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小章 リャリス

 風の城から逃げおおせたリャリスは、本部へと帰還した。

「リャリアスレイ」

無言で部屋を横切ったリャリスは、名を呼ぶ声に気怠げに振り向いた。

太陽の光の届かないこの場所を、淡い金色の光が照らしていた。その光源となるモノから、声がしたのだった。

「お父様」

リャリスは感情なくその言葉を口にした。

「風の城は、ノインの行方を掴んでいたか?」

「いいえ。あの人のことを、逆に聞かれてしまいましたわ。今代の王を買いかぶりすぎではなくって?」

掴んでいようがいまいが、どちらでもいい。行方がわからないのならば、あぶり出すまでだ。彼をおびき寄せる餌は、すでにわかっているのだから。リャリスはその赤い唇を、引き揚げた。

「なぜ、私を風の城へ向かわせたのですか?」

「おまえが今後、世話になる者達だからな」

「何をおっしゃるの?完全に敵対してしまいましたわよ?」

いや、それ以前に、私がお父様から離れることなど、考えられませんわ!とリャリスは心の中で叫んでいた。

「”リティル”にとっては、些細なことだ。“ノイン”がここへたどり着いたとき、おまえは知ることになるだろう」

「何をですの?」

リャリスは不安を押し殺して、光を発するそれを睨んだ。

「15代目が最後の風の王である、その所以だ。彼の王は、その名の通り、目覚めをもたらす者。その道が歩みがたく、痛みを伴おうとも”リティル”は決断するだろう。その優しさ、執念には何者も逆らえないのだ」

「ずいぶん、買っているのですわね。お父様ともあろう者が」

――投げやりじゃねーか?大丈夫かよ?君をここへ送り込んだヤツは、君に死んでこいとでも言ったのかよ?

捕虜になったリャリスに、リティルが言った言葉が蘇っていた。ノインと戦ったことを教えてあげたのに、彼は敵対の感情を微塵も見せなかった。それどころか、リャリスのことを案じた。捕虜にしたと驕ったのかと思ったが、そんな上から見下ろされる感じはしなかった。そういえば、彼の息子であるインファ、その息子であるインジュからも敵対の感情を感じなかった。

――ヘアリーバイパーですか?美しい鱗ですね

美しい?そんなこと、思ってもみなかった。自分の姿が、異形であることを知っている。だのに、何なの?嫌悪や恐れなく、リティルとインファは興味深げなだけだった。

それに、ジッと遠巻きにこちらを見ていたあの視線……無視することにいささか苦労した。インジュの瞳には、好意があった。そんな瞳で見つめていることに、あの人は気がついていたのだろうか?たぶん、気がついていない。彼は鈍そうだとリャリスは、自分も経験などないのにそう思った。

「彼等は、わたしが捜し求めてきた者達だ。確信しているぞ?」

「そうですの」

「リャリス”ノイン”を捕らえるぞ」

「わかりましたわ。それで、何をすればいいのですか?」

私は何者なの?精霊として目覚めてからずっと、リャリスの心に燻っている。

リャリスにあるのは、インラジュールの娘という肩書きだけだった。

私は何者なの?その疑問が心を支配するとき、無性に誰かに縋りたくなる。この存在が、儚く崩れ去ってしまうようなそんな不安に襲われる。

確かな存在感を持って、光り輝いていた風の城の者達。15代目が本当に導いてくれるのなら、私を導いてみせてと言いたかった。


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