第6話
何で……何でこいつらが「僕の葬式」に来ているんだ!?
僕の葬式って言い方は変だが……まだ自殺していない僕の葬式がなぜか行われていて、しかもラジオ番組で中継されている。そして今、焼香待ちの参列者でインタビューに答えているのが……
――僕をイジメて自殺に追いやった不良グループの連中だ!
リポーターの地元アイドル、忍野萌海がインタビューを続けている。
『えぇっと……皆さんのお名前を教えていただけますか?』
『はーい! 宇郷 集とゆかいな仲間たちでぇーっす!』
やっぱりそうだ! 何で僕の葬式に来てんだよ!? しかもこのノリ……イジメた相手が自殺したっていうのに全然反省してないじゃないか!
『あはっ、テンション高っ! よろしければ故人との関係を聞かせてください』
『はーい、目羽谷 明くんのお友だちでーす!』
『おーい、ウソつくなー』
『間違えましたー! 目羽谷くんをイジメてたイジメっ子でぇーっす!』
――なっ!?
こいつら、自分たちをイジメっ子だと公言してやがる……何て奴らだ! だがこの後、不良グループのリーダー格、宇郷集の言葉はさらに僕の心をえぐった。
『今回、明くんは自殺をされましたが……今のお気持ちは?』
『えーっとぉ、ぶっちゃけ目羽谷が死んで……せいせいしたっす!』
――!?
何だって? 反省していないどころか僕が死んでせいせいした……だと!? 僕の体中から怒りと絶望が同量に込み上げてきた。
『それは穏やかじゃありませんねぇ! それに……イジメる対象がいなくなったら淋しくなりませんか?』
――そっちじゃないだろバカアイドル! イジメそのものを否定しろよ!
『まぁ対象なんて他にいくらでもいるっす! しょせんあいつらは使い捨てっすから! ただ……アイツ、目羽谷に関してはマジで死んでくれて助かったっすよ』
――こいつ……人を虫ケラみたいに扱いやがって!
宇郷! お前は鬼か!? 悪魔か!?
『だって……アイツが生きていたら……オレが死ぬことになるっすから!』
――え?
――何だそれ?
僕が生きていたら……宇郷が死ぬ?
えっ、意味がわからない! するとリポーターの忍野萌海が宇郷に聞いた。
『ええっと、どういうことでしょうか? 詳しく教えていただけませんか?』
『いいっすよ! 実はオレ……将来は高校を卒業して警察官になるんすよ』
はぁ!? お前が警察官だと? 警察官は法を守る仕事だ……お前は僕に暴行して恐喝して侮辱して……さんざん違法なことをしてきたくせに……ふざけるな!
『まぁオレは高卒で、いわゆるノンキャリアなんすよ! でもある日、アイツ……目羽谷のヤツが○○大学を卒業して警察庁……つまりキャリアになって、オレがいる警察署に上司としてやって来るんすよ』
――え? 何だって?
『オレは毎日、目羽谷のヤツに馬車馬のようにコキ使われて……やがて身も心もボロボロでノイローゼになって、警察署の屋上から飛び降りて自殺するっすよ』
『へぇっ! そうなんですか?』
『はい、だから今の段階で目羽谷のヤツが死んでくれてよかったっす! おかげでオレは死なずにすみました! いや~、人生何が起こるかわからないっす!! 目羽谷~! 死んでくれてありがとぉ~!』
『イエーイ!』
『えーっ……以上、参列者の皆さんでしたー!』
――何だそれ?
何だその……まるで未来を見てきたような話は?
僕が……警察のキャリア? 宇郷の上司?
そんなこと……1ミリも考えたことない。
将来なんて……今まで考えたこともない。
僕には……「将来」があったのか?
ラジオの番組はまだ続いていた。DJのショウさんが、リポーターの忍野萌海とやり取りしている。
『えーっ、明くんの葬儀はまだ続いてるみたいですが、そろそろ次のコーナーへ移りたいと思います。最後に……萌海ちゃーん!』
『はいはーい!』
『萌海ちゃんはー、明くんについて何か言いたいことありますかー?』
『そぉですね……私は元々、Φブレイクというご当地アイドルグループのメンバーでした。で、グループは皆さんご存知の通り全国進出しましたが……私はある理由で参加することができず、脱退を余儀なくされました……』
今までふざけまくっていたバカアイドルが、急に真面目なトーンで話し始めた。
『正直、全国に行けなかったのはものすごくショックでした! 完全に道をふさがれて……引退も考えました。でも……私には私なりの道がある! これからも地元アイドルとして続けていく道を選びました! 全国ツアーはないけど、今は地元に密着したこのお仕事が大好きです! まだまだ人生は長いですからね……どんなに辛くても、生きていれば必ずイイことがあると信じてます!』
――生きていれば……必ずイイことがある?
『そう考えると彼……目羽谷明くんは、人生の結論を出すのが完全に早すぎましたよね! イイことを経験する前に終わっちゃいました……もったいないです!』
――う゛っ!!
『そーだよねぇ、萌海ちゃんも色々辛いことあったもんねぇ! あっ、そういえば萌海ちゃーん、今日はアレの調子どう? 爆発してない? 座るときは注……』
『すみませーん! そちらの音声がちょぉっと聞こえにくくてぇ……以上、目羽谷明くんの葬儀会場からでしたー! スタジオにお返ししまー〝ブチッ!〟……』
『え、ちょっ……あーっ! アイツ音声勝手に切りやがったー!! えーっ、それではリクエストでーす! ラジオネーム・ミスタードー祖神さんから……』
考えたこともなかった。僕は……
大人になってからのことなんて……何も考えていなかった。まぁ目の前の「イジメ地獄」のせいで、考えている余裕すらなかったが……。
確かに……例えば人間が80年生きたとして、今の僕は14歳……まだ人生の2割も生きていない。今まで生きてきた年月を、あと4回以上も経験するんだ。
その中には……まぁイイこともあるだろうけど。
――でも……僕には今この時間、この瞬間が耐えられないんだよ!
それに……絶対にイイことばかりじゃないだろ!? 悪いこと、辛いことだってあるに決まってる! この頭のおかしいラジオ番組にだまされないぞ!
それに……
さっきから聞いてりゃこのラジオ番組……自殺しても意味ない! 自殺されると迷惑! だから自殺は悪いこと! という情報操作をしているように聞こえる。
自殺のどこが悪いんだよ!? 僕が勝手に死んで、誰にも迷惑かけずに消えていくだけじゃないか!
仮に、僕がもし宇郷たちを殺してしまったら? 僕は殺人犯になって家族や親戚や学校……そして宇郷たちの家族にも迷惑をかける……それに比べたら自殺の方が全然マシじゃないか! 自殺は殺人罪にならないぞ! 合法だ!
すると……
『……くん、明くーん!』
DJのショウさんが僕に呼び掛けてきた……えっ、何で?
『明くーん! 今、キミはこの放送聞いているよねー?』
さっきの僕の葬式といい……このラジオ……やっぱりおかしい!
『でさぁー! キミはスマホのアプリ使って聞いてるよねー?』
何で……僕がネットラジオで聞いていることを知っているんだ? 誰か近くで見ている!? それとも監視カメラが仕掛けられている!? 僕は気になって周囲をキョロキョロと見回した。
『明くーん、ちょっとだけでいいから……スマホの画面を見てごらん!』
何でショウさんが僕の行動を把握しているのか不思議だったが、僕はショウさんに言われるまま、恐る恐るスマホの画面を見た。
「うわっ……何だこれは!?」
そこには……とても不気味な「物体」が映し出されていた。