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【第一章】其の七『マナ・フローライト』

気持ちの良い朝。コウヤは小鳥のさえずりで目を覚ます。スマートフォンは既に充電が切れており、異世界転移をして来てから現在時刻は不明のままだ。恐らく、AM7:00過ぎだと推測する。


「……、エフィ、朝だぞ。」


隣のベッドで眠っているエフィに声をかける。彼の呼びかけから数秒経った後、彼女は静かに身体(からだ)を起こした。


「……、ふぁぁ……。おはよう、コウヤくん。」


「おはよう。良く眠れたか?」


「うん。……コウヤくんこそ、良く眠れた?」


「ああ。ぐっすり眠ってたよ。」



この世界に来てからさっそく様々(さまざま)なイベントに遭遇したものの、その疲れを癒す睡眠をとれたのは彼等(かれら)にとっては何より嬉しい事だった。起床後は共に一階で朝飯を済ませ、一晩お世話になった宿を(あと)にした。



「それにしても、昨日は物凄く大変だったよな……。

異世界転移して来てから、まさかあんな事に巻き込まれるなんて……。」


「でも、王国に来れたのは凄い事なのよ。ましてや王国剣士からの招待なんて光栄だわ。


今はまだ色々と心配かもしれないけど、


この王国にはグレンさん以外にも強い人達が沢山居るから、(こわ)いモンスターが現れてもきっと大丈夫!」


「そうだといいんだが……。」


(まあ確かに、グレンと、あのハンマーのオッサン(ラルゴバーグ)は強かったが。)


「それより、今は何処(どこ)に向かってるの?」


「王宮だ。グレンに会いに行く。」


「王宮……、って事は、ついに王様が居る場所に……!」


「緊張するか?俺はガチガチに緊張してるぜ……?」


「あはは……。ほらほら、深呼吸、深呼吸っ……!」


王宮は、一般人や許可の無い者は基本的に立ち入る事が許されない場所である。しかし、グレンから直々(じきじき)に招待されたコウヤとエフィは入る事が出来るのだ。


とは言っても、仮にも王国のトップが生活している場所だ。彼等(かれら)にとって、いくら王宮に入る事が許されていても、内心緊張せざるを得ない状況だろう。


宿から少し北の方角に歩いて行くと、()ぐに王宮正門(おうきゅうせいもん)の目の前に着いた。

改めて門の正面から見上げてみると、非常に巨大な建造物である事が(わか)る。


二人が王宮の外見に夢中になっていると、その一部始終の行いを怪しんだ門番が近付いて来た。


貴様等(きさまら)。王宮に何の用だ!

此処(ここ)は一般人が立ち入る事は許されない場所だ!」


「いやぁ、グレンって奴に王宮に招待されていてさ。通して欲しいんだ。」


「グレン・セ・ロアール様にか?誰が信じるか。戯け者めが。」


「それが本当なんだってば。」


「ええい、帰れ!此処は貴様等(きさまら)が入れる場所では無いのだ。」




「まぁまぁ、その辺にしたまえ。」




聞き覚えのある声が、門番の直ぐ後ろから聞こえて来る。


「これは……、グレン・セ・ロアール様……!」


「グレン!」


「彼等は私が招待したのだ。」


「それならば……、……どうぞ、お通り下さい。」


「さあ、入りたまえ。」




◇◇◇◇◇◇◇◇

ヘレナヴァレ王宮

◇◇◇◇◇◇◇◇



正門を潜り抜け、一歩一歩、王宮に近付いて行く。

その(たび)に、心臓が痛くなるほど脈動を続け、全身の骨を伝って来るのが(わか)った。


過度の緊張のせいか、何度も朝飯が逆流しそうになったり、お腹が痛くなったりを繰り返している。



(う……、

中学受験の合格発表の前日を思い出すな……。)



「そう緊張するな。コウヤ。」


「ああ……、(わか)ってる……。」


コウヤは歩きながら胸に手を当てると、大きく深呼吸をした。


正面玄関を潜ると、大広間に出た。天井はどこまでも高く、

壁や床などの、ほとんどの部分に金の装飾が施されている。


「わぁ……、凄いね……、コウヤ君……!」


「王宮の中なんて、

ネットの写真でしか観た事が無かったな……。」


「さあ、こっちだ。着いてきたまえ。」


グレンの後ろをついて歩くコウヤとエフィ。真っ直ぐ進んだ所にある螺旋状に造られた階段を登っていくと、すぐに王の部屋らしきドアの前に着いた。


ドアには物凄い価値が有りそうな宝石の装飾が施されている。万が一、手垢でもつけようものなら首をはねられそうなほどだ。


「「お通り下さいませ。グレン・セ・ロアール様。」」


ドアの左右に立つ、番人らしき二人の男がゆっくりとドアを開けていく。


(……ゴクッ)


数歩ほど部屋の中に入る。部屋は王が普段生活しているであろう場所だとすぐに(わか)ってしまうほどの高級感溢れる見た目をしていた。何より広い。


(……、それで、正面に座っているのが……。)


…………


…………


…………


(って女の子じゃねぇか!!!)


コウヤは自らの目を疑った。彼の想像図(イメージ)とは、かけ離れた見た目をしていたからである。


同い歳くらいの女の子であり、白髪(はくはつ)に青い瞳、そして水色のメッシュが特徴のその見た目は、彼の世界で言う『コスプレ』でよくありそうなものだった。


(落ち着け……、落ち着け俺……。

こんな女の子相手に、今まで緊張してたのか……?)


「マナ、紹介する。彼がコウヤ。彼女がエフィだ。」


(待て!ちょっと待てグレン!

こんな見た目だったのは驚きだが、彼女はこの国の王だろ?!

何普通にタメ口で話してんだ?!)


「ご苦労様です。グレン君。

この人達が、コウヤ君にエフィさんですね。

お初にお目にかかります。」


「……、は……、初めまして……です。

コウヤ、って言います……。」


「私はエフィローナと申します!宜しくお願いしますっ!」


「私はマナ・フローライト。ヘレナヴァレ王国第35代目国王です。

お二人共、この度はようこそおいで下さいました。

……、昨日(さくじつ)は、とても恐ろしい体験をされた事でしょう。」


「いえいえ……、そんな!

こちらのグレンさんが俺達を護ってくれたんで……!」


「私たちは全然……!」



「……、危ないところだったでしょう。グレン君。」


「ああ、思った以上に手強(てごわ)かったな。

過去のヘレナヴァレ王宮大襲撃戦よりも吸血獣の数が圧倒的に多かった。」



グレンがタメ口でマナと会話しているのが不思議だったコウヤは、咄嗟に口を開いた。


「あの……。」


「はい……?」


「お二人はどういったご関係で……?」




「……グレン君と私は幼馴染(おさななじみ)なのです。」




幼馴染(おさななじみ)……、ですか……!?」


「はい。結婚を誓い合った幼馴染(おさななじみ)です。」


「それは言うな……、マナ……。あの時は、まだ私も無知だったんだ……。」


「グレン君ったら、幼い頃に、


「僕は君の隣に居ても恥ずかしく無いくらい強い剣士になるんだ!」


だなんて私に言うんですもの。」



「くっ……。」


顔をしかめ、手を当てるグレン。

その反応を面白く思っている表情を見せるマナ。


「でも、グレン君は本当に立派な剣士になりました。そろそろ私も、一晩を共に過ごしたいと思っているのですが……。」


そう言いながら、グレンの方に視線を向けるマナ。

グレンはその視線から逃げるように後ろを向いた。


「私はまだ未熟な剣士だ……!では、これで失礼する……!」


「ああっ!グレンさっ……。」


後ろを向いたままそう言うと、エフィの呼び止めを無視し、足早に立ち去って行った。


「素直じゃないんですから。グレン君も。」


「マナさんはマナさんで、とても大変そうですね。」


「私を呼ぶ時はマナで良いですよ。コウヤ君。」


「……ああ、マナ。これから宜しく頼む。」


「こちらこそ。」



一瞬の笑顔を見せるマナ。しかし、その笑顔はすぐに真剣な表情に上書きされてしまった。



「……私の命を狙っている吸血姫が居る事をご存知でしょうか。」


「まぁ……、昨日、あれだけ危険な目に遭ったら、誰でもそう思うぜ。奴等(やつら)の進行方向が、この王宮だって事も(わか)ってたみたいだしな。」


「……。一つ、父から聞いた昔話をさせて下さい。」


「ああ……、(わか)った。」


コウヤとエフィは近くのソファに座り、(うつむ)きながら話し始めるマナに視線を向ける。




「……、古城(こじょう)リィヴェルナは、私が生まれるずっと前。今から550年ほど前に建てられました。


そして当時、それはそれは綺麗な赤髪のお姫様がそこに住んでいました。


しかし、そんな彼女の綺麗な容姿を(ねた)ましく、羨ましく思った老婆の魔法使いがある晩、

紫リンゴの収穫帰りに、眠っている彼女が居る部屋に侵入したのです。


物音で目を覚ました彼女が気付いた頃にはもう遅く、強大な魔法によって作られた薬を無理矢理飲まされてしまったのです。


老婆の魔法使いはしめしめと思いました。これで彼女は魔法によって息絶えるだろう、と。


しかし、その魔法は強力であるにも関わらず、彼女は息絶えませんでした。


むしろ、今までの彼女では無い、見るも恐ろしい姿へと変化していったのです。


老婆の魔法使いは逃げようとしましたが、瞬時に距離を詰められ、首を捻り潰されました。


何事かと駆け付けた彼女の父や母、そのほか古城に住んでいた人達は、

たった一人を除いて皆、一晩で彼女に殺されてしまったのです。


朝、老婆の魔法使いがかけた魔法の拒絶反応による暴走がようやく収まった頃、彼女は血塗れで倒れている両親やその他の人々に駆け寄りますが、既に冷たくなっていました。


彼女は泣き叫びました。一日中、亡骸のそばで泣き叫びました。

その時ふと、自分の背中に違和感を感じます。


背中から黒く巨大な羽が生えていたのです。

その姿はまるで悪魔でした。悪魔そのものだったのです。


そこで彼女は気付いたのです。これは自分がやったんだ。全て自分がやってしまったんだ。と。


その日から、彼女は古城に引きこもるようになり、


自らの魔力で召喚した吸血獣を野に解き放ち、人々を襲わせ、その栄養分を身体(からだ)に取り入れて生きているようなのです。



そしてもう一つ。その老婆の魔法使いは、私の祖母なのです。」


顔を上げると同時に、そう言い放って彼女の昔話は終わりを迎えた。


「……、

つまり、550年前に古城のお姫様を怪物に変えた老婆の魔法使いが、マナのお婆さん。という事か。」


「凄い悲しいけど残酷な話でした……。」



コウヤもエフィも、終始険しい表情をしていた。



「……でも、どうしてマナの命を狙うんだ?」


「彼女からしてみれば、憎き魔法使いと血の繋がった私が国王になるのが許せないんでしょう。」


「っ……、そんなの自分勝手過ぎるだろ……!」


「……過去に一度だけ、彼女が今回の様に大襲撃戦を仕掛けてきた事がありました。私が幼い頃でしたが。」


「……、聞かせてくれ!」


「その大襲撃戦では、私の母、第34代目国王レニーマ・フローライトが狙いでした。


今とは違い当時は、王国とは言っても街は貧しい人達で溢れていました。


そのような中、吸血獣の大群がいきなりこの街に押し寄せ、沢山の命が犠牲になりました。


この状況を見過ごす訳にはいかないと、立ち上がったのは父でした。


父は当時の護衛隊を引き連れ、先陣を切って吸血獣の撃退に臨みましたが、全く歯が立たなかったのです。


父は吸血獣に殺され、護衛隊もほぼ壊滅状態のまま激しい攻防を繰り返していました。


やがて、吸血獣は方向を変え、森の中へと消えていったようなのです。


これが、最初の大襲撃戦の全貌です。」


「……、マナの父さんは、吸血獣に殺されたのか……。

なんて酷い事をしやがるんだ……。」


「母は奴らに殺されはしませんでしたが、去年に亡くなりました。その死因は不明です。」


「っ……、辛かっただろう。マナ……。」


「……、


辛いのは確かです。


しかし、ここで引き下がってはいられない。


私は絶対に負けません。


この王国を背負って立つ者としての責任、


そして、


亡き父と母が、そして大切な人が、


私にくれたおもいがここにあるから。」



胸に手を当て、真剣な眼差しでコウヤに言うマナ。その表情と言葉に、一寸の揺らぎも感じられなかった。


「マナさん……!」


「そのおもい、絶対に途中で落としたりするなよ、マナ!」


「……はい!」

毎日投稿が厳しい状況なので、一日、二日遅れてしまうかもしれません。

出来る限り早めに投稿致しますので、ご理解頂けると幸いです。(有馬オレオ)

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