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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第82話 開始

「来たぞ」


 ガイウスがアグリクトに入ると、施設にいた者たちは皆歓声を上げた。上階からガタイの良い男が駆け足で降りてきて、ガイウスの目の前に立った。


「受けてくれるのか!?」

「ああ。昨日話し合った。仲間たちも同意してくれた」

「本当か…! 感謝する。詳細を話そう。一度上まで来てくれ」


 ガイウスたちはジーに先導されて上階に上がり、ある一室に入ってソファに腰掛けた。


「…話は少し逸れるが、あんたらは何人で旅をしてるんだ? 三人より多いのは知っていたが、かなり多いみたいじゃないか」

「十人くらいかしら」

「ほう、想像より多いな」

「協力できるのは俺たちだけだぜ」

「十分心強い」


 ジーは棚から本を取り出して、ガイウスたちの向かいに座った。そして本の表紙をめくり、ガイウス側に向けた。


「……話の前に、一つ。あんたらにとって都合の悪いタイミングで頼んでしまったことを謝罪させてくれ」


 そう言うとジーは、深々と頭を下げた。それを見たガイウスは、


「気にするな」


 としか言わなかった。


「…ありがとう。では本題に移る。昨日も言ったが、あんたらに頼みたいのは寒冷化の解決の手伝いだ」

「手伝いねえ…手がかりはあんのか?」

「ないことはない」


 ジーは本のページの一部分を指さした。ガイウスたちは指さされた場所に注目した。


「寒冷化が始まったのは半年前からだ」

「半年? 随分前からなのね。てっきり二ヶ月前とかかと思ったんだけど」

「この寒冷化は絶対に自然現象ではない。その証拠に、冷気が国外に漏れることはなく、被害を受けているのは何故かリヴァイアだけだ」

「たしかにゴッデスは普通だったな」

「天気的にはすごく快適だったわよね」

「羨ましい限りだ」


 場に静寂が流れた。


「冗談だ、気にするな」

「「笑えない……」」

「……ゴホンッ。寒冷化はどのように進んでいったんだ」

「始まりは北の街だった」


 ジーはページをめくり、また別の部分を指さした。


「兆候はなかった。ある日起きた地震を境に気温が一気に低下し、それはやがてリヴァイア全土を覆った」

「地震……そういえばあったわね、ちょっとだけ揺れたの」

「ああ。さして大きくはなかったから被害も少なかったがな」

「手がかりは『地震』と『北の街』だけか?」

「そうなる」


 ジーは本を閉じ、話を続ける。


「実のところ、北の街の調査は行えていない」

「どうせ魔物が出るからだろ?」

「察しが良くて助かる。調査も手伝ってくれるとありがたいが、あんたらに頼みたいのは主に護衛だ」


 そこまで言うとジーは立ち上がり、特注の冬着を羽織った。


「正直に言うと、今すぐに行きたい。行けるか?」


 ガイウスはすぐに立ち上がった。


「ああ」

「幸い上着は着て来てるしな」

「私も同行した方がいいかしら」

「ああ。念のために頼む」

「分かった、行きましょう」


 四人は立ち上がり、部屋を出た。


「外に馬車があっただろう。あれで行く」


 四人は外にある馬車の元へ向かった。











「……これって、馬なの?」

「『ホワイトグレイル』っていう馬の上位種です。基本白いのが一番の特徴で、とっても力持ちで体力もあるんですよ」


 ユーリィの質問に丁寧に答えたのは、調査隊で最も若い青年だった。黒く少し伸ばされた髪を一本に束ね、皆と同じように大きめの冬着を纏った青年は、白馬の世話を任されていた。


「みんな白いの? 自然で生きていけるのかしら」

「いえいえ、白いのが良いんですよ。上位種はどの種も強く、目立った体にしておくと迂闊に近寄れなくなるので」

「へー……知らなかった」

「ごく稀に黒い個体が産まれるみたいです。黒い個体は普通の個体に比べてさらに優秀、言ってしまえば上位種の上位種のようなものなので、『トップグレイル』なんて呼ばれたりするそうです。一度お目にかかりたいものですね」

「へー……」


 ユーリィは黒くて優秀な馬に覚えがあるが、今はとりあえず黙っておいた。


「レン、話すのはいいが、手を動かしてくれ」

「あ、はい。すいません」


 痩せた男に注意され、青年はそそくさと荷物を乗せ始めた。しかし痩せた男は注意しておきながら自分の手を動かしていなかった。


「貴方はいいの?」

「適材適所だ。私に力仕事は向かない」

「あっそう」

「一応名乗っておく。カルヴァスだ」

「ユーリィよ」

「呼びづらい名だな」

「ユーリィディスったやつ誰だ!?」

「ややこしいから出てこないで。…彼はアッカド」

「呼びやすいな」

「そんなに差あるかしら……?」


 青年とジー、アッカドにガイウスの四人がかりで荷物を乗せたので、準備はあっという間に終わってしまった。


「よし、行こう。レン、出してくれ」

「はい」


 青年は手綱を握り、馬を歩かせた。


「ちなみに所要時間は?」

「街を出たら馬に走ってもらう。距離は遠いが、西の街よりはかからないだろう」

「そう。じゃあ本でも読もうかしら」

「持ってんのか?」

「ええ、持ち歩いてるわよ。何かあったら呼んで頂戴」

「わあった。………」


 アッカドはあることを危惧しつつも、静かに北の街に到着するのを待っていた。












「大丈夫かよ?」

「ムリ……きもちわるい…」

「本当にこうなるとはな……やめさせときゃよかった」


 北の街に向かう途中、ユーリィが体調を崩し、調査隊は一度川の近くで休んでいた。ガタガタと揺れる馬車の中での読書はあまり経験がないだろうから、こうなることは目に見えていた。


「ごめんなさい……迷惑かけて…」

「気にすんなよ。どのみち途中で一回休む予定だったろ」

「ええ。ホワイトグレイルたちも休みたがってたみたいですし」

「…体力あるんじゃなかったのかよ」

「ストレスに弱いんです」


 ホワイトグレイルたちは川に口を突っ込み、静かに水を飲んでいた。ユーリィはその隣で座り込み、口を押さえて吐き気を我慢していた。


「今はどの辺りだ」

「半分くらいだ。元々ここで休むつもりだったから、気にするなよ、お嬢さん」

「ええ…ありがとう…」

「ふむ……」


 ガイウスは一度馬車から降りて、深く息を吸った。凍えた空気が鼻の奥を通り抜け、刺すような痛みが走った。


「どうした、空気の美味さでも感じてるのか?」

「少し違う」


 ガイウスは淡白な返事を返し、川に一歩近づいて水をすくった。


「……冷たいな」

「何してんだ、ボス?」

「気温が低い」

「あー、言われてみりゃ街より断然寒いな」


 アッカドはガイウスと同じように川の水をすくった。


「冷て……!? なんで凍ってねえんだ?」

「全体が冷え切っている訳ではないからだろう。ジー、この川はどこから来ている」

「ちょっと待ってくれ」


 呼びかけから少しして、ジーも馬車から降りて川の側に来た。


「何か用か?」

「川の水はどっから来てるんだって話だよ」

「北の山脈からだ。それがどうした?」

「冷てえよなーって」

「ほう……?」


 ジーは二人同様川の水をすくった。


「いや、冷たすぎるな。以前にも増している」

「前より進んでるってことか?」

「ああ。だがまあ、何もおかしなことはないだろう」

「でもよ、これほっといたら本当に全部凍っちまうんじゃねえか?」


 アッカドのその言葉を聞いて、ジーはピタッと動きを止めた。


「…ジー? 大丈夫か?」

「いや、大丈夫だ、気にするな。この川はリヴァイアの民も利用している。お嬢さん、体調は?」

「水飲んだらちょっと良くなったわ」

「そうか。ならば急ごう。状況は思ったより深刻なようだからな」


 休憩は急遽終了、調査隊は急いで北の街へ向かった。

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