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ショートショート6月~2回目

触角

作者: たかさば
掲載日:2021/06/01

俺の目の前に、触角があったのだ。

いつ見てもピコピコと動く、実に気になる、触角。


いつも予期せぬ動きで、目の前を踊る触角。

いつしか、毎日触角の動きを確認するようになった。


数学の授業中、ふいに触角がくるりと向きを変えた。


……へえ、触角には、顔がついているのか。


「ねえ、この問題、わかる?」


一言二言、言葉を交わしたのち、触角はいつもの位置に戻った。


俺の目の前の、触角。

いつ見てもピコピコと動いていて、実に気になる、触角。


予期せぬ動きは、いつしか予想できる動きへと変わった。

予想できない触角の動きをみるのが、楽しみになった。


英語の授業中、ふいに触角がくるりと向きを変えた。


……なんだ、触角の顔が、笑っているぞ。

……笑うと、ずいぶん愛嬌のある顔になるんだな。


「ねえ、ここの訳、間違ってるよ、正しくは、こう。」


一言二言、お礼を伝えたら、触角はいつもの位置に戻って、いくぶん陽気に、はねた気がした。


俺の目の前から、触角が消えてしまった。

いつ見ても目の前でピコピコと動いていたのに、離れた位置に行ってしまった、触覚。


離れた位置から、触角を確認した。

相変わらず、自由気ままに揺れているようでなによりだった。


だが、なんとなく、物足りない。

どうも、毎日が、つまらない。


美術の授業中、ふいに触角がやってきた。


……なんだか、触角の顔が、緊張しているみたいだぞ。

……いつもみたいに、笑っていたらいいのに。


「ねえ、ペア、組んでもいい?」


触角をきっちり描いてやったら、触角の持ち主はやや憮然とした様子で、自分の席に戻って行った。


俺の目の前に、触角がやってくるようになった。

暇があれば、俺の目の前でピコピコと動く、元気いっぱいの触角。


間近で触角を確認してみた。

つまんで伸ばしたら、人差し指でチョンとでこをはじかれた。


授業後、校門のところで触角が揺れていた。


……なんだ、触覚が風に揺れて大変なことになってるぞ。

……早くそばに行って、ちぎれそうになっている触角を、抑えつけなければ。


「ねえ、一緒に帰ろ!」


強風にあおられる触角を時折そっと抑えつつ、家まで送り届けるようになった。


俺の目の前で、元気いっぱいに揺れる触角。

晴れている日も雨の日も、笑った日も泣いた日も、いつも俺の横で揺れていた。


何度も、触角に触れた。

何度も、ポカポカと胸をたたかれた。


たまに、触角ごと、ぎゅっと、抱きしめた。

たまに、触角に、ぎゅっと、抱きしめられた。


やがて、触角はしっぽになった。


元気よく飛び跳ねるしっぽから、目が離せなくなった。

元気のないしっぽを見ては、心から心配をした。

しっぽは元気に跳ねているだろうかと、毎日心を寄せた。


俺はしっぽが、気になって仕方がなかったのだ。


しっぽの横で、チャンスをうかがう日々が続いた。


しっぽをゲットするために、俺は毎日、笑顔を届けた。

しっぽをゲットしなくちゃいけないのに、しっぽに呆れられる日もあった。

しっぽをゲットできなくなるんじゃないかと、あせった日々もあった。


しっぽは、いつの間にか娘のおもちゃになり、息子のおもちゃになった。


しっぽは、長くなったり、短くなったり、色が変わったり……見ていて実に飽きない代物だった。

しっぽは、丸くなったり、リボンで飾られたり、時には華美にカーブを描いたり……いつまでも見ていたい大切な宝物だった。


しっぽは、だんだんと元気をなくしていった。


いつしか、しっぽはなくなり、白い髪が、力なく横たわるようになった。


俺は、愛する妻の髪を、ゴムで結んだ。


……ずいぶんぶりに見る、触角。


「はは、俺の大好きな、触角だ……!」

「おじいちゃん、何やってるの?」


病室の、白い空間に、俺の触角が……とても映えていた。

真っ赤なリボンをつけた、元気のない、触角。

ただ昏々と眠り続ける、動くことのない、触角。


すっかり色の抜けた触角は、元気に跳ねることなく、俺の前から、永遠に、消えてしまった。


俺の愛した触角は、空へと、帰ってしまった。

……もう、俺の愛する妻はいないのだ。


「おじいちゃん、髪むすんで―!!」


孫娘の髪を結びながら、俺の愛した触角を思い出す。


「今日は触角でいいかい。」


「触角って言わないで!!ツインテールって言うんだよ!!!」


孫娘に怒られながら、俺は愛する妻を思い出す。

そうだなあ、触角ってからかうたびに、いつもぽかぽかとやられたんだった。


「は、ハハハ!!!そうか、ツインテールか!!」


目の前で元気よく揺れる、ついんてぇるを見ながら。


俺は愛する妻との日々を思い出し、大きな声で……笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、ツインテールか! そういうことですか〜。 最初、本人の頭から生えてるのかと思ってました。 ツインテールの娘と、一緒になったんですね。な〜んだほのぼの。
[良い点] 触覚!! そうかツインテールだったのか。 まさか人間だったとは。予想外のどんでん返しありがとうございます。 [気になる点] モンシロチョウのストローで 脳内再生してました [一言] ツーサ…
2021/06/01 23:35 退会済み
管理
[一言] ツインテールとシングルテールと…想像を巡らせる楽しみを味わえました(o^-^o)最後は予感はしましたが、しんみりしました…m(_ _)mお孫さんには救われました…
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