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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
故郷の星のカンタータ
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異邦の学者(2)

 ともあれ探査に出向くイグレドとガルドワの小型艇。緑に覆われた山岳部が有望とされるので上空から確認するが、全体にのっぺりとしていて見分けがつかない。


(久しぶりに本業に戻った気がする。らしからぬことばっかり考えてたから頭が働かないわ。勘が狂ってるかも)

 デラは目星さえつかない状態に閉口する。


「動かなきゃはじまらない。足で稼ぐ。サンプリング開始よ、フェフ」

「はぁーい」

 後輩も動員している。


 ブリガルドも随伴しているがまず危険はない。今さら後継争いのためにデラに手を出してミゲル王の不興を買うものはいないだろう。肉食獣は多いそうだがラゴラナを齧れるような怪物は存在しない。


「プローブワイヤー撃ち込んで。データをこっちにリンク」

「撃ちまーす」


 先端に振動ピックを備えたプローブワイヤーを地面に撃ち込む。周囲の電位抵抗値からどのような鉱物が含まれているか判別する機材である。

 事前の超音波エコーで密度の高い岩盤はないとわかっているので50mのワイヤーはすんなりと入った。システムがデータ解析を行う。


(目的の希土類っぽい反応は出てる。地表近くだけだからいいんだけど微量ね。これでは採掘する意味はほとんどない)


 予想される鉱物から含有量を推定する。採掘からの精製コストが莫大になるでは話にならない。そんなのはただの森林破壊である。


「はずれ。移動しましょ」

「了解でーす」


 数ヶ所のサンプリングを行うが結果に差異はない。広く埋蔵されているだけで商業的価値はないのかとも考えられる。高山部や谷あいなど、様々に調べてみるが見込みがありそうな場所にさえ当たらない。


(これは厳しいかも。あくまで想定されているだけだものね。一様に地表付近に反応が出てるのは気になるんだけど)

 ミゲルを落胆させる結果しか出せないかもしれない。


「駄目ですか」

「ま、こういうのは地味な作業よ。何日か掛けて当たりを引けばもっと大規模な調査につながるとかそんな感じ」


 地質学のフィールドワークなど地味このうえない。広大な土地に意味を求めてさまようような状態の連続である。


「難しい、デラ?」

 追尾するイグレドからフロドが訊いてくる。

「悪いけど結構時間掛かりそうよ。日暮れ前に一旦撤収して、何日分か食料を補給したほうがいいかも」

「そっか。クレソさん、植生がどうとか言ってた気がするけど」

「大きく違いが見られるところがないのよね」


 彼女も素人ではないので気にしている。スポット的に変化が見られれば狙い目だと気づけるのだがそれが見当たらない。


「見た目が変わらない植物だったらアウトか」

 少年は納得する。

「わたしもそっちは専門じゃないので目が肥えてないんです」

「フェフには無理ね。専門家を呼んでこないと」

「見分けがつかないと厳しいよね」


 ラゴラナを低空で飛ばせているものの、流れる木立をそれぞれ判別するほどの鑑定眼はない。全体に緑としか感じられない。


(ん、専門家? もしかして……?)

 デラはちょっと引っかかる。


「フロド、アレサ植民当時の記録ってない?」

「あるよ。昔の媒体だったけどデータライブラリ化して残されてる」

 やはり存在していた。

「それ、手に入る? かなり詳しい調査、それも専門家を動員して行ってるんじゃないかと思うんだけど」

「大丈夫。オープンになってるから」

ラゴラナ(こっち)にまわして」


 入植時は詳細調査を行うもの。星間銀河圏でもそうだが、未開時代のそれはさらに際立つ。人は貪欲なもので、利用できるものは利用したい。植物も素材的価値から薬効的価値まで極めて詳細に調べるのがどこでも見られる傾向である。


「植物の成分抽出データ……、有ったわ。この中に目的の希土類を含むものは、と」

 ピックアップしていく。

「あー、これ、どうやったって見分けつかないやつ。混在してると自動光学認識でも引っかからないかも」

「無理そう?」

「ゆっくり飛んでスキャンできるけど、引っかかる分調べてれば今やってることとそんなに変わらないレベル」


 現在の植生と比較して、葉の形に顕著な特徴が見られない。光学走査して類似種をピックアップしても、行きあたりばったりと変わらない内容になるだろう。


「せめて当たりをつけてそこの植物を見極めてからって感じにしないと、この広い森林地帯から見つけるのは至難の業」

 経験が物語っている。

「当たりかぁ。ねえ、希土類に特質とかってないの? 例えば電波だったりレーザー走査だったりに反応するとか」

「そういうのあったら最初からやってるわ。プローブワイヤーでもいいから直接触れないとどうにもなんない。強いていえば、軟質だから風化に弱いくらいかしら」

「風化!」


 フロドはなにかに気づいたように慌ただしく手を動かしはじめる。イグレドが高度を上げたかと思うと、滞空するアームドスキンを追い越して進んでいく。


「あそこ! リンクに反映。ナビも」

「任せるんな」

 すぐにラゴラナにもポイント表示が来てナビスフィアも投影される。

「そこで植生チェックしてみて。ちゃんとね」

「ええ、いいわ」

「予想が正しければ……」


 身軽なデラたちは再びイグレドを追い抜いてポイントに到着する。樹木の同定チェックをすると100%近い数値を叩きだす。


「当たりだわ、フロド。どうやったの?」

 急に目覚めたみたいに見分けたのは不思議である。

「昔の地形データから3Dモデルを作って二重表示(ラップ)させたんだ。大きく沈降している山や丘があればそこが怪しいかもって」

「たったあれだけの時間で? 信じられない」

「そんなに難しいことかな?」


 ラゴラナを降下させてプローブワイヤーを撃ち込む。今度は顕著な反応があった。かなり深いところまで目的の希土類の埋蔵が確認できる。


(そうか、表層分布は流出分だったのね)

 雨風などで広く散逸しているのだ。


「大当たりよ、フロド。さすが操舵士(ステアラー)、視野が広いわね」

 すぐに連絡を入れる。

「よかった。これで外してたら恥ずかしいことになってたよ」

「とんでもない。見事な観察眼よ。それがあなたの秀でているところ」

「観察眼?」

 少年の長所と確信した。

「ちょっとしたヒントから予想して、即座に意識に反映させて見極める。そんなのは誰も彼もができることではないわ。培ってきた技量から新しく生まれたもの」

「僕の良いところ?」

「そうよ。あなたはもう拾っていたの。これからもきっと多くのものを拾うわ。そして、いつかはお父さんでもお兄さんでもない唯一無二のあなたになるのよ」


 父や兄に追いつき追い越す必要なんてどこにもない。フロドはフロドとして誰かになればいい。そのときなにを成すかは本人次第である。


「そうか。そうだね。ありがとう、デラ」

「別に私はなにもしてないわよ?」


 自分で成長したのだ、とデラは涙声の少年に告げた。


   ◇      ◇      ◇


 地形変化と植物の同定チェックで採掘場所の選定法は確立した。ミゲル王はガルドワと貿易協定を結び、中長期的な歳入を確保する。

 その変化は星間管理局にとって芳しい結果ではなかった様子。デラはメイサに冷たい眼差しを受けることになった。


(勘弁してほしいわ。私は仕事をしただけじゃない。別に管理局に有利な結果を出さなきゃいけない立場ではないもの)

 心の中で不平をぶちまける。

(とんだ災難よ。カレサ王国だけでどれだけの勢力のどんな思惑が絡み合ってるんだか。面倒な交声曲(カンタータ)に巻き込まないでくれないかしら)


 人知れずため息をつく。送別パーティーの席でうんざりしていると、背後から大きな気配を感じる。


「感謝する、デラ」

「いいのよ、ラフロ。大事な弟なんでしょう?」


 デラはその言葉だけでも報われた気がした。

次は「暗き雲のオーヴァチュア」『暗黒星雲の謎(1)』 「空っぽの揺り籠とは言い得て妙だねぇ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 弟は学者向きか?
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