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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
剣士の奏でるカデンツ
152/158

兄弟激闘(2)

 バスコル・ダラガ部隊長は苦悩に眉根を寄せる。アームドスキン隊の損耗具合が予想を遥かに超えていた。


 現在の艦の位置から新たに換装部品用反重力端子(グラビノッツ)コンテナを降下させようと思えば十五分近い時間を要する。迷っている時間はない。すぐにでも決断すべきだ。


(コンテナに割く護衛機が惜しい)

 それが迷いの原因。


識別信号(シグナル)、ペヌ9から12まで後ろのミサイルサイロ内へ。ペヌ17から24はヴァラージを引きつけつつ後退」

 口を開きかけたところで通信士(ナビオペ)とは違う指示が入る。

「これは?」

「レーザー通信のトークバックのようです。イグレドの中継子機(リレーユニット)から発せられています」

「この幼げな声はノルデ殿の隣りにいた少年か」

 声の主の顔が頭に浮かぶ。


 本来ならこんな横槍など許すべきでない。しかし、このときのダラガはなぜか止めてはいけないような気がした。


「どうなさいますか?」

「そのまま。現場の判断に任せる」

 あるまじき判断だが静観するつもりになった。

「今のなんだ?」

「子供の声?」

「後ろにミサイルサイロなんてあるの? それってブリーフィングで説明あった旧式物理弾の発射設備でしょ?」

 パイロットも迷っている。

「マジである。どうすっか?」

「アミーちゃん、入れるようなもの?」

「十分な広さあり。退避場所くらいにはなりそう」


 隊長判断で下がる。一息入れるつもりの様子をダラガも注視した。


「なに? 俺ら、引きつけろとか言われなかった?」

「言われなくてもターゲットにされてるけどな」

 薄くなった戦列がヴァラージの猛攻を受けている。

「押されてもいいっていうなら退くぜ」

「後方勢が背中を狙ってくれるでしょ」

「んじゃ、そういうことで」


 二編隊(チーム)八機がビームに押されるように後退をはじめる。そこを穴とばかりに怪物は攻勢を強めた。


「タイミング合わせ。砲撃準備、上。(スリー)(ツー)(ワン)、発射!」

「身体が反応しちまう」


 ミサイルサイロ内、それも地上隔壁の下からだ。追尾するヴァラージは真下、見えない位置からのビームにさらされる。驚異的な反射運動で直撃を避けたが、尻尾の先が吹き飛び左肩が溶解していた。


「当たった?」

「食らってやがる」

「次、コルゴ13から20まで分散して地下に。僚機の位置を確認しつつ誘導。ミサイルサイロの位置はリンクで送る。ナビはタイミング指示」

 少年の声はつづく。

「ナビオペ、彼の指示に従え。攻勢に出るぞ」

「了解!」


 艦橋(ブリッジ)はダラガの命令に色めき立った。


   ◇      ◇      ◇


「悪くはないのな」

 ノルデがフロドに話しかけてくる。

「でも、通用するのは最初の何回かだけなんな」

「それでもいいんだ」

「なにか考えてるのなー」

 美少女は愉快そうに目を細める。

「任せるのな。やってみるといいのんなー」

「うん。僕も兄ちゃんと一緒に戦ってるつもりだからね」

「ラフロもわかってるのな」


 ダラガ部隊長から戦術に関して一任する連絡が入る。ノルデは快く受けながらも、油断せず戦況判断をするよう注意を与えていた。


(さあ、気づいてからが大事。どっちが広く見えてるか勝負だ、ヴァラージ)


 フロドは細心の注意を払って拡大した俯瞰パネルを見つめた。


   ◇      ◇      ◇


 力場鞭(フォースウイップ)が剣身に絡みつく。力場同士の干渉発光をしながら引っ張られる。


(どういう仕組なんだか、この力場は誘引力まであるのな)


 切り裂くと同時に引くことも可能。ロープ状に形成されるので理屈としては当然なのだが、理論はノルデたちでも解明できていない。


(全長が30mまでしか伸びないのが救いなんな。もっとも、あれが100m以上も伸びるようなら物理法則に喧嘩売ってるようなもんなんな)


 力場刃(ブレード)でさえ発生器(ジェネレータ)の製造にはかなりデリケートな機構を有している。空間に力場を展開(フォーマット)するのも理論的には荒業なのだ。


「グルルゥ」

「く!」


 もう一方の鞭をリフレクタで弾いて逸らす。ラフロは逆に引き込んで強引に手首を返す。胴を払いにいくが力場鞭(フォースウイップ)を消されて跳ねのいた。


「ジャッ!」

「甘い!」


 頭上から迫る螺旋力場(スラストスパイラル)二本を払って弾く。向けられたレンズ器官に真正面から突っ込む。片足を軸に半回転してしゃがみ生体ビームを躱すと、右の脇から背後へ突きを放った。


「ジャジャッ!」

「ぬう!」


 切先に鞭が絡んで止められている。左の逆手だけ残すと、右手にもう一本のブレードグリップを握って首を薙ぎにいく。堪らずヴァラージは飛び退くが、それを上まわるスピードで剣身が伸びた。


「今のを躱すか」

「ルルゥ」


 力場の刃が消えるとともに反らしていた上体を起こすヴァラージ。異常ともいえる反射神経だった。ラフロは抜いたグリップを背中に戻す。


(二刀を使うのはフェイントでだけなんな。ラフロのスタイルは一刀を正確無比かつ一撃必殺で振るうものなのなー)


 今の奇策も長間合いでのプレッシャーを掛けるため。剣の間合い以外で敵を休ませないようにする手管である。


「近いんな。少し押すのな」

「うむ、足元も見えてきた」


 流れたビームが上空をかすめている。GPF隊の戦闘範囲に近すぎる所為だ。不測の事態を避けるには距離が要る。


「来い」

「シャー!」


 生体ビームに足元を焼かせながら横滑り。次の一射を誘う。乗ったヴァラージの次の一撃は空を薙いだ。ラムズガルドは横にも縦にも逃げておらず消えていた。


(ミサイルサイロ?)


 ラフロは下に潜っていた。気づいた敵が開口部を覗き込もうとする。そこへ地を割る斬撃が走ってヴァラージの爪先を削った。


「外したか」

「ガルッ!」


 ミサイルサイロは開口部より内部のほうが広い。地上隔壁の下から相手の気配だけを読んで当てにいったのだ。


(並外れたセンスなんな)


 青年は白兵戦を仕掛けつつ足元の状況を探っていたのだ。どこに開口部があるか把握して記憶したのだろう。敵だけに立体的な攻撃を許さないつもりだ。


「マップを借りるのな、フロド」

「好きなだけ使って」


 兄弟して酷似した戦術を思いついたのだ。使えるならナビして導くのがノルデの役目である。ラムズガルドのモニターに反映するプログラムを瞬時に組んで送った。


「ごめんなんな、ラフロ。ヴァラージの位置はタイムラグの所為で想定位置にしかならないのな」

「十分」


 警戒して飛びあがったヴァラージは生体ビームをサイロへと叩き込む。しかし、ラムズガルドの位置が見えていないので当たりはしない。貫通力の高さが仇になって穴を開けるだけになっている。


(そこまで計算してたんな。逆手に取ったんな)


 不用意に近づくのを躊躇う敵。もう一体と合流する気なのか注意を逸らす。その瞬間に開口部から突進したラムズガルドが斬りかかる。


「グルァ!」

「行かせぬ」


 集中力まで削がれていたヴァラージだが、咄嗟に躱して脇腹を浅く裂いたのみ。つづく連撃も有効打を与えられない。恐るべき運動能力である。

 クールタイムが経過したレンズ器官が向けられると、ラムズガルドは躱しつつ別のミサイルサイロへと逃げ込む。反射的に追った爬虫類型は暗闇で突如として浮かぶ力場刃におののく羽目になる。


(スラストスパイラルが光るから丸見えなんな。ラフロは反重力端子(グラビノッツ)を利かせてるだけで機動できるのな)


 仕方なくサイロ内から逃げだすヴァラージ。しかし、注意を逸らせばすかさずラムズガルドが斬りに来る。動くに動けない。


(上手い手なんな)

 そう思った瞬間、ヴァラージが口を開いた。衝撃砲(インパクト)を開口部へ。


 隔壁がバラバラに宙を舞い、衝撃に押しだされたラムズガルドも浮きあがってきた。致命的な隙になってしまう。


「くはっ!」

「ラフロ!」


 ノルデは堪らず叫んだ。

次回『兄弟激闘(3)』 「無理したら駄目なんな!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 戦争モノで、艦隊(戦艦)指揮のシーンって、 有りそうであまり無いイメージ。
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