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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
虫の星のコントルダンス
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緑色の地獄(1)

(最悪だわ)

 デラは心底うんざりしていた。

(打合せしてる横で喧嘩ばかり。注意されたらしばらく黙るけど、どっちかがちょっかい掛けてまた口喧嘩。どこまで相性悪いんだか)


 堂々巡りで少しも話が進まなかった。モーガンがいなければ速攻でキレていた自信がある。ラフロのお陰で彼女に被害が及ぶことは今後もないにせよ、終始これではメンタルがもたない。


(ラフロもよく我慢するものだわ。怒りを覚えることもないのかもしれないけど)

 青年が平然としていたのもブレーキにはなった。


 そんな状態でまともな調査ができるのか疑問だと提言しようかと思っていたが、博士は中止する気配がない。さっさと済ませたほうが早いと思っていそうである。


「思いっきり馬鹿にされてたけど平気?」

 降下をはじめる前に青年に訊く。

(われ)は気にならぬ。そなたを守ることのほうが重要時だ」

「あ、うん。それは助かるけど」

「未知の危険の前の些事でしかない。我が身を案じてくれ」

 平然としている男には安心感がある。

「わかったわ。モーガン博士もシールド忘れないでくださいね?」

「うむ、慣れんものゆえ、どこまで使えるかわからないがね」

「もしものときは私の後ろへ」


 操縦に関しては彼女のほうが上である。それは確認してあった。


「現在の高度2000m。降下準備、いい?」

 フロドが告げてくる。

「ブリガルド、ゴースタンバイ」

「デラ、準備OK」

「モーガン機もOKだ」


 外部カメラウインドウを見る。眼下は緑色の海。どこまでも森林が続いていて地面の茶色などどこにも見えない。


「梢の高さが平均で200mくらいもあるからそのつもりでね」

 この緑色の海は深さもある。

「1000mで発進(エンゲージ)を……、え?」

「フロド、イグレドの降下は中止だ」

「うっそー!」


 緑を分けてなにかが上昇してくる。丸いボディながら節もしっかりとした昆虫。画像で見た蜂だ。しかも群れをなして上ってきている。


「数えきれないほどなんな」

 ノルデの声は呆れ気味。

「対空防御、ビームは使えないから対物レーザー?」

「それしかないんなー」


 1200mまで降下していたイグレドが取り付かれる。対物レーザーを使用して薙ぎはらった。焦げて裂かれた蜂がバラバラと落ちていく。

 ブリオネやシャンダリオもレーザーで応戦。しかし、排除しきれない巨大蜂が装甲に鎌を突き立てている。


「これは堪らない! 離脱を!」

「くそ、ノズルまで加熱してるぞ!」

「酸素濃度の所為だ。航宙艦はアームドスキンを放出して離脱したまえ」


 当初は1000mの高度でアームドスキンを発進させる手順だったがそれも適わない。モーガンは機動性に欠ける母艦を逃がす判断をした。


「ブリガルド、発進する(エンゲージ)。フロド、全機放出して離脱しろ」

「うん。気をつけて、兄ちゃん」

「問題ない」


 イグレドはアームドスキンを三機とも産み落とすと上昇に転ずる。デラは重力波(グラビティ)フィンを発生させると降下に移った。


反重力端子(グラビノッツ)をカット。自由落下しろ」

「本気?」

「蜂に取り付かれたくはあるまい?」


 そう言われればやらざるを得ない。風切音に怯えながら目を白黒させていると急減速が掛かる。システムが危険と判断して制動をかけたのだ。


「蜂は? 追ってきてない」

「虫の性質として急上昇や急降下を得意としてない」

「そのとおりだ。よく勉強してきているね」


 緑の海に飛びこんで着地し周囲を見る。博士の言うとおり、巨大蜂は追尾できていなかった。


「他の皆は?」

「同じく森林に逃げ込んでくるだろう。合流は難しくないはずだがね」


 オープン回線は阿鼻叫喚の巷と化している。蜂から逃げ惑いながら森へと飛びこんでくる機体がほとんどだと思われた。


「はぁー」

 思わず見上げる。

「なんて巨木。スケールおかしくないですか?」

「うむ。ラゴラナに乗っていながら生身で行動している気分になるね」

「腕をまわしても到底届きそうにないです」


 全高で20mあるラゴラナが幹にすっぽりと隠れられる。十数倍のスケールの世界に迷いこんだごとき感覚。感動的であるほどだ。


「馬鹿野郎! 連れてくるんじゃねえ!」

「でもよ、ゲーリー!」

「くっそ!」


 ドミニクの隊はまだ襲われている様子。無線は戦闘音に満たされている。


「救助願えるかね?」

 モーガンが依頼する。

「了解した」

「では続こう」

「はい、博士」


 嫌な予感が現実になっただけな気がする。見捨てるわけにもいかず、デラは最後尾に付けてブリガルドの金色の翅を追った。


「突入する。シールドを前に背中合わせに」

 ラフロの指示。

「ああ、もう嫌。こうなる気がしてた」

「奇遇だね。私もだ」


 足を止め、着地したブリガルドの背後へ。周囲を飛びまわる、3mはある蜂に怖気を感じながらシールドをかざす。視界が妨げられるといくぶんかマシだ。


(ラフロは平気なのかしら)


 リンクで相対位置ロックが掛かったのを確認して後ろを見る。青年は大振りなブレードを展開すると一振りした。それに蜂が反応する。


(来る)


 刺激された一匹が迫る。かなりのスピード。ブレードの切っ先がゆらりと落ちたかと思うと、次の瞬間には振り抜いている。翅がパッと舞い落ち、胴体も斜めに分かれて地に転がった。


(速っ! 見えないし!)


 腕を振る音と光の円弧が描かれるのだけが彼女の感覚に飛びこんでくる。その度に蜂が分断されていった。


「ひゃっ!」


 視界の端に突っ込んでくる一匹の姿。つい悲鳴がもれた。即座に視界が変わる。ローテーションでラフロが引き受け、真一文字に落とされた剣身が蜂を斬り裂いている。


「素晴らしい腕前だね。どれほどの剣技かは私にもわからんが心配は無用のようだ」

「まだ戦闘のど真ん中ですけどね!」


 ラフロは器用に樹間を縫いながら蜂を退治していく。ドミニク軍事システムズのアームドスキン『ドリオ』も徐々に落ち着きを取り戻してブレードで対処していた。


「いけそう、ラフロ?」

「下生えがほとんどない。足場に問題なければ大丈夫だ」

「これだけ木々が密生していれば根本まで日光は届くまいね」


 たしかに足元は悪くない。まったく植物が生えていないわけではないが、陰性の丈の低いものばかりなのでアームドスキンの足で蹴散らせる。


「さっさと始末してしまえ、ゲーリー! このままでは調査どころではない!」

 ターリンゼン機動社のボーゼが吠えている。

「簡単に言うなよ! とんでもねえ数いやがるのがわかんねえのか?」

「蜂のサンプルだけ大量に持ち帰っても意味がないぞ!」

「うるせえ! 追っぱらわねえとはじまらねえんだよ!」


 ボーゼの同乗している機体を守りながら戦闘している。まともに守れているのがその数機だけなのがお粗末な話だが。


「ピーピーピーピー、警報鳴らすなよ」

「誰だよ、レーザー撒き散らしてんのは! ビームコートが溶けるだろうが!」

 つまらない喧嘩も起きている。

「お前か、腰抜けラフロ?」

「違うわよ! あんたのとこの、あのへっぴり腰でしょ!」

「ドンタ、てめぇ!?」


 思わず反論する。ラゴラナでもターナシールドの表面に警報が出ているので方向に気づいていた。同士討ち(フレンドリファイア)まで演じている情けない状態である。


(ダイアナのところは大丈夫なんでしょうね?)


 そう思ったころに蜂が逃げ去っていく。あまりの被害に怖れをなした様子。ようやくひと心地つけそうだ。


「散々な有様じゃない?」

 エーハムマーセナリーズのアームドスキン『シュトラッツェン』が現れる。

「他人のこと言えるのかよ」

「う、うるさいわね」


 プリシラの機体をはじめ、ほとんどのアームドスキンが体液を浴びて変色している。激闘の跡が窺えた。


(指を落とされてるのまでいるじゃない)


 デラは目敏く気づいていた。

次回『緑色の地獄(2)』 「その目は節穴?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……おぅ……散々な成果ですな……。 遠距離攻撃は[投石]とかかな?
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