17ー3
17ー3
翌日。
桜が丘第一高等学校、その部室棟の一階。バトルドール・ガールズ部部室にて。
「…………」
「…………」
気まずい雰囲気が部屋一杯に充満する。
「……や、やっぱり居づらいわね〜」
「真理先輩、我慢、我慢です」
吹雪と叢雲は目も合わせず、ひたすら無言の圧力を互いに掛け合っている。そしてその被害者たる美空と真理、フレイスヴェルグとアルテミスは部屋の隅っこでその様子を窺っていた。
「さて、二人はもう分かってるデスね。先日の予選大会のことデス」
「だから、あの時はああするしか!」
「だから、それが駄目なんだって!」
「まぁまぁ、落ち着けデス。まずは叢雲から話すデス」
改めて促された叢雲は、しかし少し言いづらそうにする。だが、覚悟を決めたのかポツポツと語りだす。
「あんた達も実感したでしょ。あいつ……陽炎とやらの強さを。まともにやりあって勝ち目が無いのなら、どんな手段を以てしてでも勝たなきゃいけないのよ。それが……それがこのチームの戦う理由でしょ」
「……だからって、あんな勝ち方は駄目だよ、違うよ!」
「何が駄目で違うのよ!」
「あんな、あんな叢雲ちゃんが一人犠牲になる勝ち方とか、誰かを犠牲にして勝つとか……そんなの、私達胸を張って学校を守ったって言えないよ!」
「そ……そんなの理想論じゃない! 甘い考えよ!」
「甘くていいじゃない!」
「この分からず屋!」
「分からないのは叢雲ちゃんだよ! 相手が強くて困ったら、負けそうになって、どうしようもなくなったら誰かに頼れば良かったじゃない!」
「そ……それは……」
「美空や真理センパイ、フレイスヴェルグちゃんやアルテミスちゃんに相談してくれてもよかった! 私がまだまだ頼りないのは私がよく知ってるよ!? でも、でも本当は私に相談して欲しかった! 前みたいに、二人で乗り切りたかった!」
「…………っ!」
「ねぇ、どうして? 私がまだまだ仮のマスターだから? 確かに美空みたいにドールの事を沢山知らないし、真理センパイみたいに的確な指示は出せないけれど、それでも叢雲ちゃんの為に一生懸命作戦や戦い方を考えられるよ?」
「……だからよ」
「え……?」
「あんたの、その頑張りを無駄にさせない為に私はあいつを道連れにしようとしたのよ! ひたむきな努力を、学校を守るっていう目標を、あんな所で終わらせるくらいなら、私は無様な姿を晒したっていいと思った!」
「……叢雲ちゃん」
「相談なんて出来るわけないじゃない! 頼れるわけないじゃない! あんたがそれだけ頑張ってるのに、私は……なにも出来ない私が嫌なのよ……」
「そんなこと、ないよ」
思いの丈を吐き出した叢雲を優しく包み込む手。そのまま吹雪はしっかりと抱きしめた。
「叢雲ちゃんが凄いドールだっていうのは私が一番知ってるよ。とっても強くて、すっごく自信満々で、ちょっぴり口うるさい、私の大事なドール」
その声はしっかりと、はっきりと。優しく、子供に聞かせるように。
「叢雲ちゃんはね、どんな相手でも一歩も退かず、どんなに不利でも諦めない、そんな強いドールなんだよ。私が弱気になった時、挫けそうになった時、叢雲ちゃんが励ましてくれまから私は頑張れたんだよ?」
先生に大会優勝への覚悟を問われた時。生徒会長に大会参加を諦めろと迫られた時。秋華にその想いを否定された時。
いつも側には彼女が居た。
「私はね? 叢雲ちゃんだから大会優勝なんて無茶苦茶な目標でも大丈夫だと思ったんだ。叢雲ちゃんが横にいてくれたからドールの勉強や特訓に耐えられたんだよ」
「私は……私は何もしてない……」
「してなくなんかないよ。むしろ、私が叢雲ちゃんに何もしてあげられていないよ」
「そんな、あんたは……あんたは」
叢雲は吹雪の顔を見れず、思わず下を向いてしまう。
「吹雪は……私のマスターに、なってくれたじゃないの……」
「うん……」
「私は……それが嬉しかった。前のマスターのことは何も覚えてないけれど、それでも、私は……私はきっと、捨てられたんだって思った。何があったのかは分からないけれど、きっと今みたいに私が原因で、ケンカして、それでマスターに愛想をつかされちゃったんだわ……」
「ううん。叢雲ちゃん、それはきっと違うよ。前のマスターは叢雲ちゃんの事を大事に思ってた筈だよ。だって、あのケースの中で眠っていた叢雲ちゃんはとっても綺麗で、ついさっきまで手入れされていたみたいに輝いていたもん。それっていつも叢雲ちゃんを大事にしていた証拠だよ」
「でも……」
「うん、叢雲ちゃんをずっとほったらかしにしたのも事実だよ。それは私もどうかと思う。そのマスターにも何かしら事情があるってのは分かるけど、それでももっと別の方法があった筈だよね。だから叢雲ちゃんは悪くない、何も気負う必要は無いんだよ」
手のひらの中で小さく縮こまる叢雲。吹雪は彼女の寂しさ、見えない過去に囚われていた事を改めて感じ取れる気がした。
「それに叢雲ちゃんはさ、今は私と……私達と一緒にいるんだよ? どうせ思い悩むなら、これからの事で悩もうよ。だって、きっとその方が楽しいよ?」
「なにそれ……全く、吹雪はこんな時でも脳天気なんだから」
「えへへ……」
ようやく笑顔を取り戻した叢雲。それにつられて吹雪も柔らかく微笑む。
「それでね、もし叢雲さえ良かったらなんだけど……」
少し気恥ずかしそうにする吹雪。叢雲は彼女が何を言おうとしているのかを察し、吹雪の手のひらで威勢よく仁王立ちになる。
「私のドールになってくれない?」
「イヤよ……と、言いたい所だけれど」
叢雲はいつも通りの彼女らしい自信に満ち溢れた顔よく通る凛とした声で応える。
「私からもお願いするわ、吹雪。私のマスターになってくれないかしら?」
「うん、もちろんだよ!」
「言ったわね、覚悟なさい? 私のマスターたるもの、これまで以上にビシバシいくんだから」
「叢雲こそ、私の華麗な作戦にびっくりしないでよね?」
「ふふ……」
「えへへ……」
「雨降って地固まる、ですね。なにはともあれ、丸く収まって良かったです」
「ヴェルグちゃんはこうなると分かっていた。マスターもそう」
「二人とも、仲直りできてよかったわ~!」
「ま、真理! ハンカチです! お顔がグショグショですよ!」
「ありがとうね~アルテミス~」
美空たちも安心したのか、それぞれ安堵した様子を見せる。先生はと言えば、少し離れたところで満足そうに頷いている。
「美空、真理センパイ、心配を掛けてごめんなさい! ヴェルグちゃんもアルテミスちゃんもありがとう!」
「その……何よ、悪かったわ」
さっきまで素直だった叢雲はすっかりいつもの彼女だ。しかし、以前よりどこか柔らかい雰囲気になっていると吹雪は密かに微笑む。
「まったく世話を焼かせる二人デス。我がブロッサムメイツにのんびりしてる暇はないってこと、分かってるデスか?」
「次は東日本大会、その本戦ですね。それと、シューちゃんのチームと戦うかもしれない……」
「あのドール、陽炎は絶対に倒さなきゃ私の気が済まないわ」
「各地で行われた予選大会は全部で8つ、そして本戦出場するチームは16です」
「本戦はブロックを二つに分けてそれぞれのチームが決勝を目指すことになるんだけれど、同じ予選で勝ち残ったチームは別のブロックに配置されることになってるの~。つまり、私達が黒風白雨と戦うのは……」
「決勝戦ですね……!」
「ふん、上等じゃない。檜舞台であいつらを見返してやるわ」
「その為にはもっと強くならなくちゃデス。それから相手チームの分析も必要デスね」
「マスター、ヴェルグちゃんの武装を強化してほしい。今のままだと今後の戦闘は厳しくなると予想される」
「あっ、真理! 私の武装も改良したいです! もっと強くてバーンってなるやつが良いです!」
それぞれが口々に喋りだす。にぎやかで、和気あいあいとした雰囲気、先程までの雰囲気が嘘のようにいつものBDG部の光景へと戻っていた。
「みんな、絶対に優勝しよう! それでこの学校の事を沢山宣伝して有名にして、廃校なんかにさせないんだから!」
決意を新たにする吹雪。そして力強く頷くブロッサムメイツ。
彼女たちの戦いはここからが本番だ。しかしながら不安は無い。
マスターとドールが心を通い合わせ、真の相棒になった時。その信頼と結束は何者にも破られない。
本戦まであと二ヶ月。もうすぐ梅雨が開け、暑い夏が始まる――――
なんか打ち切りぽい終わりかたデスが、ちゃんと続くデス!
次回、新章突入!




