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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
暗き雲のオーバチュア
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ラフロの敵(3)

 開示可能な情報をノルデから受けて、星間(G)平和維(P)持軍(F)戦闘艦アスタメリアは岩石甲殻型ヴァラージ討伐作戦を実施する。とはいえ有効な対抗手段が講じられるわけでもなく、ブリガルドを主としてGPF機がサポートするという単純なもの。


(要はGPFが探索発見までをやってラフロに倒してもらおうって作戦よね)

 星間管理局本部の方針に沿うとそうなる。


 イグレドは発見場所に赴くため、デラとメギソンはアスタメリアに移乗するよう求められたが拒んだ。ここまで来たら意地だ。見届けないと気がすまない。


「無理することないのな。イグレドは大っきめの中継子機(リレーユニット)みたいなものなんな」

 GPF機への指揮中継点の役割もある。

「学者の目でリアルにヴァラージを見ておきたいの。なにか気づきがあるかも知れないでしょう?」

「見方の違いで閃きがあったりするのは認めるんな。でも、危険なのなー」

「ラフロより全然安全よ」

 直接対峙する青年を示す。

「物好きなんな。ラフロはそのために磨いてるのな。覚悟が違うんな」

「そーそー。後ろにいてもいいと思うんだけどねぇ」

「だったら、あなたはアスタメリアにご厄介になれば?」

「女性を置いて逃げだせるほど僕ちゃんも根性無しじゃないんだよ」


 メギソンもイグレドから退避していない。軽口を叩いているが、彼なりの覚悟で臨んでいるのだろうとデラも感じている。


(知らないほうが怖ろしい。学者の性分みたいなものかしら)

 一般人から見れば命知らずにも映る。


「でもさ、よくこの作戦に許可出したよね、ノルデちゃん」

 メギソンの口元には皮肉がよぎる。

「GPF機を分散させればどこで襲われるかわからない。もし因子を植えつけられたりしたら新しいヴァラージが生まれるかもしれないじゃん。リスク高すぎない?」

「あのヴァラージは中身なしで腹を空かせてるんな。小細工抜きの本能だけで動いてると思うのな。すぐに食いついてくるんな」

「疑似餌をばら撒いたってことかい?」

 怖ろしい考えに至る。

「GPFパイロットも怖ろしさを知ったんな。無駄に抵抗せず、引き寄せるのに注力するのな」

「ま、あんな話聞いて功名心を掻き立てられる脳筋じゃGPF隊員は務まらないだろうけどさ」

「なんなー」


 GPFの任務は多岐にわたる。機転が利かず即応性に欠けるようでは早晩現場を外されるだろう。生き残っているということはそれなりの人材だと考えていい。


「AT4よりアスタメリア、エリアB3探索終了。接敵なし。予定どおりB4に移るか?」

「AT4、B4はAT3が入った。B7へ飛べ」

「B7了解。移動する」


 イグレドを介して命令会話が伝わる。索敵状況も操縦室で監視できた。次々と宙域マップが埋められていっている。


「この辺りにまだ残ってるかしら? 他に移動してない?」

 デラは裏をかかれるのを危惧する。

「あれはきっと暗黒星雲の原始アミノ酸とかを捕食して成長してるのな。そこに急に餌が現れたんな。本能的に食わずにいられないから待ち伏せしてるはずなのな」

「人類圏に放り込まれる個体とは行動様式が異なるってことよね?」

「迷い込んだとは思えないんな。ここに配置されていたのな」

 フロドも頷いている。

「たぶん罠だよね?」

「いつ掛かるかわからない獲物を待たされていたのな」

「どうあれ斬らねば片付かぬ」


 コクピット待機しているラフロも通信パネルで意見を挟む。存在が露見した以上、放置はできない。


「AT2、エリアA6で接敵! やっぱり居やがったわよ!」

 潜伏濃厚と思われたエリアで発見の報。

「無茶すんなよ、ライラ。引っ張ってこい。目にもの見せてやる」

「あんたんとこじゃないわ。剣士のとこに連れてく」

「少しは戦友を頼れ」


 にわかに騒がしくなった。餌になった編隊(チーム)をフォローするようにマップ内のアームドスキン隊が道を作っていく。逃さないようブリガルドへと案内するために。


「食らいやがれ!」


 接敵した編隊(チーム)は生体ビームを回避しつつ、イグレドから発進したラフロの待つ予定ポイントへ。他のGPF機は微妙に照準をはずしたビームで岩石ヴァラージが逸れないよう牽制。

 ビームのトンネルを通過するヴァラージからは追跡するアームドスキンだけが見えているはず。その三機が花開くように散開。そこには上段に独自の構えをとる赤銅色のアームドスキン。


「はぁっ!」


 青年は一撃必殺の気合いとともに大剣サイズのブレードを振りおろす。ヴァラージは急制動をかけると、二本の螺旋の光を前にクロスして受け止めた。派手に紫電が舞い散っている。


「もう、あれ厄介ね! ビームを防ぐだけじゃなくてブレードまで」

 それで決まってほしかったデラは嘆く。

「それだけじゃないのな。あれが推進機でもあるんな」

「うそ!」

「ヴァラージは力場コントロールに長けてるのな。スラストスパイラルは宇宙に満ちるダークエネルギーに直接斥力を発揮できる器官なんな」

 信じられない説明がなされる。

「それ本気? ダークエネルギーの利用って昔から研究されつづけてるけど、未だに理論の域を出るものはないのよ?」

「実用化はされてるのな。重力波(グラビティ)フィンはダークエネルギーを重力子変換してるんな。なにも無いところから重力子(グラビトン)を生みだせるわけがないのな」

「冗談でしょ」


 現在、普及しつつある重力波(グラビティ)フィンの機構はコピーに過ぎない。理論解明は並行して行われているところ。運動力学関連の学会の公式見解では、ダークマターを重力子に転換しているのではないかといわれていた。


(それだと総量がどうこうとか異論も出ていたわよね)

 思いがけないところで事実を知る。


 考えに没頭しそうになってハッと頭を上げる。ラフロはヴァラージと叩き合いになっていた。本体から20mほどしか伸びない光の鞭だが、両腕の二本を剣で捌ききって拮抗している。


(紫色の火花が散るってことは、あれも力場でできたもの。扱いに長けているっていうのは本当みたい)

 力場を湾曲させるなど人類文明の域を超えている。


 白色のビームも発射されてブレードで弾く。剣一本ですべてを防ぐ青年の技量はデラはもちろん、GPFパイロットたちにも想像さえ敵わない領域。密接しているのもあって誰も手出しできない。


「兄ちゃん、頑張れ」

 フロドも手に汗握っている。

「そいつは腹ぺこなはず。耐えきればきっと動けなくなる。そうだよね、ノルデ?」

「わからないのな。でも、溜め込んでいないかぎり可能性は高いのな」

「スタミナで上まわれば勝てる」


 鋭い斬撃が鞭を半ばから断つ。しかし、実体を持たない光の鞭は再生されてしまう。ただ、それだけ消耗はさせているはずなのだ。


「早く潰れろ、早く!」

「焦ったら駄目なのな、ラフロ」


 拮抗の中に変化が生まれる。岩石ヴァラージが首元の甲殻の隙間から触手を伸ばした。ブリガルドはそれも斬り裂く。


「いいぞ。お腹が減って耐えきれなくなってきたんだ」

「もう一息な!」


 放たれる鞭を弾き飛ばしながら迫るラフロ。ところがその後ろで異変が起きる。切り離された触手が収縮すると、急速に外殻を構成したのだ。


「分体!」

「危ないのな!」


 そこからも光の鞭が伸びてブリガルドの背中を襲う。警告に反応した青年は身をひるがえして防いだ。しかし、その間に本体が離脱して飛び出し、イグレドのほうに向かってくる。


「ひっ!」

「迎撃するから兄ちゃんは分体を!」


 フロドがロックオンする。ところがラフロは分体を無視して背後に追いすがっていた。大振りな一撃を螺旋で払ったヴァラージは加速が弱まる。

 カメラアイが無事を確認すべく操縦室を見ている。しかし、背後に迫った分体がブリガルドの左の重力波フィン発生機を巻き取って破壊した。


「ラフロ!」


 青年の危機にデラは悲鳴をあげた。

次回『ラフロの敵(4)』 (食べられてしまう!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ”未知は恐怖”か……。 なまじっか存在を知ったから……。
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