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ゼムナ戦記 剣の主  作者: 八波草三郎
光なき星のトロイメライ

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宇宙の落とし穴(3)

 回線を閉じてから真っ先にデラがしたのはノルデの様子を窺うこと。根拠は多々あるが確証まではいたっていない。


「どう?」

 返答を待つ。

「正解なんな」

「ふぅー」

「そんなに安心してどうするんな。中継子機(リレーユニット)を飛ばすだけで、すぐにわかるようなことなのな」

「ううっ!」


 ターナ(ミスト)を検知していれば、それを端緒に結論を導きだせていたはず。それをしなかった迂闊を指摘されたようなものだ。


「今にも突っ込んでいきそうな連中を説得するだけで精一杯だったんだもの」

 苦しい言い訳をする。

「普通は思いつかないし、天然のターナ分子が湧く惑星があるなんて」

「宇宙はなにがあるのかわからないのな。それはデラみたいな科学者の専売特許のはずなんな」

「それ以上はやめて。心に致命傷を負うから」

 胸を押さえて苦しむジェスチャー。

「それより救助方法よ。私が挙げた条件、ぴったり合ってる?」

「合ってるんな。大気に電磁波変調物質(ターナ分子化合物)はひと通り揃ってるのな」

「電磁波系センサーは完全無効って、とんでもなく厄介ね」


 そこに光学系、つまりカメラ映像が含まれているのが特に痛い。どうあっても人間の主感覚器は目である。頼り方は大きく偏重しているといっていい。


「フロド、測距レーザーの通りは?」

「絶望的」

 反射は全くない。

「レーザー回線も無効にするくらいの濃度のターナラジエータで満たされてるって思っていいわね」

「普通の交信方法は全然通用しない感じ」

「落ちた連中、お互いに連絡も取り合えない状態だわね」


 光どころか全ての電磁波での真っ暗闇の中、放りだされて呆気にとられているだろう。我に返っても、足掻くほどに事態は悪化してそうな気がする。


「せめてこっちから認識できる状態でないと救助なんて夢のまた夢だわ」

 その術を封じられてしまっている。

「えーっと、地表近くの環境を予測してみましょうか。観測できてる赤外線はターナブロッカーが宇宙放射線を変調放射してるものだから当てにならない」

「なんなー」

「ターナラジエータの濃度からしてソニタ・リリの光は地表まで全く届いてない。でも、大気はあるからそこまで冷えてもいない。二酸化炭素量次第だけど氷点下前後かしら」


 もっと冷えているかもしれないが、地熱もあるのでそれくらいを予想する。あまり自信のない推測値ではあるが。


「呼吸できるような外気じゃないけど、生命維持に苦労するほどじゃない」

 タイムリミットに苦しめられることはない。

「あとはターナ分子の分布の具合。一番重いのは?」

「ターナブロッカー。その次がターナラジエータで、最後がターナ(ミスト)

「変調波長が短い順ね。それだと地表ではハイパワー無線は通じるかも?」

 積層構造を形成している可能性を説く。

「風で撹拌されてるんな。簡単に分離するほど比重の差はないのなー」

「そうよね。勘弁してほしいわ」

「甘くないね」

 フロドも苦笑いをしている。


 宇宙の落とし穴は楽観的な予測を許してくれない。落ちたら最後、真っ当な方法では抜けだせそうにない。


「そもそも姿勢制御もままならないんでしょ? だったらシステムサポート切らないといけないんだよ?」

 少年は航法担当だけあって現実的判断が先にくる。

「システムサポート切って自分で姿勢制御? それって無茶すぎない?」

「かなり神経を使うが不可能ではない」

「それはラフロくらい平衡感覚を鍛えてあればの話。私に期待しないで」

 剣技を下支えする青年の体幹は半端ではない。

(われ)が声がけをすればよかろう」

「……!」

「兄ちゃん、それだよ!」


 デラの脳裏に閃きが走る。フロドも即座に気づいたらしい。


「なんて迂闊なの。ここまで気づかないなんて」

 科学者としてあまりにお粗末だ。

「もう一つあるじゃない、無効化されてない観測技術が」

「それは」

「「音波!」」

 少年と声を揃える。

「超音波エコーを取ればセンシングできる。大気圏に進入しないと無理だけど。それができるのは搭載している船舶と……」

「ラゴラナとガルドシリーズ。私たちなら捜索が可能だわ」

「イグレドにもね」


 超音波を照射して反射を計測し周囲の状態を把握する。海の生き物や一部の地上生物も使っている手法。いうなれば超音波レーダーである。


「ノルデ?」

「遅いのな」

 文句を言われた。

「ラゴラナとラムズガルドの電磁波センサーによる姿勢制御を無効にしたんな。その代わり、超音波エコーで姿勢制御して周囲状態も3D表示できるようにしたのな。超音波デジタル交信システムを構築したんなー」

「そうか。波長をそれぞれで変えれば可能なんだ」

「先回りしすぎでしょ!」


 結論どころか、実践手段まで突きつけられる。もしかしたら既存のものだったのかもしれない。


(おそらくノルデのお仲間さんが過去にこの第一惑星を発見してる。そのときの探査手段として超音波を使ったんだわ)

 彼女のリアクションからしてほぼ確実。

(まさか、ターナ分子の発見がここの天然ものとか言わないでしょうね?)


 そこまでいくと夢物語に近い。アームドスキンの構造からして、開発当時からターナ分子も活用していたであろう痕跡が窺える。彼らの創造主はすでにこの銀河を縦横無尽に闊歩していたのだろうか?


「じゃあ、実際の捜索手順から決めましょうか」


 デラは三人に向き直って提案した。


   ◇      ◇      ◇


「どうすればいいの?」

 ヘルミ・ケッチュ外務政務次官はまだ立ち直れていない。

「あの女教授が予想した状況だとしたら救出なんて絶望的。探査チームメンバーを見殺しにしたわたくしは非難の的。移民計画による特需は夢のまた夢。ダイヤモンド層なんてどこにもない」

「残念ながら」

「愚かなゼーニンをスケープゴートにしたところで収まるようなものじゃないわ」

 彼女の政治生命どころか政権まで傾きかねない。

「誰に責任を押し付ければいいの? そうだわ。わたくしを渉外担当に任命した外務相の責任じゃない。そうでしょ?」

「もちろん追及されますでしょうが、あなた個人の責任がないとはどなたも考えてくれないでしょうね」

「事務次官は責任を取ってくれないの? そう、あなたが全部被ってくださらない? それなら、今後のあなたと家族の生活は党が保証してさしあげるわ。どう?」


 名案とばかりに補佐官として派遣されている官僚を見る。しかし、彼はどこ吹く風という風情。


「口約束で誤魔化したりしないわ。きちんと文書化してあげる」

 コンソールを立ち上げる。

「そんな危ない橋は渡れません。発覚すれば全員が破滅ですよ?」

「だったらどうするのよ」

「逆に考えてください。これはチャンス以外のなにものでもないではありませんか」

 事務次官が提案してくる。

「どういう意味?」

「いいですか? ターナ(ミスト)一つ取っても重要な物資なのですよ。合成品は高価でありながら軍は使用しないわけにはいきません。演習で散布するにもそれなりに予算を投じているのです」

「そうなの?」


 そちら方面に明るくないヘルミには理解が及ばない。彼が言うにはそうなのだろう。


「それが大気に充満しているのですよ? 採取し放題ではありませんか」

 運送コストだけしかかからないと説かれる。

「宇宙の落とし穴? とんでもない。この第一惑星は金の湧く泉ではありませんか。移民計画を当初の予定より早めるよう本国に提案すべきです」

「そうなのね! 素晴らしいわ。発見の手柄はわたくしのものなのね!」

「ええ、探査チームの人員は不幸なことながら、我がオイロニカが発展の道を歩む契機になった事故の尊い犠牲なのです。悼んでさしあげましょう」

 官僚の優秀さに舌を巻く。

「そうですね。国葬を執り行ってさしあげなければなりませんね」

「それがよろしい」


 ヘルミは補佐官と密かに笑い合った。

次回『遭難機救出ミッション(1)』 「すご……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 政治と宗教は何処にでも湧くなぁ……。
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