第88話 聞き込み
「ちょっとお話いいっすか」
「なんだ?」
「この辺りに暇な人っているっすか?」
「ああ? いるわけねえだろ。そんなこと聞いてどうすんだ」
「人探しをしてるっす」
「そうかい、意味分かんねえな。煽りに来たんなら帰んな」
コラブルは聞き込みを続けていた。しかし、成果は挙げられていなかった。
暇な人間などまずいなかった。それに加えて彼は、リヴァイアにいては絶対になれないような体型をしているので、相手の癪に触るらしい。結果、町中の人間を煽り散らしに来た荒らしのようになっていた。
「痩せた方がいいんすかね…」
切実な呟きだった。この時に限っては、彼は本気で痩せようと思っていたかも知れない。
「……次はあの人にするっす」
リヴァイアでは体型などの問題でうまくいっていないが、コラブル自身の性格は聞き込みに向いていた。人見知りをしない、めげない、相手を選ばない。老若男女問わず話しかけていた。
「すいませんっす」
「……なんでしょう」
相手は三十ほどの女性だった。長い茶髪を一本に結い、リヴァイアの冬服を身につけていた。化粧はなく、全く着飾っていない。左手に提げられた手提げからは野菜が飛び出していた。
「聞きたいことがあるんすけど」
「何あれー」
「ダメよ見ちゃ」
突然遠くを通りかかった親子に恥辱を受けた。コラブルは決して心が鋼鉄な訳ではない。傷つく時は普通に傷つく。
「今のは効いたっす……」
「どうされました……?」
「いや、なんでもないっす」
立ち直りは早い方かもしれない。
「この国で暇な人っているっすか?」
「暇な人、ですか? いないと思いますが…どうしてそんなことを聞くんです?」
「人探しをしてるっす」
「人探し、ですか。具体的にはどんな人ですか?」
「それは秘密っす」
「……そうですか」
コラブルは女性の振る舞いに違和感を覚えた。妙にソワソワしている。
「どうかしたっすか?」
「え、あ、いえ……家に息子を置いてきているものですから、心配になってしまって」
「じゃあ手短にいくっす。暇じゃなくても、自由な時間を持ってる人っているっすか?」
「自由な時間……」
女性はしばらく悩んでいた。
「……そうですね。平民にはまずいませんが、上の立場の人間なら、もしかしたら自由な時間があるかもしれません」
「上の立場っすか、なるほどっす。協力感謝するっす」
「いえ、気にしないでください。それでは」
話が終わると女性は、右手に持っていた何かを手提げにしまいながら、足早に去っていった。コラブルはその後ろ姿を少し見つめた後、家に向かって歩き出した。
「ただいまっす」
「あ、おかえり」
遅めの昼飯を取ろうとしていた時、コラブルが帰ってきた。案外早かったな。
「お前昼飯食った?」
「まだっす。その為に帰ってきたようなもんっす」
「え、聞き込みは?」
「そっちも抜かりないっす」
「そっか、良かった」
ちなみに昼飯は俺が作っています。自信はない。味見してみよう。
「……イマイチだな」
「食えりゃいいっす」
「そうだな。フレアー、ご飯にしよー」
昼飯は俺とコラブル、フレアの三人で取った。カルディアも呼ぼうかと思ったが、部屋に入るなと言われているので、声をかけるだけかけて後は何もしなかった。
さて。
「何か収穫はあったか?」
「なくはないっす。まず平民には暇な人間がいないってことと、偉い人間なら自由な時間があるかもってことっす」
「偉い人間……? 忙しくないのかな」
「リヴァイアとゴッデスでは訳が違うだろう。ゴッデスの領主は激務だろうが、リヴァイアの領主はそうはならないはず」
「じゃあ怪しいのはリヴァイアの領主ってこと?」
「あくまで例えの話だったのだが……候補ではある。言い方は悪いが、実質お飾りのようなものだろう。自由な時間を持っているはず」
候補はちゃんと絞れたみたいだ。リヴァイアはゴッデスほど発展していないみたいだから、偉い人間っていうのも少数だろうし。
「となると次は、どうやって接点を持つかだな。お願いすれば会わせてくれるかな」
「可能性はある」
「じゃあオイラこれから行ってくるっす」
「迅速だな。気をつけろよ?」
「分かってるっす」
コラブルはまた軽く支度してすぐに出発してしまった。
「午後は何しようかな……魔法の練習でもするか」
俺は炎壁の練習で時間を潰すことにした。
「すいませんっす」
「ああ? なんだ、さっきのデ……にいちゃんじゃねえか。今度はなんだ」
「領主様って何処に行ったら会えるっすか?」
「探してる人は領主様だったのか?」
「多分っす」
「意味分かんねえな……アグリクトに居んじゃねえか」
「アグリクト? 何処にあるっすか」
「この道をまっすぐ行きゃデッカい建物が見えてくる。それだ」
「ありがとうっす」
「二度と来んなよ」
「場合によるっす」
コラブルは言われた通りに道を真っ直ぐ歩き始めた。
「……意外と強えな」
おじさんがポツリと呟いた。
「おお、栄えてるっす」
コラブルが施設に入ると、中は大勢の人で賑わっていた。
見たことがないほど大量の野菜に、それを大きく取り囲んだ数十名の男性。それとは別に、野菜を売っている売店。さらに、飲食店も備わっているようだった。
コラブルはまず事務室へ向かった。
「すいませんっす」
「はい、何の御用件でしょう?」
「領主様ってここにいらっしゃるっすか?」
「少々お待ちください」
笑顔で受けた女性は事務室の奥へ向かった。少しの間、コラブルはソワソワしながら待っていた。
「お待たせしました。いらっしゃいますが、別の用件で多忙なため、今は面会することができません」
「いつなら会えるっすか?」
「いつ頃をご希望ですか?」
「出来るだけ早くがいいっす」
「そうですね……本日の夕方ごろになるかと思います」
「分かったっす。待つっす」
そう言い残し、コラブルは事務室を離れた。当然やることがないのだが、幸いにも目の前に珍しい景色が広がっていたので、それを見学することにした。




