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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
剣士の奏でるカデンツ
147/158

閉じ込められて(3)

 第五惑星軌道にはもう主なき人工衛星が無数に周回している。星間(G)平和維(P)持軍(F)の戦闘艦ペヌ・ソリンとコルゴ・ソリンは排障ビームを撒き散らして排除しつつ低軌道へと進入。そこでアームドスキンを発進させた。


「つづくのな」

 ノルデの号令に合わせて追随するイグレドの三機。

「迫力ぅー!」

「言っとくけど、メギソン、3Dアトラクションでなにも感じられなくなるショーの始まりなんだからね」

「たしかにこいつはねぇ」


 六十機の『コムファンⅡ』と『ゼクトロン』が金翼を背負って自由落下同然のスピードで地表を目指す。追尾する彼らのラゴラナも空気との摩擦で若干の赤熱を始めていた。


「いつどこから仕掛けてくるかわからないんだよね?」

「ええ、フェフが生き残ってるとしたらポイント周辺から離れられずに隠れてるはず。彼らが囮になってくれている間に重点的に私たちで捜索するのよ」


 高度200mまで降下したアームドスキン隊が輪を描いて四方八方に広がる。その中心に位置するデラとメギソンで生存者を探すのだ。


「剛毅だねぇ。命懸けだってわかって平気で散ってくんだから」

「彼らはそれが仕事。担ってくれてるから私たちの平和があるの」


 ラフロのラムズガルドも今は近くで守ってくれている。しかし、ヴァラージが出現したら急行して対処に当たる計画。いつものように頼り切りとはいかない。


(生きててくれよ、後輩ちゃん。そうでなきゃ、みんなやラフロっちが命を懸ける意味がなくなっちゃうからねぇ)


 もしかしたら敵を呼び込む可能性を指摘されてはいたが、メギソンは躊躇いもなく強力な電波を発信する。可及的速やかに生存者を発見して保護するのが作戦を成功させる鍵になる。


「後輩ちゃん、迎えに来たよ! 出ておいでー!」

「フェフ、生きてるんでしょ! 返事なさい!」


 呼応はない。捜索範囲を広げることも考えねばならなくなれば危険は増すばかりである。可能なかぎり避けたい。


「怖い怖い化け物が出てくる前に帰るよー!」

「生き残りの人、今のうちに出てきて!」


 全滅という絶望的な単語が頭をよぎる。しかし、時間と場所が確保できているかぎりは努力をやめるわけにはいかない。


「さっさと出てきなさい! 叱ったりしないから!」

「家出した子供じゃないんだから」

「でも……」

 デラが涙声になっている。

「女史、君は……」

「あいつは……、あいつは人を食うのよ。フェフがそんな目に遭ってたら」

「く!」

 聞きたくない情報だった。


(引き下がるわけにいかなくなっちゃうじゃん)

 メギソンは唇を噛む。


「大丈夫だよ! 出て……!」

「大丈夫ではなくなった」

「ラフロっち?」


 青年は「やつだ」と言う。同時に無線も飛び込んできた。


「接敵! ポイント送る!」

「予定どおり交戦は回避。後退しつつラムズガルドへと誘導」

「了解!」


 ラフロは離れていく。彼らに残された時間も刻々と少なくなっていく。懸命に耳を凝らしても救助を求める声は聞こえない。


「駄目なの……?」

「あきらめないよ、僕ちゃんは! 後輩ちゃーん!」


 入れ替わるようにGPFのアームドスキンが周囲を固める。白光が空を走り、戦闘が始まったのがわかった。


「ラフロ、お願い!」

 デラが祈る。

「こうなったら、片っ端から覗いていっちゃうよ! デラ?」

「わかってるわ」

「こちらでも接敵!」

 そこへ絶望的な報告が。

「二体目!? そんな!」

「もしかして、とってもヤバいってやつぅ!」


(一体はラフロっちがどうにかしてくれるとしても、もう一体はどうする? このままじゃ離脱命令が出るかもね!)


 最初からそういう打ち合わせだ。現有戦力で対処できなければ二人は下げられる。


「マズいマズい、時間がない! 早くしないと!」


 メギソンは声のかぎりで叫んだ。


   ◇      ◇      ◇


 人型の怪物がまだいるのを認めてしまったフェブリエーナはもう眠れなかった。いつ来るかいつ来るかとコクピットに潜り込むのが精一杯。歯の根が合わないままに時間だけが過ぎ去っていき、ようやく空が白んできたのは憶えている。


(気が緩んで眠っちゃった?)

 限界が来たのだろう。

(まだ生きてる)


「後輩ちゃん、どこー!」

「え!?」


 無線ががなり立てている。それで目が覚めたらしい。疲労が溜まりに溜まっていたとはいえ、どれだけ熟睡していたのだろうか。


「この声、メギソンさん?」

 自動で応答スイッチがはいる。

「フェフ、どこ!?」

「先輩まで? ラゴラナ、起動して」

σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。機体同調成功シンクロンコンプリート。駆動状態にまで出力を上げます』

 スリープさせていた機体が目覚める。

「すぐに行きます」

「待ちなさい。状況は良くないわ。まずはポイントの発信からよ」

「はい! システム、識別信号(シグナル)を」

識別信号(シグナル)の発信を再開します』


 外部コントロール不可能になっている機能がパイロットの指示で再開されていく。フェブリエーナからも救助に来た機体の位置が映るようになった。


「こんなに!?」

「こんなにいても厳しい状況なの。いい? 合図したら出てくるのよ?」

「はい」


 数十を超える反応が近づいてくる。気が逸るが迷惑は掛けられない。必死に我慢して合図を待った。


「来なさい!」

「はい!」


 重力波(グラビティ)フィンを展開してラゴラナを飛び立たせる。開口部を抜けるとアームドスキンに取り囲まれていた。


「ターゲットB、接近中!」

「弾幕で対処せよ。後ろを意識した回避行動を」

 乱戦の最中である。

「ラフロ、フェフを保護したわ! 離脱しましょう!」

「手が離せぬ。先に上がれ」

「ラフロさんまで?」

「ええ、イグレドも来てるから」


 戦闘艦やイグレドの姿はない。部隊だけが来ている模様。あっという間に沈んでしまったクーナ・ソリンの姿が脳裏をよぎる。それを怖れて部隊だけ降ろしたのだろう。


「聞いて」

 デラ機に右腕を引かれる。

「先輩、ありが……」

「それはあと。ヴァラージ、例の怪物が二体いるわ。一体はラフロが抑えてくれてるけど、もう一体が襲ってくる。GPFの人に守ってもらいながら離脱するわよ」


(あれが二体も? ラフロさんは大丈夫? 三十機もいたアームドスキンが誰一人残ってないほどなのに)

 不安になる。


 ざっと見回しただけでは姿がない。自分を助けるために戦っているのに置いていっていいものだろうか。


「わたし、飛べます。ラフロさんの援護を」

「それどころではないの。このままでは私たちも危うい状況よ。団体行動をします。ナビスフィアに合わせて動いて」

「はい……」

 そう答えるしかできない。


 半数以上のアームドスキンが囮となって侵攻を阻止しようとしているが白光が走ると散らされる。二本の螺旋光の尻尾を生やした怪物は悠々と迫ってきた。


(助けに来てくれたのに先輩たちまで危険にさらして)

 疲労と危機感でパニックに陥りそうだ。


 集中するビームも螺旋光が薙ぎ払ってしまう。ブレードで斬りかかった機体が光鞭で打たれ腕を失う。尖った爪が彼女のラゴラナへとすぐにも届きそうだ。


「なんだってんだい! 弱いものを狙ってさ!」

「メギソン、馬鹿!」


 支えてくれていたメギソン機が怪物に組み付いていった。腰に抱きついて押し下げる。しかし、両腕の光鞭が彼を切り裂こうとした。


「メギソンさん!」

「ふぬ!」


 両肘を薙いだ光剣は赤銅色のアームドスキンのもの。ラムズガルドの足が頭を捉えて蹴り落とす。


「ラフロ!」

「今のうちだ、デラ」


 追ってきたもう一体の白光がラフロ機に直撃する。クロスした腕がエネルギーの奔流を弾き飛ばした。よく見れば、腕の甲にもブレードを展開している。


「浅い。あれでは再生する。退くぞ」

 返す一撃で胸を裂いたラフロが言う。

「撤退! 早く!」

「ひぃー、死ぬかと思った」


 フェブリエーナは先輩二人のラゴラナに支えられて上昇した。

次回『生存競争(1)』 「そうしてあげて。その……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 メギソン、最後の見せ場!?
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