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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
剣士の奏でるカデンツ

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兄弟激闘(3)

衝撃砲(インパクト)の衝撃波がサイロ内で反響したんな)


 内部で跳ねまわった衝撃波は抜けのある上へと向かう。損壊した機材や隔壁と一緒にラムズガルドも弾きだす。


「気を確かに持つんな、ラフロ! 攻撃来るのな!」

 アバターを耳元に飛ばして注意を促す。


 どうにか失神は免れている。生体ビームの狙撃を回避して大地に滑り込んだ。だが、そこでうずくまってしまう。


「動きつづけるのな!」

「しょ……うち」


 息切れしつつ答えてくる。反響した衝撃波はラムズガルドのコクピットをシェイカーのごとく揺らしただろう。


(マズいのな。かなり体力を削がれてしまったんな)


 イグレドを降ろしてでも牽制を入れて収容すべきかと考える。そのままでは不利な局面は挽回できない。


「待ってるのな、ラフロ」

「かまわぬ。来るな」

 案じる気持ちは同じなのに拒まれた。


(そうじゃないのな。無理をして死んだらそれまでなんな。ラフロは壊れたら直せる本物の剣じゃないのな。どうしてそれがわからないのな?)


 ノルデは悔しくて仕方がない。欠落が彼を頑なにしている。求めているのはそんな姿ではないのだ。


「はあぁあ!」

「ジャーッ!」


 ヴァラージが威嚇する。ラフロも吠える。力と力のぶつかり合いがはじまる。そのままでは大破するのがラムズガルドだけでは済まなさそうで気が気ではない。


(死んだら駄目なんな、ラフロ。そうじゃないのな)


 青年の想いは誤解の結晶。自らが役に立つ剣でなければ彼女が傍にいてくれないと考えているからだろう。そうでなくとも彼の願いは叶っているのに。


(離れはしないのな。こんなに愛しい魂を振り払えるほど無情じゃないのな)

 ノルデの想いも変化をしている。


 コクピットに直撃する輝線を描く白光がブレードを舐める。赤銅色の機体は致命的な一撃を逸らしながらも横滑りしている。踏ん張りが利かなくなってきているのだ。

 ひるがえした剣閃も鞭で叩かれ届かない。鋭さは保っているものの、いつもの流れるような連撃はない。守勢にまわらないよう、斬撃を交えるのが限界である。


「一度立て直すんな。何機かまわってもらうのな」

「不要」

「無理したら駄目なんな!」


 力場鞭(フォースウイップ)の連打を懸命に迎撃する。鍛え抜かれた技能で剣筋を立てて反発力を高めているが反撃を挟み込めない。生体ビームをブレードガードしたノックバックでサイロの開口部に突き落とされる。


「そこで衝撃砲(インパクト)を食らったら終わりなんな!」


 援護の間に合わない局面にノルデは悲鳴をあげた。


   ◇      ◇      ◇


 星間(G)平和維(P)持軍(F)アームドスキンの圧倒する数がヴァラージの行き足を鈍らせている。本来は機敏に移動する躯体は牽制の視線をめぐらした。螺旋力場(スラストスパイラル)が苛立たしげにうねっている。


(いいぞ。怒らせてる怒らせてる。そのまま冷静さを失わせるんだ)


 地面のそこら中にあるミサイルサイロが功を奏している。不用意に動けば罠に掛けられると思わせられた。足を止めれば中間距離からの弾幕が有効になってくる。


「ペヌ1が率いて16番のサイロへ。ペヌ13、フェイントから穴を開けて引き込んで」

 通信士(ナビオペ)の指示が飛んでいる。

「バランス気をつけろ。確実に気を引くんだ」

「コルゴ全機、トリガー緩め!」

「足取られて直撃食らうんじゃないぞ」


 フロドの送ったマップのミサイルサイロにナンバーを振ってナビしている。それを利用して罠を張っていた。

 GPFも全てのサイロに伏兵を置けるほどの数はいない。そこにいるぞと思わせるのが肝要。素晴らしい連携が繊細な戦術を実現させている。


「このまま続けて詰め切る」

「引き込むぞ。ナビオペ、カウント送れ!」


(たぶん、そうはいかないだろうけど)

 少年はヴァラージの仕草をつぶさに観察する。


「弾幕薄くしないように。集中を切れ」

弾液(リキッド)パック換装忘れるなよ。本物の穴を作るとやられるぜ」


 機能しているようには思える。優勢に運べているだろう。しかし、思っているほど削れてないのもひしひしと感じているはず。それがお互いへの注意の言葉に変わっている。


(まだ詰めじゃないんだ。ヴァラージの戦闘本能はこんなもので挫けない。反撃してくる)

 過去の経験が予断を許さない。

(意表を突いた捨て身の攻撃で倒してきたけど、そんな偶然に頼ってなんかいられない。彼らは僕を信用してくれたんだから)


 一見地面に見える隔壁を貫いてビームが爬虫類型の足元を襲う。スラストスパイラルで叩いて躯体を跳ねあげ俊敏に回避した。


「あれを躱しやがるかよ!」

「ぼやくなぼやくな。畳み掛けて当てにいくぞ」


 力場に叩かれた隔壁が下へと落ちていく。ヴァラージがしっかりと注意を向けているのをフロドは見逃さない。


(気づいちゃったか?)

 少し早いが予想の範疇。


 下に向けて口が開く。衝撃砲(インパクト)が開口部へ向けて放たれた。決して広くはない内部で衝撃波が反響をくり返す。


「ごっ!」

「あぐっ!」

 伏兵が短い悲鳴とともに弾きだされる。

「マズい! 失神してるぞ! 引っ張りだせ!」

「リフレクタ! もてよ!」

「ハッチ、ノックして叩き起こせ!」


 切り裂こうと振るわれた力場鞭(フォースウイップ)が援護に入ったアームドスキンのリフレクタを叩く。派手に散った紫電を目くらましにして僚機を救いだしていた。


「総員に通達。伏兵は攻撃の成否に関わらず、即座に退避。徹底せよ」

「了解!」


 危険な局面を作らない命令がくだされる。間違ってはいないが、それだけで終わらない。相手は気づいてしまったのだ。


「げ!」

「このやろう……」


 ヴァラージは次々にサイロ内へ衝撃砲(インパクト)を叩き込んでいく。ひらひらと隔壁が宙を舞い、内部を露わにしていった。地面が穴だらけになっていく。


「せっかく流れができてたのに!」

「隠れ場所がなくなってく」


 伏兵を置く場所が失われていく。ヴァラージは自分の周りにバトルフィールドを作りあげていった。これでは元の木阿弥である。


「やられた。なんて悪賢い奴」

「苦しいな」

「切り替えろ切り替えろ。仕切り直しだ」


 下がった士気は戦局に如実に表れる。緩んだ弾幕が爬虫類型を自由にさせてしまった。再び中破大破する機体がぽつりぽつりと出はじめる。


「すまん。下がる」

「早く戻ってこい。戦列もたせとくからな」

「一服させてくれよ」


 軽口のキレも鈍る。彼らの中で不安が首をもたげ始めているのだ。ただし、この局面もフロドは予想していた。


「コルゴ1から15、左方展開。15から30は右方展開」

 指示を出す。

「待ってたぜ、少年」

「頼んますよ」

「お願いね」


 彼が動かして開けたところには中破機が背中を見せている。その先には換装用パーツが収められているコンテナがあった。ヴァラージは弾かれたように加速する。


(そこが弱点だって気づいたね? 潰せば相手を消耗させるって)

 戦闘勘が見逃させはしない。

(そう。気づいちゃったんだ)


「ペヌ28から30。カウント、(スリー)(ツー)(ワン)攻撃(アクション)!」

「了解!」


 ずっと(・・・)ひそんでいた三機が動きだす。ビームが鼻先をかすめて急停止させた。次なる二機が隔壁を裂きながら飛びあがり、両側から斬りかかる。完全に意表を突かれたヴァラージは左右の肩から先を刎ね飛ばされた。


「入ったー!」

「喰らえー!」


 ビームが集中する。リフレクタも力場鞭(フォースウイップ)もない躯体はスラストスパイラルで抵抗するが、上まわる火力の前に焼かれていく。


(もらった)

 最初から仕込んでいた、換装パーツ用コンテナを囮にするフロドの作戦だった。


 両脚が弾け、頭が吹き飛び、胴体が穴だらけになっていく。それでも集中攻撃は緩むことなく敵を焼き尽くしていった。残ったのは灰だけになる。


「勝利ぃー!」

「いやっほー!」


(最後の最後に油断した。僕のほうが視野が広かったね。兄ちゃんは?)

 振り向く。


「ノルデ?」

「厳しいのな」


 彼女の切羽詰まった声音にフロドは仰天して視線を転じた。

次回『兄弟激闘(4)』 「望め、ノルデ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 本来はGPFが矢面に立つべきな気が……。 (一応)民間人が最前線に……。
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