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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
剣士の奏でるカデンツ
151/158

兄弟激闘(1)

 接敵からの分断は難しくない。ノルデの予想したとおり戦闘本能だけのヴァラージは容易に陽動に掛かる。ラフロの対する一体と星間(G)平和維(P)持軍(F)アームドスキン隊に任せる一体とに分けた。


「フロドはGPFを見てやるのな。多少崩れてもリカバリが利くんな」

「兄ちゃんはよろしく。そっちは一度崩れたら終わりだもんね」


 分担してフォローする。無論、並行処理でフロドの命令も実行するが、意識はラフロの戦闘へと向けた。相互の距離感も彼女がコントロールせねばならない。


(頑張るのな。ラムズガルドは対ヴァラージ戦闘用にチューニングした機体なんな)


 前腕に装備したブレードスキンもそうだ。面積的には限界があって、腕の太さを手首まで覆うだけだが、力場強度はブレードと同じで生体ビームも防げる。

 ブレードガードができるラフロならではの装備。同じかそれ以上の反射運動ができるパイロットでなければ持ち腐れにしかならない。


「落ち着いていくのな、ラフロ。流れ弾が影響しにくい距離でナビするんな」

「了解」


 生体ビームの白光は地を蹴るほどに高度を下げたラムズガルドの頭上を抜ける。青年はできるからといってブレードガードには頼らない。慎重な姿勢が戦術に幅を持たせる。


「右に回り込むんな。癖っぽいのな」

「承知」


 生物的であるだけに癖が存在する。個体分析を掛けると左の力場鞭(フォースウイップ)のほうが精度が低い。粗が隙を生んでいる。


「むん!」

「ジャッ!」


 光る鞭を弾いて間合いに入ろうとする。しかし、ヴァラージが口を開いて向けてきたところで、足を大地に噛ませながらブレーキを掛けるしかない。寸前までラムズガルドがいた場所で地面が爆発した。


「あの衝撃砲(インパクト)が厄介なんな。剣の間合いに被るし見えないのな」

「予備動作がある」


 機体を破壊するほどではないがノックバックが隙を作る。近接間合いで食らいたくはない。

 ただし、どんな形態でも総じて口から発する。口を開くという予備動作と向きからラフロは身を躱している。


「クロウパーツを上手に使うんな。間合いを読ませないようにするのな」

「多用はできぬが」


 これもラムズガルドの専用装備。ブレードグリップにクロウパーツを装着してある。一時的にとはいえ剣身を50mまで伸ばせる機能だ。

 ただし、エネルギー消費は激しい。グリップを大型にしてパワーマージンを最大化しているがそれでも足りない。チャージの頻度が上がればそれも隙になるとラフロは気にしている。


「しっ!」

「シャー!」


 遠間合いで突いた切先が爬虫類型ヴァラージの身体をかすめる。威嚇音を発して避けると螺旋力場(スラストスパイラル)を絡めにきた。即座に解除して間合いを取りつつグリップに手首からチャージプラグを打ち込む。


(高圧充填に0.5秒。その時間も惜しい世界でラフロは戦ってるのな)


 思い切って踏み込み、スラストスパイラルを弾いて迫る。機動力の減退しているヴァラージは脚力だけで躯体を跳ねさせる。ラフロの地を這うがごとき斬撃は空を切った。


「シャッ!」

「ぬっ?」


 左腕のレンズ器官がラムズガルドを照準している。ほとばしるビームから上空へと機体を逃がすしかない。狙いすました右の生体ビーム。ブレードスキンで弾きつつスピン。反動を最小限にして薙ぎを放つが間合いの外に逃げられた。


「一対一で集中させるとこの素早さは厄介極まりないのな」

「二対一でないだけいい」


 GPF側が崩れて二体を引き受けなければならないとなると互角の戦いもできないという。それは予想に難くない。


(フロドのほうはどうにか持ちこたえてるのな)


 ノルデはわずかに意識を振り向けた。


   ◇      ◇      ◇


 ラムズガルドのカメラ映像を含めたセンサー情報をダイレクトに受けとっているノルデと違って、フロドは中継子機(リレーユニット)からの俯瞰映像を見ているだけだ。ヴァラージを中心に展開しているGPFのアームドスキン隊は不用意に仕掛けられないでいる。


(生体ビームの効果が大きすぎるね)


 貫く白光は戦列を大きく乱す。包囲に穴を開けられそうになるのをどうにか防いでいる状態。

 それは、たゆまぬ努力による連携の巧みさもある。が、しかし連射の利かない兵器の特性のお陰でもある。


(力場操作に優れるヴァラージを攻めきれない。危うい均衡に見えちゃうや)


 爬虫類型個体は腕のリフレクタはもちろん、力場鞭(フォースウイップ)螺旋力場(スラストスパイラル)を駆使して集中砲撃を防いでいる。攻め手を欠いているわけでもない。衝撃砲(インパクト)を併用してノックバックした機体の腕や足を切り裂いて中破もさせていた。


(後退する中破機の換装復帰が滞るようになったら崩れるかも)


 足の遅い戦闘艦を降ろせないので補修用の反重力端子(グラビノッツ)コンテナを設置している。備蓄が無限大でない以上、いつかは途切れる措置でしかない。


「際どいな」

 力場鞭(フォースウイップ)をリフレクタで受けた機に生体ビームが浴びせられる。

「ちょっとずつ上手くなっちゃってる。長引くと崩れるのが早まりそう」


 リフレクタの透過性の低さや力場干渉の紫電光を目くらましに使いはじめている。アームドスキンの特性を学習しているのだ。


「たしかに、本能というには飛び抜けた戦闘勘だねぇ」

 独り言をメギソンが引き取る。

「時間を掛けるとこっちが蓄積している戦闘のノウハウを吸い取られそう。今のところはないけど撃破機が出てきてもおかしくないかも」

「封じ込めてるように見えるけど、そうでもないの?」

「押し込みきれない感じだね」

 素人のデラには違いがわからないだろう。

「あわよくば撃滅っていう意図が読まれてるかも。積極性に欠けてるからかな?」

「そりゃあね。ダラガ部隊長は援軍が来るまで維持したいって思ってるだろうしねぇ」

「そういう指揮になってるってことね?」


 見透かされてもいいから被害者を出したくないのだろう。この作戦の機密性を鑑みれば、戦死者が出たときの対応が難しくなる。逆に第五惑星から出さないですめば彼らの勝利といえる。


「自分が出ていってでも形勢を変えたい?」

「いや、僕が行ったら兄ちゃんの集中を削いじゃうだけだね」


 助けるつもりが助けられる羽目になりかねない。ラフロを不要な危機に陥れる行動は慎むべき。


「個体分析まわすんな」

 ノルデがこっち側の癖を送ってくる。

「そっか。兄ちゃんのほうに比べて周りが見えてそうだね。この目配りの仕方」

「立ち回りが上手いのな」

「惜しいなぁ。これが逆だったら案外すんなり退治できたかもしれないのに」


 運命の悪戯である。ラフロが対している格闘戦に秀でた個体なら部隊の集中攻撃に撃ち負けていたかもしれない。戦闘の流れを読む個体は同類のフォローをしようとして兄に隙を見せた可能性もある。


「だからって今から入れ替え(チェンジ)ってわけにもいかないし」

 分断のあとでは不可能。

「なら、今ある戦力でどうにかしないと」


 視点の優位性を使って敵の盲点を突きたいところ。意識を集中して戦闘地域周辺を俯瞰する。


「フェフ、隠れてたこのあたりってミサイルサイロがいっぱいあったんだよね?」

「みさいるさいろ? わたしの隠れてた穴ですか? 結構あったみたいです。だから探しきれなくて助かったんですけど」


 レーダー電波を強めて地下構造物まで探る。複数の空洞が確認できた。


「使えるかも」

「どうするんですか?」

「飛べるんだから落とし穴ってのは無理なんだけど、使いようかな?」


 閃きを戦術に落とし込む。できるだけ視野を広く取って利用法を考えた。


「ノルデ、あいつ、オープン回線まで聞いてないよね?」

「無理なんな。聞こえてても星間公用語(パブリック)を理解するほどの知性はないのな」

「じゃあ、割り込める?」


 フロドは作戦を実行すべくσ(シグマ)・ルーンのマイクをオンにした。

次回『兄弟激闘(2)』 「この幼げな声はノルデ殿の隣りにいた少年か」

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[一言] 更新有り難う御座います。 流石、ただの少年ではないね?
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