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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
重い星のエチュード
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具象の剣士(2)

「やっぱり温度変化の少ない極点近くだと風化が起きてないみたいだわ」

「組成に代わり映えがないってことは吹き流されてきた砂だねぇ」


 再度の降下探査を行った。今回は気温の変化が少なく平地雪崩が起きないと思われる北極点付近である。

 地軸の傾きのほとんどない第一惑星では、昼の面が近く温度の平均化が起こっている極点は比較的高温の地域。温度変化が小さい所為で膨張収縮による組成ごとの断裂が起きずに金属砂漠化していない。


「めぼしいものが見つからないんじゃ作業時間の取れない場所を探査する意味はないわ」

 回折の影響で昼の面が広い。

「リスクがあっても赤道付近のほうがなにか見つかる可能性が高いのよ」

「でもさ、今度は平地雪崩で作業中断しなきゃいけないんじゃ意味なくない? 最悪、命の危険まであるんじゃねぇ」

「解析結果見れば続行の判断は間違いではないってわかるでしょう?」


 デラがノルデと進めたサンプル砂の簡易解析では、未知の合金らしきものがわずかながら見つかっていた。異なる場所の探査や、失敗した地核層のサンプリングを行えばさらに発見されるのではないかと期待している。


「それに、時間掛けて地表のマッピングしているのはダウンバーストの予想ができないかの挑戦。リスクマネジメントも考えてないわけではないわ」

 強硬に主張する。

「確実ではないんなー」

「ほら、ノルデちゃんもそう言ってるし」

「怖れてたら大した成果も挙げられず探査失敗するだけ。挑戦しなきゃ」

 無謀な試みではないと思っている。

「うーん、砂層の厚い赤道あたりでの掘削作業って時間取られてリスクが高まる気がするじゃん。いっそのこと、砲撃で砂層を吹きとばせない? イグレドだって戦闘装備あるんじゃない?」

「もちろんなー」

「ばーか。せっかく組成ごとに分解しているものをまた溶かしてどうすんのよ。下手すれば合成条件さえ解析できなくなってしまうのに」


 砂粒であっても、各種電磁波の照射エコーである程度どのような条件下にあったかは判明する。しかし、もう一度溶解してしまえば手がかりは失われてしまう。


「いやー、この環境下で掘削作業なんてさ……」

 メギソンは肩をすくめながら言う。

「自分の墓穴掘ってる気分になっちゃうんだよ」

「ちょっと同情しちゃうな」

「でしょ、フロドくん。僕ちゃんは正常だと思うんだけど」

 彼女とて理解していないわけではない。

「だからリスクを最小限にできるポイントを求めてマッピングしてるんじゃないの」

「落ち着くんな」

「そうはいかないのよ、ノルデ。私は挑まずして失敗するのは我慢ならないわ」


 後悔しか残らない。なんらかの対策を講じて再度の挑戦という選択肢もなくはないが、その機会を与えられるかどうかもわからないのだ。


「折衷案がある」

 重々しい響きの声の主はラフロだ。

「……ほんと?」

「ほんとなんな。マッピングに使っている中継子機(リレーユニット)からのデータを見るんなー」

「超音波エコー? 砂層の薄いところがあったの?」

 もはや見慣れてきた断面解析モデル。

「砂層の厚さは変わらぬ。なのに密度は高い」

「あら、ほんとだわ」

「思うに、このあたりは砂だけではなく(れき)が混じっているのではないかというのがノルデと(われ)の見解だ」


 礫とはつまり石ころのこと。砂にまで断裂していない金属塊が混在していることで密度が増しているのではないかという。


「礫ならば地核層から分離して間もない。直接採取するのとは違うかもしれんが」

「時間を掛けずに採取できるって言いたいわけね?」

 青年は頷く。

「確かにリスクを下げられる方法だわ。よく気づいたわね」

「来る前に学んだ。ここがどういう惑星(ほし)なのか」

「そうだったの」


(受け入れ前に私たちがなにを望んでいるのか予備学習までしてきてくれたのね。無口だからわかりにくいけど、すごく誠実な人。片手間じゃないかって思ってた自分が嫌になってしまうわ)


 星間管理局は彼らのことを把握していたのかもしれない。条件に最適だと。それでも幸運には感謝したくなる。


「試してみる価値はあるわね。ありがとう」

 ラフロに微笑みかける。

「ただし、どうして一帯だけは礫が混じっているのかは判然とせぬ。警戒は解けない」

「たしかにね。私なりに調べてみるわ。探査は明日にしましょう」

(われ)は素人だからな」


 青年の出過ぎない姿勢にもデラは好感を抱いた。


   ◇      ◇      ◇


 翌日、デラ、メギソン、ラフロの探査メンバーは降下準備に入っている。目指すは判明している礫の混在地帯である。


「ラゴラナ、デラ、準備OK」

「メギソンもOK。しかし、重いねぇ、ターナシールド」


 ラゴラナが左腕に装備しているのはリフレクタとは違う物理シールドである。身長近くもある大型の盾はかなり重量がかさむ代物。

 探査専用機の特殊装備である。表面に光変調ターナ分子『ターナラジエータ』を吹きつけてあり、ハニカム構造になった内部にはターナブロッカーまで充填されている。


「航宙船舶装甲より高いレベルのものよ。排熱もできれば放射線遮断も完璧。その気になれば昼の面でもダメージ無しで活動できるわ」

 自慢の一品である。

「でも、そこまで時間が掛かると思ってる?」

「なにがあるかわからぬ。防備はぬかりないほうがいい」

「まあ、作業内容からすればそんなに邪魔にはならないと思うけど」


 彼女たちが持ちこんだ装備を携行するよう提案したのはラフロである。初降下で危険にさらしたのは不本意であったらしい。彼なりのリスクマネジメントなのだろう。


「ビームコートより厚いターナラジエータを塗布してあるんな。万全なんなー」

「管理局だってなかなかのもんでしょ?」


 アームドスキン用のビームコートにはターナラジエータも混入されており、排熱効果も付与されている。しかし、ビームコートの目的は蒸散による排熱であり、赤外線変調は付加効果でしかない。複層吹きつけまで行われているターナシールドは恒星付近での活動まで可能にするものだ。


「ミッションが済んだら一枚譲ってあげてもいいわよ。上には私から話通しておくから」

「相手がビームだと三秒ともたないんな。戦闘用にはリフレクタのほうが向いてるんなー」

「それは失礼」

 ただの軽口である。


 力場盾(リフレクタ)であれば赤外線も放射線も防げる。ただし、負荷制限があって長時間展開できるものでもない。そういう意味で制限のないターナシールドは有用ではあるが、戦場では重いだけの枷にしかならないだろうことは容易に想像できる。


「ブリガルド、出る」

 青年が先行する。

「ラゴラナも続くわ」

「追っかけまーす」

「ポイントはナビスフィアに従うんな」


 膝元には球形の投影モデル。球体の中には進行方向を示す三角錐が封入されている。三角錐で表された矢印が進行方向を示していた。


「上昇気流が増えている。流されるな」

「ブレるわね。相対位置固定のオートクルーズセットしてるってのに」

「予想外だねぇ。密度高いから放熱控えめだと思ったのにさ」


 デラとメギソンの検討結果はそれであった。この砂礫地帯はダウンバーストによる平地雪崩が起きにくい条件下にあるのではないかというもの。礫が地表に出ないので熱膨張による風化が進んでいないと考えた。


「中断するか?」

「いいえ、このまま降下するわ。作業時間は短くてすむのだから問題ないはず。警戒はよろしくね」

「承知」


(ささっとすませて分析進めないと。これで上手くいかなかったら、今度こそ地核層の調査もしなければならないんだから)


 しかし、このデラの判断が思ってもみない危難を招いてしまうのだった

次回『具象の剣士(3)』 「緊急事態だ。言うとおりにしてくれ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ボーリング(掘削)するの?
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