第5話
何で……僕の葬式がラジオで中継されているんだ?
誰かのイタズラか? ドッキリ番組か? 僕が自殺予告の手紙を送ったから、それを防ぐための演出か? それにしてはずいぶん回りくどいやり方だなぁ。
『それでは、祭壇の様子をリポートしていきましょう!』
忍野萌海がリポートしている傍でお坊さんの読経が聞こえる。しかし……ラジオで自殺を思い直すように訴える演出だったとしても、わざわざ地元アイドルの忍野萌海を使うか? まぁラジオは映像がなくて音声だけだから、スタジオの中で適当にしゃべっていれば本物の葬式っぽく聞こえると思うけど……。
『祭壇の両側には多くの供花が飾られております。親戚、そして学校……多くの関係者が突然の出費に迷惑していらっしゃることでしょう』
――え、ちょっと待って! 今、このバカアイドル変なこと言わなかったか?
『祭壇の中央には遺影が……これは、自宅で見つかったメモリーカードに記録されていた画像だそうです。明くんが失踪する前日に自撮りされたものですが……』
――うわっ! あの写真を使ったの?
『ぷぷっ! あーっはっはっは……マヌケ面ぁ~!』
――おっおい、人の遺影見てなに笑ってんだよこのバカアイドル!
『いや~悲壮感のカケラもない世間知らずの坊ちゃん……って感じのマヌケ面ですねぇー! あー笑える』
『えーっ、萌海ちゃーん! そんなに面白いの?』
『はい、面白いんで後でSNSにアップしておきますね』
おいやめろ! ふざけんな! 僕の苦労や苦痛を何も知らないくせに! お前の方がファンからチヤホヤされて金稼いでる世間知らずのバカアイドルだろうが!
『じゃあ萌海ちゃーん、誰でもいいんで適当にインタビューしてくださーい』
――ショウさん、適当って……
『えー……それでは、喪主を務められております明くんのお父様にインタビューしたいと思います。この度はご愁傷様でしたー!』
――お疲れさまでしたー! みたいなノリで言うな!
『あぁ……どうも』
――あっ、これは間違いなく父さんの声だ!
『息子さんが亡くなられたことについて、今のお気持ちをお聞かせください』
『えぇ、そりゃもう悲しいですよ。14年間大事に育ててきた息子ですから……家内も同じ気持ちです』
まぁ、父さん母さんには迷惑をかけたなぁ……僕が死んで、これからずっと悲しみを背負って生きていくのかなぁ……。
『ただ……私たちはいつまでも悲しみを背負っていく訳にはいきません』
――え?
『私たちは生きています。もし、ショックで食事がのどを通らなかったら餓死してしまいます! この先どのような困難が待ち受けていたとしても、人は強く生きていかなければならないんです』
――えぇええええええっ!
『幸い、我が家には次男がおります。将来のことはこの次男に託し、彼には明の分まで強く生きるよう期待します。いつまでも過去のことに縛られていては前に進めません! そのために人間の脳は【忘れる】ことができるんです!』
『全くその通りですね! ではお父様、そしてご家族の皆様の今後のご活躍をお祈り申し上げます』
『はい……ありがとうございます』
『以上、お父様へのインタビューでしたー!』
――何それ!?
たっ確かに……いつまでも悲しんでいられないからそれも一理あるけど……僕が死んだばかりでその考えは早すぎないか? あまりにも薄情すぎるよ!
『萌海ちゃーん、他の様子はどうなのー?』
『はーい! 続きまして……葬儀式場のお隣、初七日法要が行われる会場に来ています。現在、告別式の真っ最中ですが……もうすでに待ちきれない親戚の皆様がお集まりになり、盛大に法要……いえ、飲み会が行われております! では早速、親戚の方にインタビューしてみたいと思いまーす』
えっ? 式の最中に初七日っておかしくない? しかも盛大にって……普通、こういう席では「粛々」とか「ささやか」って言わないか?
『それでは、えー……あぁもう出来上がっちゃってるオジサンがいますねー』
『おぅ、べっぴんのねーちゃんがいるじゃんけ! こっちこうし!』
――あれ、この声は……
『えーっと……お名前と、どういうご関係かお聞かせ願えますか?』
『おぅ、俺は明の叔父で野村っちゅうだよ』
やっぱり! 野村の叔父さんだ! 叔父さんには小さいころから、自分の息子のように可愛がってもらっていた。僕が死んだからさぞ悲しんでいるだろう……叔父さんにも悪いことをしたなぁ……。
『どうですか? 今のお気持ちは……』
『んなこたぁどうでもいいからねーちゃん! こっちきてお酌しろし』
――えっ? そんなこと? どうでもいいから?
『それセクハラですよー! でもはぃ、どうぞ!』
『おぉ悪いじゃんけ! じゃあ俺が注いでやるからねーちゃんも飲むけ?』
『あっ私は未成年ですから……で、いかがですか? 今のお気持ちは?』
『おぅ、久しぶりに親戚一同が揃ったからな……明には感謝してるわ』
――はぁ? なんだよソレ!
『姪っ子に子どもが産まれとぉ……兄貴の初孫だ! 今、見してもらったけんどいいなぁ孫はよぉ、俺も早く孫が見てぇなぁ!』
『あぁ、皆さん近況報告で盛り上がっていらっしゃいますね?』
『ほぉさよー! 葬式なんて親戚の同窓会じゃんけ! 冠婚葬祭でもなけりゃ集まらんっちゅーこん! 俺だって香典をたいへん包んで供花まで出してんだ。親戚同士で昔話に花を咲かせてビールでも飲まなきゃやっちゃあいられんわ!』
――何ソレ? 叔父さんひどいよ! 僕のことは悲しんでくれないの?
『えっと……昔話とおっしゃっていましたが、明くんに関するエピソードは何かありませんか?』
『明か? アイツは昔っから壁にぶつかると、考えることを放棄してすぐに世の中が悪いとか他人が悪いとか言う奴だっとぉ……まずは自分を俯瞰で見て、他に策がないか色々考えてみりゃよかっとぉに……』
『あぁ、そうなんですか?』
『ほぉだよ、アイツは1+1=2しか答えが導き出せない奴だよ』
『だそうでーす! 以上、初七日会場からでしたー!』
何ソレ……1+1=2って普通そうじゃん! じゃあ何? 他に誰か僕を救ってくれる方法あったの? ないでしょ!? 自殺する以外に方法ないじゃん!
『それでは、ここで弔電が届いております! 明くんが通っていた学校の、担任の先生からですね? 読み上げたいと思います』
担任から弔電? 来ていないのか……ま、何の対応もせず僕を見捨てた薄情な人だ! 気まずくて来られないのだろう。
『突然の悲報に接し、マスコミや保護者会への対応に迷惑しております。教師は一地方公務員で、その目的は児童生徒に勉強を教えることであり、生徒個人の問題は月収に反映されません。安月給の教師に相談せずとも、巷ではイジメ相談ダイヤルなど様々な解決策が存在します。教師の手を煩わせず、なぜこのような方法を取らなかったのでしょうか? 私も電話番号を教えたはずです。それなのに見捨てられたとか薄情だとか……そのような彼の身勝手な考えに憤りを感じております』
――何だよこの変な中継! 全て僕が悪いみたいじゃないか!?
――みんなは死んでからも僕をイジメるのか!? こんなの地獄だ!
『はーい! 続きまして、今度は焼香に並んでいる方にインタビューしたいと思いまーす……こんにちは~』
『おぉ! 忍野萌海だ!』
『カワイイ! 握手して!』
『あっ、サインちょーだい!』
『イエーイ!』
――!?
この声は……まさか?
間違いない……いや、間違えるはずもない。
こいつらは……
――僕をイジメた奴らだ!!