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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
故郷の星のカンタータ
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喜劇の姫君(3)

 ミゲル王に頼まれ、デラたちはもう一つの領土、惑星アレサに出向く。フェブリエーナからの調査要請や王子による視察、それと王の言っていた先方はアレサに用があるらしい。すべてを兼ねてイグレドで移動した。


「あっついわねー」

 主星の光に手をかざす。

「若干湿度が高いですもん。こっちのほうが水が多いみたいですね」

「緑が多いものね。二重惑星でも多少の違いはでるわ」

「その分、生態系は生に近いです。楽しみ」


 カレサの後継争いなど眼中にない後輩はのんきなもの。的になってないと自覚していそうだ。


(フェフが先輩として立てる分だけ、力関係が上だと思われてる。開明的なミゲル王が星間管理局に重きを置く以上、発言力が大きいと思われてる私の動向が注視されてるんだわ)


 現実は異なる。デラは地質学上の発言力しかないし、フェブリエーナには生物・生命学上の発言力しかない。管理局に影響力を持っているとしたらノルデであり、その協定者であるミゲルだという仕組みを市民は理解していないのだ。


(たぶん私がラフロとフロド、どちらを選ぶかで両派はリードできるつもり。そんなわけないのに)


 実際は違ってもそう思っているのが肝要なのだ、イクシラ妃にとっては。それを利用してなにかを動かそうとしている。


「きゃー、ラフロ様ー! こっち見てー!」

「ラフロ殿下ー! 素敵ぃー!」


 ラフロのスタイルは変わらない。総督府へと向かう彼らのリムジン型リフトカーを警護してブリガルドで上空を押さえているが、青年への声援はカレサのそれを上回るものだった。


「アレサは尚武の気風が強いからね。兄ちゃんの人気はすごいよ」

 フロドが説明してくれる。

「ほんとですね」

「剣を持たせれば無双っていうのがここの市民には刺さるわけね」

「まだ凡庸な僕なんか眼中にないね」


(「まだ」って言えるようになったんだから大丈夫よね)


 厳しくもしたが意味はあったと思う。広い後部座席ですぐにデラの隣に座ってきたところをみると以前より頼られているかとも感じた。


「ずいぶん登るわね」

「アレサの総督府は山城になってるんだ」

 坂道の途中から見あげる。

「そういえばアレサ入植は星間銀河圏加盟以前の話ですもんね?」

「うん、当時はまだ軍事車両も車輪がついてたし、ピンポイントに大量の人員を運べるほどの航空機はなかったから。伝統ってのもあるけどさ」

「あの軌道エレベータはまだ機能してるの?」


 山城に軌道エレベータ、反重力端子(グラビノッツ)搭載船舶用宙港とカレサ王国の宇宙史を凝縮したような光景が見られる。中央を離れると、依然として目にする機会も少なくない。


「あれもケーブルの寿命までだと思うよ。維持コストも馬鹿になんないもんね」

「それまでに経済活動を移行しなさいってことね」


 使用頻度の下がった軌道エレベータは維持費で運用コストを圧迫してくる。通常エンジン出力だけで大型航宙船舶でも大気圏の離脱や降下を可能にしたグラビノッツは景色をも変えていく。


「昨今の技術的新陳代謝は激しいですもん。学者も負けていられませんよ、先輩」

「そのお陰で研究が進むんだから最初から負けてるって自覚なさい」

「そうでした」


 彼ら学究の徒も恩恵に預かっている。ラゴラナ抜きでできるフィールドワークも最近は減ってきた。


「誰かさんが色んなものをもたらしたお陰でね?」

 美少女を横目で見る。

超光速航法(フィールドドライブ)は人類にはちょっと早かったかもしれないんな。効率を重視してしまったから逆に宇宙を狭くしたのなー」

「生活する場所と資源、この二つがあれば人は生きていけるものね。そこだけを行き来するようになっちゃったわ」

「変えるのな。宇宙はもっと面白いものなー」

 ノルデは両手を広げる。

「ええ、私たち学者が率先して宇宙を広くしていかなければいけないわ」

「面白いね。僕も手助けしたいな」

「もちろんよ」


 そんな話をしているうちにリムジンは坂を登りきった。エントランスで停車するとブリガルドも傍に降着姿勢をとる。


「よくいらしてくださいました、ラフロ殿下」

 初老の男が出迎える。

「グラガ、世話になる」

「なにを申されましょう。殿下に逗留いただけるなど光栄の極み。皆が歓迎いたしておりますれば、ごゆるりとアレサをお楽しみください」

「いや、仕事で来たのだ」


(わかりやすい人。ラフロを先に行かせて正解)

 デラたちが出しゃばれば不機嫌になったかもしれない。


 男はグラガ・セルフェニーべ、アレサ総督を務めている。青年が脇に立つとようやく自己紹介をしてきた。彼の中での順位付けは明白だ。


「ほらね」

「たしかに」

 少年がこっそりと言ってくる。


 フロドの進言に従って動いたことで図式が明確になる。ラフロの次がノルデでそのあとがフロド、それ以外は諸々なのだ。学者二人の肩書も耳に入っていない感じがする。


(お願い事はラフロを通したほうが早そう。それで丸く収まってくれると楽なんだけど?)

 済みそうにない気がしてならない。


 グラガ総督の角は若干長く、ねじれも入っている。王国内でも少し違う人種のようだ。市民も同じ人種が多数派で、彼の周囲も固められている様子。一筋縄でいきそうにない。


(どうも、こっちがラフロ擁立派ね。この後継争いが激化しようものなら、また内紛に発展しかねない図式じゃないの)


 そうと知ってて送り込まれたかと思う。しかし、内紛はイクシラ妃の本意ではないはず。別の目的があると思われる。


「殿下のお越しを楽しみにしていたのは私ばかりではございませんでな」

 総督はラフロにと話を向けてくる。

「お疲れのこととは思いますが、少々お手を煩わせてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「手合わせをお願いしたい。殿下と剣を合わせる栄に浴するために、アレサでも名のある者たちが競っていたのです。勝者にお力を示してくだされば、これ以上の幸せはございません」


 実力を知らしめる気なのだろう。試合を申し入れてきた。


「アレサも一枚板ってわけじゃない。立場を保留してる人間を兄ちゃんのほうに引き入れたいんだね」

「わざわざ波を立てるような真似を」

「下ごしらえも入念にする気なんだろうけど」


 ラフロは受ける。深くは考えず、期待に応えるつもりでのこととフロドは予想する。デモンストレーションだと思って大男でも当てるかと見ていたら、意外にも出てきたのは女剣士だった。


「あたし、ソキガル。手合わせできるっていうから結構頑張っちゃった。よろしくね、殿下?」

「来るがいい」


 無作法も咎めず青年は大剣を抜く。女剣士も長剣を肩に担ぎ、真剣な眼差しになる。そのまま片足を畳んで低い低い姿勢で構えを取った。


(速い)


 ビームの閃光よろしく飛びだす。ラフロがわずかに引いた鍔元が火花を散らしたと思ったときには横にいた。背中に隠れるほどのバックスイングが瞬速の斬撃を繰りだしている。青年は一歩下がりつつ身体を開いて弾いた。


「うえ、速すぎて見えませんよう」

「私も厳しい」

 素人に観戦可能な領域ではない。


 ソキガルは変幻自在にラフロの周囲をめぐっている。大剣は振るわれることなく斬撃を受け止める盾となっていた。攻め手は息つく暇も与えてくれない。それで押し切るつもりなのだろう。


(でも、一撃もラフロには届いてない)

 青年の顔にも焦りは見られない。


 すり足で一歩踏みだすとひと際大きな金属音が鳴った。ソキガルごと弾かれて間合いを取らされている。


「すごいな、あの人。兄ちゃんに構えを取らせるんだ」

「え?」


 デラが注目するとラフロの大剣はゆっくりと動きはじめていた。

次回『喜劇の姫君(4)』 「一般人では理解に苦しむわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 本当に”凄過ぎる”モノほど凄さが分からない。
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