ようこそ!歴史的文学女子会へ「久々の再会・前編」
*こちらはシリーズ三作目となります。
お時間がありましたら、是非こちらの方からお読みください!
1弾 クリスマス: https://ncode.syosetu.com/n0855ff/
2弾 バレンタイン: https://ncode.syosetu.com/n7096fi/
私の名前は紫式部。平安時代に仕事の傍ら趣味半分で同人小説『源氏物語』を執筆したあの紫式部よ。
去年のバレンタイン。私は決意した。何をかって? 就活よ就活!
あのときの私は金無し職なし(時々、日雇いの仕事ならしていたけれど)で、私のことを慕ってくれている菅原孝標女やライバルの清少納言の家に居候し、タダ飯三昧。そのくせして同人誌書いてコミケで売るだなんて、何という怠惰。
でも、今の私は違う! あの日からしっかり働いて、今では駅から徒歩15分のワンルーム暮らし。一年で、きちんと自立したのよ。流石平安の才女、やれば出来る子YDKよ!
(実は少納言に泣きついて、礼金やら仲介手数料を借りたけどね……)
今日は、久々にまた『文女』の4人と会うことになっているの。私が働き始めてからは、なかなか会う時間も取れなかったし、みんな予定が合わなくて、全員揃うのは一年ぶり。またみんなとお話するの、楽しみだわ。
――――――ピンポーン
きっとみんなだ。そう、今日は私の部屋で『歴史的文学女子会』を開くことになっているの。前まではだいたい少納言の家でやっていたんだけれど、私の部屋が見たい、という菅ちゃんの意見で私の城(周りほとんど田んぼ)で開くことになった。
「今開けるわね」
ドアがキーっときしむ音。
「これが風情ある築40年の歴史の音ね……」
少納言が皮肉って言う。
「いいの! ちょっとくらいボロくたって。住めば都って言うでしょ」
「そうですよ! ちょっと少納言さん、先生のお部屋を悪く言わないで下さい! そこの階段のにネズミの死骸の一つや二つあったとしても、締めたドアから隙間風が入ってこようが、そこに先生の住んでおられるならば、そこは上流貴族の家に匹敵するのです!」
菅ちゃんが言い返す。
でもそんなこと、悲しくなるから言わないで……。他にも換気口からカメムシが這い出てきたりするけど、そんなの認めたくないっ! あと私、平安時代は下級貴族……。
「じゃああなた、こんな劣悪環境に住めるっていうの?」
住めるわよね、菅ちゃん?
「そ、それは……」
どうしてそこで口ごもるのよ! 私はとりあえず三人を部屋に上げる。
「どうぞ入って」
三人を部屋に案内する。といってもワンルームだから扉は他にトイレしかないんだけどね。
扉を開けると、三人は口を大きく開いたまま、しばらく動かなかった。
少しして、っらゅきが言った。
「流石にこれは酷すぎるんじゃないかしら」
「え、どこが?」
今度は少納言が。
「あなた自覚ないの? コンビニ弁当の蓋やらペットボトルが散乱しているし、足の踏み場もないじゃない!」
「そんなのわかってるわよ! それでもずっと見ないフリしてきたのに!」
そう、私の部屋は床すら見えないゴミ屋敷になっていたのである。
「あら、本棚の周りだけ妙にきれいじゃない。どうして―――ってこれ、BLしか入っていないじゃない!」
あなたブレないわね、と少納言はため息をつく。このきれいなスペースは通称:BLスペース。私には、あのスペースだけは穢すことはできない……!
「よし、今日はワテクシたちで紫ちゃんのお部屋をお掃除しましょ! これはブログのネタになるわよぉ!」
そう言い残して、っらゅきはどこかへ行ってしまった。
菅ちゃんは「先生のお部屋は汚部屋……」などとブツブツ呟いている。
さっきまで少納言に『先生のお部屋を悪く言わないで』なんて言っていた人の言動とは思えないわね。
「仕方ないわね、やるわよ」
少納言はこういうとき、ちょっと良い奴だ。文句を言いながらも困ったときには助けてくれる。
こんな恥ずかしいこと、口に出しては絶対に言わないけれど。
少納言がそこにあったコンビニの袋に、散乱したゴミを次々に詰めていく。ボーッとしてないであなたもやりなさい、と少納言が怒鳴る。
私はかがんで空のコンビニ弁当を取り上げる。その時だった。
「あ、ゴキブリ」
「「ギャァァァあッ!」」
私は即座にそこにあったペットボトルで叩き潰すと、素手で袋に捨てた。
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