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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第84話 敵襲

(どうする…!?)


 普通ではない不快感を感じながらも、アッカドは冷静だった。焦ることなく次の一手を考えた。


「ユーリィ、立てるか?」


 ユーリィはただ震え、アッカドの言葉は届いていなかった。


「ユーリィ!! しっかりしろ!」

「…っ!?」


 街中に響き渡るほどの大声が耳元で発され、初めてユーリィは我に帰った。自分の置かれた状況を理解し始め、逆に体の震えは増していき、全身から力が抜けていった。


「あ、あれは何? 血なの?」

「間違いなく『血』だ。これ以上見るな。俺が調べる」


 アッカドはユーリィを優しく抱え、玄関から離れた場所におろした。


「ここで休んでろ」

「え、ええ」


 アッカドは再び血みどろの家に入り、中を調べはじめた。


 まずは壁に付着した血を指で拭った。すると指の腹に大量の血が付着し、さらに指から血が一粒滴った。天井からも何粒もの血が滴り、いくつかがアッカドの髪に付着した。

 次に血以外のものがあるかどうか調べた。血のせいで見分けづらく、いちいち触ったりして念入りに調べた。


「……無え」


 体がない。この家にあるのは血だけだった。


 アッカドは不得意ながらも必死に頭を動かした。


 まずは考えられる可能性をひたすら頭の中に羅列した。

 一つはカカトカバネの襲撃。だがすぐに自分で否定した。カカトカバネは基本群れで行動するため、いるのなら気配を感じるはずだが、街にはなんの気配もなかった。

 もう一つはカカトカバネの死体の襲撃。死体の行動パターンはまだ把握しきれていないため、単独で行動していてもなんら不思議はない。だが…。


(もしそうだとして、ここまで荒らす理由はなんだ!?)


 現場の状況が常識とかけ離れているために、それも違っているように思われた。殺しが理由なら死体がころがっているはずだろうし、連れて行くのが目的なら血をばら撒く必要はなかったはずだ。


 故にアッカドはこう結論づけた。


(俺たちの知らねえ何かがいる…!!)


 未知の何かの仕業だと結論づけた。ならば、次に取るべき行動は決まっている。


 アッカドは家から出てユーリィの元に駆け寄った。


「逃げるぞ、ユーリィ!」

「ど、どうして?」

「何かがいんだよ!」

「でも、カルヴァスさんはどうするのよ」

「見つからないんじゃどうしようもねえ。できるのは無事を祈るぐらいだ」


 アッカドはユーリィを抱え、カルヴァスがいるかもしれないという一縷(いちる)の望みに賭け、合流地点に向かって走り出した。


 その時だった。


 何かが彼らの遥か後方に降り立った。霧の濃さ故にその姿はおろか、輪郭すらも視認できなかった。アッカドは水一粒滴るほどの僅かな気配を悟って足を止め、後ろを振り向いた。


「…………な、んだよ」


 遥か後方に降り立ったはずのその存在は、いつの間にか真後ろにいた。顔を鼻が触れそうな距離まで近づけて、アッカドの瞳を覗き込んでいた。それは一秒にも満たなかったが、アッカドには長い時間が流れたように感じられた。


「……誰だ、お前?」


 アッカドが言葉を発した瞬間、腕が触手のようにうねったかと思うと、


「うぐっ!?」

「きゃっ!?」


 アッカドたちは吹き飛ばされた。いつかの巨体の突進など比にならないほどの衝撃を一刹那のうちに叩き込まれ、一つの民家を突き破って飛んでいった。


「……痛え…大丈夫かユーリィ?」

「う“ぅ……」

「ユーリィ!?」


 苦悶の声を上げたユーリィに目を向けると、ユーリィは脛の辺りを抑えて倒れていた。


「当たったのか!?」

「多分、折れてる…」

「あいつ…!」


 アッカドは“敵”を探した。そしてそれはすぐに見つかった。


 それは壊れた民家の中にいた。ゆっくりとアッカドたちに向かって歩き、いくつもの触手をローブの裾から生やしていた。

 顔には異形の獣を模した仮面が装着され、全身を隅々にわたって何かで覆っていた。それに加えて触手の一部は血に塗れ、あまりに常識離れしたその風貌を見たものは、普通であれば正気を失ってしまうだろう。


 だがアッカドは依然冷静だった。そして理解した。


「結局俺の考察は全部ハズレかよ……慣れねえことはするもんじゃねえな」


 人だった。彼らを襲っているのは、魔法使いだ。

 ローブの背の辺りが不自然に不自然に膨らんでいる。何かを隠しているのだろう。


「やろうってんなら、手加減はしねえぞ…!」


 アッカドは敵を強く睨んだ。敵は一度歩みを止めた。そして一瞬の間を置いて、アッカドが仕掛けた。


 仮面に一撃、全身全霊を叩き込んだ。アッカドの全身には既に赤い刻印が現れていた。敵はアッカドたちと同じように飛んでいった。


「ユーリィはここでじっとしてろ! 俺が倒す!」

「『コネクト』…!」

「おい、無茶すんなよ!?」

「無茶しないで勝てる相手には見えないわ…! ()()()()()()()()…!」

「……いや、このままいく。援護頼んだ!」

「ちょ……!?」


 アッカドは飛んでいった敵に向かって走り出した。ユーリィはその場から動けずにいた。











 戦闘開始からおよそ十分が経過。両者の状況は拮抗していた。


 端的に言うと、決定打に欠けているのである。敵は基本触手で攻撃してくるが、アッカドは非常にうまくかわしていたし、いくつか掠ることがあってもユーリィによって治された。

 アッカドはそもそも手応えを感じていなかった。敵の手数が多く回避に意識を置いてしまい、いざ攻撃してみても敵が怯む様子はなかった。初めに全力を叩き込んだはずの仮面でさえも無傷だった。


 戦いの熾烈さ故に既にいくつもの家屋が倒壊し、街の面影はもうなかった。このままではジリ貧である。


(どうする…!)


 敵については大方把握できていた。基本触手を用いて攻撃し、触手の数に制限はない。本人の意思で自由に分裂、合成できるようだった。領域は平均より広いようで、間合いの観点から見てもアッカドは不利だった。


 律儀にやりあうのは愚策である。アッカドはどう逃げるかをひたすら考えていた。


(一発デカいのぶち込んで隙作るか、何かで気を引くか……ムズイな)


 難敵だった。敵がボロを見せない限りは、逃げ切ることも叶わないだろう。


(今は避けることだけを考えろ。時間を稼がねえと…!)


 敵はそんなアッカドの考えを知ってか、攻撃の手を緩めることはなかった。むしろ消耗戦に持ち込もうとしているように見えた。アッカドはもはや反撃すらままならず、荒ぶる触手をただひたすらに避け続けていた。


 途中、敵のローブの中から何かが落ちた。それは背中に隠されていたもので、想像よりもうんと大きく、それがなくなった途端に敵のシルエットは人のものに近づいた。だがアッカドは、落ちたものに目を奪われていた。


「カルヴァス!!」


 叫んだ。落ちたものは、落ちた人はカルヴァスだった。重力に逆らおうとせず、力なく地面に横たわり、ピクリとも動かなかった。霧も相まって、遠目で見ると判断は難しいが、直感の鋭い者であれば、それがどんな状態に置かれているかすぐに分かるだろう。


「……死んでんのか?」


 死んでいた。露出している肌は白過ぎた。霧を挟みながらも、それには血が通っていないことが窺えるほどに。


 ばら撒かれた血は彼のものだ。犯人も既に判明している。


「テメエがやったのか!?」


 再び叫んだ。だが、敵は耳を貸さずに落としものを触手で素早く拾い上げた。

 アッカドは冷静だった。そこには確かなヒントがあった。


(死体が大事なのか……?)


 敵は何かを庇いながら戦っていた。明確な弱点を負っていた。


(いける!)


 アッカドはすぐ行動に移した。全速力で駆け寄り、カルヴァスの死体を取り返そうとした。故に。


「なっ!?」


 敵は逃げた。アッカドの攻撃的な威勢を見て、自分が失敗したのだと悟ったのかもしれない。それ以上アッカドを追い込むことなく、逃げ足も見事なものだった。


「はぁ…はぁ…はぁ」


 アッカドは敵が逃げたのを確認した。そして元より薄かった気配が完全に消失した後、その場に座り込んだ。


「はぁ……チクショウ」


 危機は去った。それと同時に、仲間を失った。


 仲間を取り戻せなかった屈辱と、やっと訪れた安寧の狭間で、アッカドはどちらにも踏み入れずにただ揺れていた。

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