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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
剣士の奏でるカデンツ
157/158

星空の恋人

「ラフロ、斬ってよ。断面見たい」

「うむ」

 青年は大剣を抜きつつやってくる。


 その鉱石は超音波ピックでは刃が立たない。硬くて密度の高い、この惑星(ほし)の典型となるような種類のようだ。


「どうだ?」

「んー、見た目だけじゃわからなかったわ。反射分析掛けてみないと」


 このロキンバPP72とナンバリングされている惑星は見つかって間もない。一般的な可住固体惑星(ソリッド)に比べると直径は半分に満たないのに標準1G近くもあり、大気も水も十分にある。奇妙なところだった。


「ラフロさん、あのすばしっこいウサギみたいな生物捕まえるの手伝ってくださいよう」

「承知。待て」

 フェブリエーナがお願いをしている。

「ラフロ、それより恒星スペクトル解析機の設置を手伝って。結構重いし大変なの」

「チューリ、(われ)には身体が一つしかないのだが」

「こっちが先。結果次第で大気層の詳細分析が必要なんだから」

 皆が頼っている。

「早くしないと逃げちゃいます」

「コンテナ開けたらすぐだから」

「……デラ、これは護衛の仕事か?」


 ラフロは困っている。額を押さえて眉根を寄せ、悲しげな面持ちの剣士は心底当惑した様子だ。


「そもそも、ここは護衛が必要なほどの脅威はあるまい」

 不満が顔に表れる。

「そう? 昨日の夕方の牛は突っかかってきたじゃない。あなたが斬ったやつ」

「牛だぞ」

「美味しかったわ」

 ステーキに化けた。

「レーザーガンで十分ではないか」

「当てられて?」

「いや、ここはイグレドを指名するような場所ではないと言っている」

「合同調査向きになっちゃったんだもの」


 将来性を見据えて新造したイグレドは200m級になっている。アームドスキンの搭載数も六機になって生活スペースもさらに充実していた。住み心地の良いことこのうえない。


「あれは家族が増えたときを見越して大型化したのだ。中央(セントラル)公務官(オフィサーズ)大学(カレッジ)の調査任務のためではない」

 悲しげにつぶやく。

「ケチなこと言わないで協力なさい。サイズに合わせたチャーター料になってるでしょ?」

「吾は関知しておらぬが」

「ちゃっかりした奥さんがいるじゃない」


 ヴァラージ対応を除いては彼女の指名を優先してくれている。だが、依頼はずいぶんと増えている様子だった。


「フェフ、ソーコルがお腹減ったって」

 アクアスフィアを抱えたフロドが生物学者を呼ぶ。

「ほら、ソーコルもウサギが食べてみたいって言ってますよう」

「あんまり食べさせたら巨大化しちゃうわよ」

「しません。生物はスペースに合わせたサイズに収まるようになってるんです」

 レチュラと取り合いを演じている。

「三人でウサギを捕まえる。そのあとで機械の設置をやればいい。皆で協力せよ」

「そうします」

「仕方ないわね」


 そう言いつつも後輩二人は手をつなぎ合って草原を駆けていった。青年は渋々と後ろを追う。


「文句が多いのな」

「あれはレクリエーション」

 後ろから掛かった声に答える。


 そこには額に若干小ぶりな角を持つ妙齢の超絶美女。真っ直ぐな黒髪を腰まで流し、金色の瞳が神々しく輝いている。

 ピンクのフィットスキンに包まれた肢体は魅惑のラインを描き、艶っぽさを隠しもしない。美の結晶たる大人ノルデが最近のデフォルトである。


「付き合うほうの身になるんな」

 夫となった男の背中を優しげに見つめている。

「たまには貸してちょうだい」

「勝手を言うんなー。ところでメギソンはどうしてるのな? 興味なかったんな?」

「ジャンのとこ、男の子が産まれたでしょう?」

 ラフロの結婚式の頃に妊娠していたリミーネが第三子を出産したのは三ヶ月前。

「双子の面倒を見る機会が増えたら懐かれちゃって最近はデレデレよ」

「刷りつけする気なんな! 危険なのな!」

「まさか。子供がかわいいって感じるようになったら、あいつも身を固める気になるんじゃないかしら」


 浮ついた噂も聞こえなくなってきた。今の彼女を大事にする気なのだろう。会ってみたがいい娘だった。


「デラはどうするんな?」

 少し心配げな様子。

「私は泥遊びが性に合ってるわ」

「本心なんな?」

「近頃はちょっと違うかも。結婚して束縛されるのは嫌。でも、ラフロみたいな子供なら育ててみたいと思ってるわ」

 意味ありげに見る。

「貸してくださる?」

「悩みどころなんな。イクシラが喜びそうで怖いのな」

「冗談よ。縁があったら私も誰かと結ばれるかも。それまではこの石ころが恋人」


 おそらく結婚はしないだろう。そのうち恵まれない子供と養子縁組はするかもしれない。後継者とかそういうのではなく、誰かを愛するということに喜びを覚えてしまったからに過ぎない。


「宇宙にはまだ見ぬ恋人が無数にいると思うのよ」

「気が多いのな!」


 宇宙はまだまだ神秘に満ちている。そこにどんな出会いがあるかはわからない。もしかしたら青年のような人を見つけて恋に落ちてしまうかもしれない。可能性は無限大である。


 デラはそれまで星空の恋人をパートナーとするのだ。



 <完>

『あとがき』を同時更新しています。執筆上の苦労など書き連ねておりますので、よろしければどうぞ。

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