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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
虫の星のコントルダンス

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対立の枷(1)

 イグレドが時空間復帰(タッチダウン)すると、ほどなく通信が入る。合流時間にはまだしばらくあったが、申請企業の片側はすでに到着していたようである。


「あれのようですよ」

「戦闘艦ですね。民間軍事会社所有の航宙艦でしょう」

 デラの質問にモーガンは当然と応じる。


 良くいえば無駄を排し効率的な、悪くいえば機械的で不格好な戦闘艦が合流を待っている。お腹に抱える積載(カーゴ)スペースばかりが目立つ。


「格好悪くない?」

「アームドスキン運用を主眼に置くとああなるんな。メンテスペースと要員に場所を割かれて、さらに反重力端子(グラビノッツ)まで搭載した安上がりな航宙艦は似たような設計が多いんなー」

 ノルデはそう評する。

「イグレドみたいに異常強風下の空力計算までされたものは期待できないのね。探査に民間なんて使うものじゃないわ」

「うちも一応は民間なんな」

「どこの民間人がこんな高性能な航宙艦とアームドスキンを保有してるっていうのよ」


 船の性能まで気に掛ける余裕が生まれたのはイグレドを知ってから。デラの経験上、同乗すれば身の危険を感じながらの差し迫った道行になる。移動に大学の研究船が確保できなければ、別の民間船をチャーターするしかないと思っていた。


「となると、もう一方も期待できないのかしら」

「結局は彼らを買っているのではないかね」

「そうですよ」

 少し強い口調で答える。


(自分の案件で依頼するなら指名するに決まってるわ。そうじゃないのばかりに駆りだされてるけど)

 快適さは身に染みている。


 彼女の言うとおり、もう一方というのが存在する。今回の調査の申請が通ったのは二社なのだ。


「こちらドミニク軍事システムズ所属『ブリオネ』。中央公務官大学チャーターの航宙艦『イグレド』で間違いないか?」

「こちらイグレド。ブリオネ、了解。合流するね」


 十分に減速して接近すると横につけた。サイズ差は比較にならない。100mのイグレドに対しブリオネは400m級である。


「私はターリンゼン機動社開発部長ボーゼ・オーリーと申します。初めまして、パイ・モーガン博士」

 通信パネルの向こうには壮年の男。

「よろしくお願いします、オーリー殿。私が調査を主任された監督官のパイ・モーガンです」

「こちらこそ、どうぞよしなに。よろしければ同席して当社の調査目的をご説明申しあげたいのですが?」

「もう一社が揃ってからにいたしませんか? 両社の意見を伺ったうえで計画をさせていただきたい」

 自社を優先させようとする持ちかけをやんわりと拒んでいる。

「そうですか。では」

「もういらっしゃるでしょう」


 少し前に新しい時空間復帰(タッチダウン)反応をキャッチしている。ポイントに向かって移動中のはずである。


「こいつがあの『イグレド』か」

 画角に目付きの悪い男が現れる。

「本当に来るとは思わなかったぜ、『臆病者のラフロ』がよ。いいのかよ、今回は案外ハードなミッションなんだがな?」

「どなたかな?」

「失礼、博士。俺はドミニクのゲーリー・ハンガスってんだ。このチームのリーダーをやってる」

 野卑た笑みを浮かべているが、それが様になっているとでも思っているのだろうか。


(これがあるから、そのへんの軍事会社の船に同乗できないのよ)

 悪いほうの当たりだった。


 モーガンが視線を移すと、それを検知したカメラが引きの動作をする。画角には広く操縦室内が映っているはず。


「なんだ、美人さんの部下も連れてきてるんじゃないか。博士も隅に……、ああ?」

 そこで青年が目に入ったようだ。

「てめぇ、なんだそれは?」

(われ)がラフロだ。よろしく願おう」

「頭のオモチャはなんだってんだよ。威圧してるつもりか?」

 ゲーリーの目つきが余計に悪くなる。

「その言い方はやめなさい。彼はカレサニアンよ。人種的特徴を蔑むほど礼儀がなってないのかしら?」

「う……、獣人種(ゾアントピテクス)かよ。ああ、そりゃ悪うございましたね、部下のねえちゃん」

「それもよしていただこう。彼女は私から要請して参加してもらっている地質学者のデラ・プリヴェーラ女史です」


 口さがない男もさすがに沈黙する。スポンサーのボーゼにまで睨まれれば黙るしかない。


(先が思いやられるわ。どうせ、こいつの手下も似たりよったりでしょう)


 ため息がこぼれる。幸い、腕っぷしなら頼れるラフロがいるので逃げ場所には困らないはずだが。


「ま、見た目がどうでもそいつが従軍もできない臆病者の傭兵(ソルジャーズ)なのは間違いない。そんなの放っといてよろしくいたしましょうや、デラ女史?」

「お生憎さま。こちらの警護要員は間に合ってるから、あなたのスポンサーだけ守ってなさい」

「そのうち、嫌でも頼ることになるぜ?」


 ゲーリーが片眉を上げて言う。瞳からは好色な光が消えない。フィットスキンの下で鳥肌が立つのをデラは感じていた。


「来たみたい。識別信号(シグナル)は『シャンダリオ』」

 兄をけなされているのにフロドの声は落ち着きはらっている。


(お兄さんの強さを一番良く知ってるものね)

 愛嬌のある少年を見る目がほころぶ。


「げ、『シャンダリオ』。よりによって『エーハムマーセナリーズ』かよ!」

 一転して苦い顔になるゲーリー。

「くそ、先に聞いとくべきだったぜ」

「なんだ、教えてほしかったのか? もう一社は『モストゴーメカトロニクス』。取引先までは調べなかったが、エーハムを使っているのだろう。ライバルとはいえ、そこまで毛嫌いせんでもいいのではないか?」

エーハム(あそこ)とは馬が合わないんだよ。なにかにつけ男の俺たちを馬鹿にしてきやがる。女ばっかの弱っちいチームのくせしやがって」


(このご時世になんて言い草? 時代遅れもはなはだしい)

 軍事関連でも女性の進出など当たり前である。勇気ある同性の姿は好ましい。

(もう一方が女性ばかりなら少しは気が休まるかも。そっちと主に連携するのが正解かしら)


 多少は小洒落たフォルムの航宙艦が接近してくる。こちらはやや大型の500m級で居住空間としての配慮がなされている様子。それでもカーゴスペースが目立つのには代わりはない。


「そこの貧相な戦闘艦はドミニクのブリオネじゃない。ご無沙汰ね」

 新しい通信パネルが立ちあがる。

「ちっ、うるせえよ。黙ってろ」

「はん、口でも勝てないから虚勢を張るだけよね。情けないこと」

「黙ってろって言ってんだろ!」

 口喧嘩がはじまる。

「自重なさい、プリシラ! 失礼しました。わたくし、モストゴーメカトロニクスの研究部長ダイアナ・セスティと申します、モーガン博士」

「うむ、よろしく頼む、セスティ殿」

「なかなか難しい状況と思われますので、色々とご教授くださると嬉しいですわ」


 混乱気味の状況に辟易しつつあるのか、モーガンの口も重くなってきた。現場で揉めるのも珍しくはないが、今回はいささか厄介なことになりそうだ。


「仲悪いんな」

 ノルデがくすくす笑う。

「ドミニク軍事システムズは男ばかり雇ってんのなー」

「調べたの? そんな素振りなかったのに」

「ぷぷー。エーハムマーセナリーズはパイロット含めクルーも女ばかりなんな。珍しいけど上手くいってるみたいなんな」

 ゼムナの遺志の彼女には並行処理などお手のものらしい。

「荒事を任せるにも当たりが柔らかいとかそんなとこがあるのかしらね」

「そんな感じでもなさそうなんな。モストゴーみたいに女性幹部が多いところは使いやすそうなんなー」

「それは理解できるわ」

 実感している。

「男性幹部が多い企業にも受けがいいんな」

「スケベ心なの!」


 まさか特殊な営業方針まで立てているとは思わない。それでもなにか腑に落ちない部分はある。


(これは……、大変かも)


 デラは早々に後悔に襲われていた。

次回『対立の枷(2)』 「では、ワリドントの現在の状況を伝えておこう」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……うわぁ……傭兵家業だから、荒っぽいのは分かるけど……。 如何にもトラブル起こす噛ませ犬みたいなのが……。
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