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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
星の吐息のセレナーデ
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ポレボーの正体(2)

 基地司令サウズの命令により、粉塵の中を上昇してくる反応にアームドスキンが殺到する。重力場レーダーに映るのは小型船規模の質量体。スパイ船として即座に武器を突きつけ拿捕する手筈になっている。


(退去勧告に従っていれば拘束されずにすんだものを)

 大学教授を名乗った女に同情する。


「発砲は一応控えろ。即時制圧」

「ポーラ3、二十秒で到着。援護する」

「抵抗する暇を与えるな」


 引き締まった空気の中、影は濃くなっていく。そして、光を発した。それは金色の虫の翅のような形をしている。


(なんだと?)

 サウズは目を瞠る。


 粉塵を割って出たのは赤銅色のアームドスキン。その無骨なフォルムは明らかに戦闘用のもの。

 手にしていたブレードグリップからは長大な力場の刃が伸長する。まさに大剣と呼べるスケールで、長さは15mはあろうと思われた。


「げぇっ! なんで!」

「話が違っ!」

「正当防衛である」


 すでに向けられていたビームランチャーに攻撃意思を確認したアームドスキンは戦闘を躊躇わない。砲身を半ばから断つと、返す一閃が肩口から脇へと抜ける。


「やられた!」

「おい、撃っていいのか!?」


 想定外の事態に機動部隊の反応が遅れる。立て直す暇もなく、すり抜けざまに二機目の頭が刎ねられ背後から背中を浅く斬られる。


「は、発砲許可!」

「一機だけだ! 制圧しろ!」


 一撃目のビームが躱されたと思った瞬間には腕が肩から離れていく。脇から突きいれられた切先は制御部を貫いて背中に抜けた。


「速いぞ。油断するな」

「そんなのは見ればわかる」


 混乱したものの、訓練されたパイロットは徐々に落ち着きを取りもどす。距離を取って頭部を狙撃。背後からの一射は確実に捉えたと思われたが、振り返った不明機は前にかざしたブレードの腹で弾きとばした。


「馬鹿なぁ!」


 近距離からの狙撃。見て反応できるものではない。それなのに赤銅色の機体はものともせず、リフレクタも使わずにビームを退けていく。逆に押し込まれた一機が戦闘不能にされた。


「誰が簡単な任務だって言った?」

「知るか、こんなの! 管理局の新型か?」


 連携も断たれてまた二機が動けなくされた。これで集まっていた六機のアームドスキンが大破させられている。


(なんだ、あれは? 調査船ではなかったのか?)

 異常な戦闘力は、本当に敵国のスパイ船かと思うほど。


 動転したサウズは明確な指示が送れないでいた。


   ◇      ◇      ◇


「手も足も出ないじゃない」

 デラが呆れている。

「ラフロ一人を突っ込ませるなんてどうかと思ったけど、取り越し苦労だったわけ?」

「当然なんな」

「想定内なのね」

 ノルデは肩をすくめて答える。

「普段でも敵じゃないのな。ましてやナナンマのときのラフロは戦闘本能が強く作用するから手を付けられないなー」

「いつもでさえ異常な反応速度なのにね」

「抜かせた時点で終わりなー」


 ポレボー側のナシウス地表にひそんでいたのはラムズガルドだけ。最初から操縦室にラフロはいなかったのだ。

 彼らがのんきにレーレーン軍の策を評していたのは安全な場所にいたから。そこは衛星ナシウスの裏側。ポレボーが側方を通過しようとしている先である。


「そろそろ僕たちも行こうか?」

 フロドが操舵レバーに手をかける。

「ポレボーの正体を拝ませていただこうかしら」

「がっつりと撮って管理局に送りつけてやるのな」

「意地の悪いこと」


 イグレドは先回りする。そこには外郭にまとっていた岩石を置き去りにして進んでくる機動要塞の姿。金属装甲で覆われた長径5000mの威容は本来の重さの二倍以上になっていて当然である。


「こちら、中央(セントラル)公務官(オフィサーズ)大学(カレッジ)の契約小型艇イグレド。これよりポレボーの調査を行う。容認されたし」

 デラが勧告する。

「意地が悪いのはどっちなんな?」

「まあ、許可なんて必要ないわね」

「あれに近づくのは危ないのな。ラフロに任せるのなー」


 その後も集まってくる国軍機を戦闘不能にしつつ要塞を追ってくるラムズガルド。イグレドと挟み撃ちにする格好になっている。


(つまんない企みをするから目を付けられるのな。競争心が悪いとは言わないけど、出し抜こうとすれば落とし穴もあるんな。困ったことにどこかで目がくらんでしまうのな)


 脇の甘さを愚かしく感じるノルデだった。


   ◇      ◇      ◇


「なにをしている? たった一機をどうして制圧できん!」

 サウズはモニターをにらみながら吠える。

「ですが、あれは異常です」

「どこのアームドスキンだ?」

「見たことも聞いたこともありません」


重力波(グラビティ)フィンだと? どこの新型だ? 管理局の登録にないなら敵国が開発したものか。管理局と組んで我が国を陥れるつもりだな?)

 疑心暗鬼に囚われている。


「ナシウス最接近ポイント通過! 重力影響で軌道偏移が起こっています」

 混乱していても事態は進行する。

「一次加速準備!」

「小型艇が正面にいます」

「弾幕を張って遠ざけろ!」

 不用意に加速すれば巻き込む可能性も。

「公務官大学の船に砲撃するのですか?」

「止むを得ん。やれ」

「対空砲火、目標小型艇!」


 今や光学観測圏内の小型艇に攻撃をくわえる。対空ビームの雨が防御フィールドを薄紫に染めている。押されるように後退していた。


「一次加速開始!」

「一次加速、プラズマジェット噴射します!」

 まずはトリグルの重力圏から抜けなくてはならない。

「敵アームドスキン、来ます!」

「なにぃ!」

「と、取り付かれます!」


 戦闘不能機を量産した敵機が迫ってくる。プラズマジェットを避けて取り付くと、ブレードを振るいはじめた。


「1番ノズル、出力不安定! ……停止しました!」

 一番聞きたくない報告が耳を突く。

「防衛部隊はどうした?」

「出払っています」

「馬鹿を言うな! 何機いたと思ってる」

 万が一のために置いていたのは戦闘艦二隻分だ。

「六十機です。全機が戦闘不能に」

「な! あり得ん」

「2番、3番ノズル停止しました。十分な加速はもう……」


 ポレボーはすでに落下軌道に入っている。加速して離脱できなければ視界を埋める巨大なガス惑星に沈むだけだ。しかし、無情にも残りの二基まで停止を告げてきた。


『機動要塞ポレボーはトリグルに落下します。退避してください。退避してください』

 要塞のシステムも失敗を宣告。

「……総員、退避せよ」


 サウズはそれ以外の言葉を発することができなかった。作戦は大失敗である。莫大な予算を投入して建造された機動要塞が一度も機能せずにガス惑星(ジャイアント)に沈む。分厚い大気の底に達する前には圧潰して誘爆するだろう。

 任務を遂行できなかった彼は軍法で断罪される。機動要塞司令着任の栄光などどこにもない。すべてが失われたのだ。


(すべてがあの小型艇の所為で)


 なにをどうしてそこにいるのか記憶にはないが、サウズはポレボーの搭載艦の艦橋(ブリッジ)に移動していた。透明金属窓(キャノピー)の向こうには嘲笑うように小型艇が金色の翅を展開して浮いている。


「あれを撃沈しろ」

 つぶやくように言う。

「なんですか、基地司令?」

「あの艇を沈めろと言っている! ポレボーと同じ運命を辿らせるのだ!」

「無茶を! 管理局の管轄する艦艇を攻撃などしようものならレーレーンは……」


 もう誰も彼の命令に従わない。終わったと思われているのだろう。


「戦闘艦が接近中。星間(G)平和維(P)持軍(F)です」

 静かに告げられる。

「こちらはGPF艦『シュライツェン』。レーレーン軍戦闘艦に告ぐ。当該艦には公務妨害容疑がかかっている。武装を解除して本艦の指示に従え。抵抗は無駄である」


 サウズはその場に膝を突いてうなだれた。

次回『ラフロの恋唄』 「それも(われ)には難題だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……見事な自爆(自縛)……。 ”欲で目が曇り、良く見えなかった”を体現したな。
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