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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
さまよえる星のラプソディ
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追われるパルサー(2)

 時空間復帰(タッチダウン)した艦隊は編成を整える。目の前の宇宙空間に流れるのは巨大な岩石群。見た目は大きくとも小惑星だ。その小惑星帯の反対側に、同時に時空界面突入(ブレイクイン)した友軍が同じく編成を整えて演習開始の合図を待っていることだろう。


「アームドスキン隊の発進は?」

「お待ちください」

 命じる前に止められた。

「地上訓練だけのパイロットもおります。準備に手間取っていまして」

「そんなことでは有事に対応など適わんぞ」

「急がせます」


 司令官の属するデクレミド軍もようやくアームドスキンを完全配備できた。これで弱腰の外交からもお別れできる。政府の期待も大きい。


「飛行に関してはアストロウォーカーとそう変わるまい。出撃させろ」

 司令官は急かせる。

「問題を抽出するための演習だ。失敗もいい。撃破判定を受けても処分などない。むしろ実戦で同じ轍を踏まないですむと思え」

「は、伝えます」

「まずは慣れろ」


 寛大さが必要なとき。言葉は本心からのもの。習うべきときに習っておけば不安は解消される。そのためなら恥じる必要もないし、戒めるなどもってのほか。


「怖れず立ち向かったとき、貴様らは強くなっていると言ってやれ」

「はい!」

 通信士(ナビオペ)から唱和が返ってくる。

「よし、演習を開始……」

「ひいぃ、なんでこんな!」

「何事だ!」


 悲鳴をあげたのは前席にいる参謀。彼の前には重力場レーダーがある。


「重力場レーダーがオーバーフロー! なにか出てきます!」

 奇妙な報告を叫ぶ。

「わけのわからんことを。システム、時空間復帰(タッチダウン)反応か?」

『界面動揺継続中。タッチダウン反応ありません。異常重力波を検知。警戒してください』

追跡鋲(トレーサー)で追ってきたのか? 界面が落ち着くまでは跳べんはずでは?」

 辻褄が合わない。

「来ます! 後方!」

「光学監視、まわせ。いったいなにが……」


 現れたのは球体である。光は発しておらず、つるりとした印象が強い。サイズ的には直径で十数kmの、小惑星と変わらない小天体のように見える。


「ひぎぃっ!」


 ナビオペが一斉にインカムを放りだす。耳を抑えて突っ伏していた。


「どうした!?」

『後方の物体より強力な電波が発せられています。無線のみならずレーザー回線にまで干渉を受けています』

 応じられたのはシステムのみ。

「あれはなんだ?」

『不明です。登録された観測結果に該当がありません』

「そんな馬鹿な!」


 それ自体も異常事態だが、投影パネル内ではそれ以上の異常事態が起きはじめる。隣接する小惑星が木っ端微塵に破裂すると破片が球体のほうへと引かれていく。次々と小惑星が破裂し、球体は砂塵の層を纏いはじめていた。


『電磁パルスが発せられています。解読しますか?』

「やれ」

 少々の沈黙。

『解読失敗。ただの安定パルスとしか測定できません」

「警告のつもりか?」

『本艦外装に安全基準以上の外力が掛かっております。このままでは大破します。退避を推奨いたします』

 考えている暇もない。

操舵士(ステアラー)、全速退避。とんでもないぞ。どこの新兵器だ?」

『該当ありません」


 無味乾燥なシステムの応答が腹立たしく感じてくる。部下の手前、奥歯が鳴るのを抑えねばならないのも不快だ。


「ひ、引かれてます。前進不能!」

 今度は操舵士(ステアラー)の悲鳴。

「どうしてだ!?」

「強大な重力影響下に入っています。離脱、適いません」

「……本国に救援通報を」


 苦渋の決断だ。こんな恥はないが背に腹は代えられない。部下の命のほうが重要である。


「時空界面、かなり不安定です。超光速(フレニオン)通信が通じるか」

「くり返せ。離脱の努力も続けろ」

 そうとしか言えない。

「こんなの!」

『回線不安定ながら着信、星間管理局です』

「星間管理局ぅ? こんな非常時になにを言ってきた」

 邪魔な横槍だが無視はできない。

「異常データの発……を確認。それは……です。速やかな退……を。宙域全体の移動を禁……。特に……は厳禁とします」

「移動するな? 無茶言わないでくれ」

「くり返します。……は禁止です」


 要領を得ない。彼らにすれば命に関わる事態である。取り合っていられない。


「こうなったら破壊する。全艦、離脱の努力をしつつ砲塔旋回。全力で目標の破壊に努めろ」

「了解いたしました」


 司令官は下唇を噛みながら球体を睨んでいた。


   ◇      ◇      ◇


時空間復帰(タッチダウン)したんな。まだ界面動揺は収まってないはずだから次には転移しないはずなんな」

 転移までの間隔が最低でも一時間掛かってる点にノルデが言及する。

「これで網に掛かったのがターゲットならいいんだけどねぇ」

「状態からして間違いないのなー」

「デクレミド軍だっけ? まだ生きてるかい?」


 界面動揺の影響で一万km以上離れての復帰である。到達までにまだ時間が必要。イグレドは緊急事態につき航宙制限速度を遥かに越えた速度で向かっているが、それでも三十分弱は掛かってしまう。


(なんつー不運な連中なんだろう)

 メギソンは一応無事を祈っておく。


「観測範囲までまだなんな」

 確認手段がない。

「連中気づいてるかな? おかしなこと考えないでいてくれるとありがたいんだけどさ」

「無理かもしれないのな。裸の中性子星なんて見たことないはずだし、システムだって該当結果を出せないのなー」

「ヒットしないか」

 一縷の望みも絶える。

「間近で中性子星を観測した事例なんてないと思うんな。ないものはわからないままなのな」

「ですよねぇ」

「逃げる努力だけしてくれてればいいけどなー」


 計算では反重力端子(グラビノッツ)出力を最大にして、全速で離脱しようとすれば重力圏からは逃れられる。ただし、離脱直後に身体に掛かる慣性力で内蔵などに異常が生じるかもしれないが中性子星に墜落するよりはマシであろう。


「見つけたのな」

 望遠パネルに表示される。

「あれが中性子星か」

「違うんな」

「それ以外のなんだと?」

 ジャナンドが訝しげに問う。

「傍の小惑星が崩壊限界を越えて、破砕して飲み込まれてるのな。見えてるのは粉塵の層だけなんなー」

「薄ボケてるのはその所為か」


 映っているのは白っぽく輪郭のぼやけた球状のなにか。ダストリングの片鱗とも思える帯もできつつあった。


「ん? 連中、気は確かなのかねぇ?」

 ビーム砲撃をしているように見える。

「ヤバいかも。錯乱してそう」

「それっぽいね、フロド。さっさとやめさせないと」

「これ以上エネルギーを与えると単独転移をはじめるかもしれん」


 ビームのエネルギー程度なら友人が懸念するほどの影響はないとは思う。しかし、余計なことをしないに限る。


「レーザー回線つなげるんな」

 美少女が気を利かせてくれた。

「なあ、君たち、さっさと離脱を……」

「何者だ! そうか、貴様らなんだな!」

「はぁ?」

 意味不明なことを言ってくる。

「宣戦布告もなしに、こんな新兵器を差し向けてくるとは道義に反する。星間管理局に訴えてやるからそのつもりでいろ?」

「なに勘違いしてんのさ。それは……」

「界面動揺、一定レベルまで下がりました。援軍が来ます。もうすぐです」


 とんでもない台詞が聞こえてきた。さすがに慌てる。


「おい、まさか時空間復帰(タッチダウン)する気じゃないよね? 警告届いてないの?」

「言われる筋合いはない! 貴様らが! 貴様らが!」

「やめろ! それだけは駄目だ!」


 しかし、イグレドでも時空間復帰(タッチダウン)反応を検知する。虹色の球体がいくつも現れた。


「君たちはなんという愚かな!」


 ジャナンドの思い虚しく、中性子星の反応も高まる。次の瞬間にはぬるりと消え去っていた。あとには艦隊と、速度を緩めつつあったイグレドだけが残される。


「お前ら、管理局から制裁が下るから覚悟してろよ」

「なにを訳わからんことを」

「訳わかんないのはどっちだよ」


 メギソンは脱力感にがっくりと(こうべ)を落とした。

次回『逃げるが勝ち(1)』 「斬れぬ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 おぉ、正しいSFパニック。
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