはしていない。研究成果が後世の誰かに使われることがあっても直接救うことはないのだ。


「勘違いしたら駄目なんな」

 美少女は表情を改める。

「ノルデたちのやってることは対症療法に過ぎないのな。技術開示以外で人類の発展に寄与することはないのな」

「そっか。今誰かの命を救うか、未来で誰かの命に貢献できるかの違いなのね?」

「デラのやってることはすごく遠回しなんな。でも、将来多くの人を幸せにできるのな。それはラフロにはできないことなんな」


(今守ることはできなくても、いつか守れるかもしれないのね。役割が違うだけ。今できるとしたら彼らの役に立つこと)

 具体的には知識を役立てること。


 彼女は気合いを入れなおす。まずはすっきりすべくシャワールームに駆け込んだ。酒の匂いを肌に残したままでは格好がつかない。


「あ、そうだった」


 いつもの調子で、下着姿でリビングまで行くとラフロとフロドが昨夜の後片付けをしている。足を止めないわけにもいかない。


「食器は洗浄機に放り込んでおいてちょうだい」

「うむ、そなたが済んだのなら順番にシャワールームを借りてよいか?」

「ええ、好きに使って」

 そのまま歩いて自室に向かう。

「家族みたいな会話はどうかと思うよ、兄ちゃん」

(われ)が恥じても仕方あるまい」

「そうだけどさ、僕が恥ずかしがるのが変みたいになっちゃうじゃん」


 そんな会話を背に部屋に戻って髪を乾かした。休暇中なので私服を着る。


(思春期の少年には悪いことしちゃったかしら?)

 ちょっと反省する。


 正直、ラフロ相手だと下着姿くらいでは動揺しなくなってしまった。彼がなにも感じてないのなら恥ずかしがるだけ無駄である。


(はしたないって思わないのは問題かな。やっぱり私って結婚には向いてなさそう)

 自嘲する。


 残った二日の休暇は三人をメルケーシン観光に連れていって終わった。休暇明けも一緒に大学に行きゼミの生徒に紹介する。さすがに大剣を持ち込ませるわけにはいかず丸腰の青年は引かれることもなかった。


「本当だったんですね、教授?」

「なんのこと?」

「フィールドワークに夢中なのは、護衛の彼が美形だからってもっぱらの噂なんですよ」

 少しびっくりするが、女子生徒を軽くあしらう。


 青年を深く知らねば、ただの古風でクールな男に見えるだろう。女子に囲まれて騒がれても舞いあがるような感情を持ちあわせていないだけ。

 武道関連の専科に興味を示したので連れていったが、剣を持たせなくとも彼に敵う者はいなかった。格の違いを示しただけで終わる。実戦の経験値がものを言う。


 そうしているうちに見えない星(インビジブル)の件の正式要請がデラのところまで届いた。予算が組まれてイグレドへも依頼が行く。


「気前がいいのな。補給品は食料まで全部サービスなんな」

 出発準備を整えながらノルデが言う。

「依頼料から引かれるんじゃない?」

「そっちも前払いだったんな。手当てが発生したら追加請求も有りだって言うのな」

「名前も知らないお偉いさんが絡んでるわね」


 おそらく、その人物はヴァラージのことも知っている。ゼムナの遺志が内々に処理してくれていることへの感謝の証なのだろう。


(こうしてみると、星間管理局って色んな形で人類圏を守っているのね。予算の使い方が不透明だって騒ぐメディアも居るけど、お金が掛かって当然かしら)


「いいなぁ。僕ちゃんも行きたかったのに」

 メギソンから通信が入る。

「あなた、例のパルサー関連論文の説明会があるじゃない。そればかりは外すわけにはいかないでしょう? 頑張ってらっしゃい」

「インビジブルだろうが炭素惑星だろうが面白いことに変わりないのにさぁ。しっかり記録残してきてちょ」

「調査項目リスト送って寄越しなさい。お土産に結果を持って帰ってあげるから」

 消沈しながらも「気を付けて」と送りだしてくれる。


 デラは再び宇宙の旅人になる。パーティーからちょうど一週間のこと。彼女の人生はしばらく波乱万丈から抜けだせそうにない。


「宙区支部でサキダル主任を拾わないと駄目?」

 一度目の超光速航法(フィールドドライブ)が済んだところでフロドが訊いてくる。

「別口でオイロニカの調査団と合流して来るって。イグレド(うち)は直接ソニタ・リリ星系に向かえばいいから」

「了解。就寝時間は跳ばないで十日ってところかな?」

「コアブラックホールの向こう側だものね。時間掛かっちゃう」


 超光速航法(フィールドドライブ)の正確性限界距離の所為で、星間銀河の中心にあるブラックホールを迂回していかねばならない。それだけ距離が嵩んでしまう。


「まあ、のんびり行きましょう。焦ってどうなるわけでもなし」

「メルケーシンで仕入れたケーキが冷蔵庫に山ほどあるのな。早く消費しないといけないのな」

「そっちで忙しいの!?」


 甘いものを食べたり、肌身離さず持ち歩いているヴァラージ試料を調べたりしているうちに現地へ到着した。問題の惑星(ほし)は近くにあるはずだったが。


「まー、見事に見えないものね」

「ほんと。星が遮られてないと、そこになにかあるなんて気づかないかも」


 デラの目の前には真っ黒な円盤が置かれているかのようだった。

次回『見えない星(1)』 「は、ガルドシリーズ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 さて、”大山鳴動して~”にならないと良いのですが……。
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