第87話 動物組
「おはよう…」
「おはようっす。遅かったっすね」
「なんかよく眠れてさ。ふぁあ……」
翌日。ガイウスたちは既にいない。俺が最後のようだ。コラブル、カルディア、フレアが居間に集まっている。
「やっと来たね。昨日は話す時間なかったし、今方針を決めちゃおう」
俺は空いている椅子に腰掛けた。
「『ネクロマンサー捕縛』かぁ……何から手をつければいいんだ?」
「私たちは人目につくのはまずいのだろう。そうなると、かなり動きにくい」
「でも情報収集は必要っす。なんとかするっす」
「どうしたもんかなぁ…」
「別に悩む事じゃなくない?」
「え?」
カルディアはコラブルを見つめていた。それに釣られたのか、自然とコラブルに視線が集まった。
「いるじゃないか。見られても困らない奴」
「ああ、言われてみれば確かに。個人なら良いのか」
「むう……背に腹はかえられないか」
コラブルは察したようで、勢いよく立ち上がった。
「え、オイラっすか!?」
大袈裟なリアクションだった。
「うん、お前」
「人間関係苦手だったりする?」
「しないっす」
「じゃあ適任だ」
「いまいち頼りないが仕方ない」
「否定できないのが苦しいっす…」
フレアが言った通り、背に腹はかえられない。
「街に出て、聞き込みをしてくるんだ!」
「そんなこと言われても、なんて聞けばいいんすか?」
「暇な人間を探すんだ」
「なんでっすか」
「この国の人間って基本忙しいから、魔法を鍛える時間なんかないはずなんだ。でも僕らが探してるのは『強い魔法使い』だろ? なら、自然と絞られるはずだよ」
「ほうほう……なるほどっす」
暇な人間か……結構絞られるな。農業に携わってる人は除かれるだろうし。
「自由な時間を持ってる人、あるいは組織を探してきてね。僕も一応魔眼で探ってみるけど、他人の思考を覗けるほど万能じゃないし、あんまり当てにならない」
「分かったっす。行ってくるっす」
「頑張れよー」
コラブルは身支度を整えた後、すぐ街へ出発した。
「そういえば、道分かんのかな…」
「そこら辺の人に聞いていけば良いでしょ。さて、僕は寝室にいるから、しばらく入ってこないでよ」
「あ、ああ」
カルディアもちゃんと魔眼で調査するようだ。足早に二階へ登っていった。居間にはフレアと俺が取り残された。
「…………」
「…………」
「……俺たち暇だな」
「そうだな」
今気づいた。フレアと俺やることないじゃん。時間は有意義に使いたいんだけど、二人だけで広場に行くわけにもいかないし…。
「……そうだな、私は手記を読んでおく。アラタもやりたいことをやると良い」
「え? ああ」
フレアは机の上にあった手記を手に取り、静かに読み始めた。なんつう行動力……もう話しかけにくい。どうしよう。
「……決めた」
俺は家から出た。
『昨日は寒くて寒くて、羽毛が一気に伸びてしまいましたわ』
『なんと! シルフィー殿は毛量を自由に操れるのですか!』
『自由に、と言うと語弊があるかもしれないですけど、気温に合わせてある程度は勝手に調整されますの』
『また稀有な進化をなさいましたね』
『貴方こそ。上位の上位なんてそうそういるものではありませんわ』
「なんて独特な盛り上がり方……」
俺は動物組と話をしようと馬車に来ていた。しかし、やっぱり考え方が違うのか全然話に混じれない。そもそもあんまり話したことないしなあ……いや、交流を深めるのも大事だ、頑張ろう。
「ちょっといいか」
『あら?』
『どうされました、アラタ殿』
「上位の上位って言ってたけど、それってどういう意味?」
『上位種の上位種って意味ですわ』
「へー……ちなみに大元は何?」
『馬です』
「ざっくり」
『細かく分類することでもありませんから』
上位種って精霊だけに当てはまる言葉じゃないのか、知らなかった。
「じゃあシルフィーは鳥の上位種なのか?」
『いえいえ、私はそもそも上位種ではありませんわ』
『生物学上は鳥に分類されていますが、進化の過程が基本と違っています。知性があるからといって上位種とは限りません』
「ふーん……」
難しそうなことをよく理解している。そこら辺の人間より頭いいんだろうな。しかし。
「じー……」
『どうされましたアラタ殿。丁寧に口頭で擬音をつけながら私の顔を見るとは。何かついていますか?』
「いや、上位種って言う割には見た目は馬のまんまだなーと思って」
『そう見えますか?』
「見える」
『よーく見ると模様が有りますよ』
「嘘だぁ」
『私は嘘はつきません』
「……どれどれ?」
俺はブラックに寄って、胴体に顔をグッと近づけた。初めの一瞬はやはり分からなかったが、よく見ると黒い毛の中により黒い毛が混じっている。
「本当だ、ある」
『体内を循環する魔力の一部が毛を侵食し、このような現象が起こります。我々ホワイトグレイルはその模様を見て仲間を識別するんです』
「ホワイトグレイル?」
『はい。私の種の名称です。実は私の種は基本真っ白な毛を持っているのです。より秀でた魔力を持った者は私のように黒くなるようでして』
「うん……? じゃあホワイトグレイルっていうのは馬の一個上位?」
『はい』
「ならブラックはそれのさらに上位なんだよな?」
『いえ、まあ、確かに先程はそのような事を申し上げましたが……すごく厳密に言いますと、実は上位の上位というのは存在しません。私はトップグレイルなんて呼ばれたりもしますが、それは非公式なのです。ですが、伝わればよろしいということで』
「な、なるほど」
実に人間的な感覚だ。こいつ本当に馬か?
「シルフィーには何か特徴あるのか?」
『それは乙女のヒミツということで❤︎』
『お腹に袋があります。鳥なのに有袋類なのです』
『あら!?』
『せっかくですから、色々情報を共有しましょう。その方が仲も深まるというものです』
『他人にバラされるのでは意味が違いますわ!』
『はは、申し訳ない』
「ごめんそれはもう知ってる」
『なんと!』
『もとより誰かにバラされていたなんて…』
割と大事な秘密だったのか、なんだか申し訳ない。
有袋類ってことは、袋に赤ちゃんを入れて育てるってことだよな。でも鳥が産むのって卵のはず。卵を袋の中に入れて温めるのか? なんか有用性薄いなあ。
「袋の中に何入れるの?」
『卵や宝物ですわね』
「宝物……」
こいつ本当に鳥か?
「例えば?」
『ひな鳥が産まれた時の卵の殻だったり、各々の思い出の品だったりですわね』
「ふーん。今は何か入ってるの?」
『……いえ、子供もおりませんし、物に固執する性格でもないですので、今は特には』
「そっか」
思ったよりも色々なことを知れた。時間を有意義に使えた気がして満足だ。
『そうだ、次はアラタ殿の事をお聞かせください』
『あら、それは名案ですわね』
「俺の?」
『はい。せっかく我々と話せるのですから、もっと仲を深めたいのです』
『右に同じ、ですわ』
「そうだな……うん、俺にも色々あるし、せっかくなら話しておこうかな」
情報の整理にもなるだろう。さて、どんな特徴があったっけ。
「……そうだ、実は俺って首切り落とされても死ななくて……いや引くな引くな」
それからはしばらく俺のことを話していた。シルフィーやブラックよりも情報量が多く、かなりの時間を費やしたと思う。
忘れがちだが、俺は精霊でそのおかげであらゆる生き物と意思疎通ができる。生命力も半端ではないし、生命活動も魔力さえあればなんの問題もない。しかしこう考えると、全てが精霊であることだけに起因しているように見える。もっと狼、あるいは俺個人の特徴とかないのだろうか。
『アラタ殿はモリモリですね。私たちとも大きく違っている』
『便利ですわね』
「いやもう本当に。超便利なんだよ」
故に俺は少し怖い。本来便利の裏には何かしらの理由があるはずで、何かしらの犠牲があるはずで、魔法にはそれが一切ないというのが不気味に思えた。知らないだけで本当は致命的な欠陥があった、なんてことになったらどうすればいいか分からない。
それに、話は変わるが、今でもたまに考えることがある。
「俺はなんでこの世界に来たんだろうなぁ」
『知らないのですか?』
「ああ。きっかけは知ってるけど、理由は知らない」
『偶然だとしても、必然だとしても、この縁には感謝したいですね』
「……そうだな。動物と話せるとか夢みたいだ」
『私的にはもっとシワの多い方が好みですわ』
「知らないだろうけど鳥が枯れ専なのメチャクチャ不気味なんだよ?」
昼になってもコラブルは帰ってこなかったので、結局俺はずっと動物組で話をしていた。案外楽しくて、時間なんて忘れてしまっていた。




