第76話 残り
「何でいるの?」
「知るか!」
「気になっちゃって……」
おいおい……まさかまた来ちゃうなんて、流石に予想外だ。
「アラタ、来るなとは言わなかったのかな」
「………」
「目を逸らすな! 心見るぞ!」
「言ってません」
「君の責任じゃないか…全く、抜け目ありすぎ」
何も言い返せない。いやいや、そもそも普通また来るか? 見られたら困るって言ったはずなんだけど……もう見られてるからそれは意味ないか。
「一応聞くけど、何でまた来たの?」
「気になっちゃって」
「それはさっきも聞いたよ。何が気になったのかな」
俺がそう聞くと、少年は小さな人差し指で俺を指した。
「俺か……まあそうだよなあ」
「誰っすかこの子」
「見られるのは不味いんじゃなかったのか?」
「ああ、それも知らないんだっけ。えっとだな……」
俺は留守番組に昨日の出来事を説明した。
「へー、そうなんすね」
「そうなのか」
「もっと興味示せよ」
「ならもっと興味が湧くように話すっす」
「その通りだ」
「なんつう暴論……ちょっと待ってフレア素で同意してない?」
「フレアは狂人っすから」
「なんだと……」
自覚無いみたいだけど、えげつない本性が見え隠れしてるんだよなあ…。
「来ちゃだめだった……?」
少年はとても不安そうな表情で俺たちを見つめていた。
「ダメだね」
「良くはないけど、もう見られてるし、別にいいかな?」
「……さっきも言ったけど、抜け目がありすぎるんだよ君は」
「そんなこと言ったって、今更見られてももう困んないだろ」
「僕はそういう意識がまずいって言ってるんだよ」
マジトーンで説教を食らっている。昨日の効率厨カルディアが顔を出しているな。
「フォード君、君は俺たちのことを見たいの?」
「うん」
その真っ直ぐな返答を聞いて俺は少し笑顔になり、カルディアは額に手を当て空を仰いでいた。
「頭が痛い…」
「そう言うなよ。来ちゃったもんは仕方ないし、この際見学を許してもいいんじゃないか?」
「……そうだね、この際なんでもいいや」
あ、ヤケになった。
「いくらでも見ていけ!!」
「小さい子にする態度じゃない…」
「カルディアも小さい子っすから変わんないっす」
「そうだな」
「フレアさっきからコラブルのこと肯定しすぎだろ」
「違かったらもちろん否定する。気が合うのかもしれない」
「なんか嫌っす」
「私もだ」
「息ピッタリだな」
こんな感じで俺たちは昼食を終え、修行を再開した。
だが流れは少し終わって、俺はまず『炎壁』の習得に集中しろと言われた。俺的にも是非とも完璧にしたい魔法なのでノリノリです。よって午後もフレアと打ち合うことになるのだが、俺はやり方を少し変えることにした。
「いくぞー」
「ああ」
俺はフレアが剣を抜いたのを確認して、全速力でフレアの元へ走り、本気の一撃を放った。
「っ!?」
不意を突かれたのか、フレアは驚きながらもなんとか剣で俺の一撃を防ぎ、勢いを殺すように後ろへ後退して、
「…どういうつもりだ?」
俺を強く睨んだ。まさか完璧に防がれるとは思っていなかった。相手にとって不足なしだな。
「いきなりやったのは謝るよ。でも、せっかく『炎壁』で剣とかともやり合えるようになったんだから、同時に体術も学びたい」
「……そういうことか。なら」
フレアは剣を構えた。だが、いつもと形が違う。『強めの一撃』を放った時と同じように姿勢が低く、隙がない。
「手抜きはなしでいくぞ」
「バッチこい!」
「…言っておくが、ツッコまないからな」
「あ、そう……」
午後の打ち合いは、午前のそれとは比べ物にならないほど激しいものとなった。フレアの放つ全ての攻撃が『強めの一撃』なのだ。死ぬ気で頑張ったけど、途中からは防戦一方だった。
「なんだ、動き自体もまだまだ甘いんだな」
「自分でも痛感してるよ……」
全力の打ち合いを提案してよかった。実践に近い形で戦ってみると、自分の技術がまだまだであることを実感した。ゴッデスにいた頃のアッカドの指導は手を抜いていたんだっけ。そりゃこうなる。
それからフレアの体力が尽きるまで打ち合った。フレアの体力は何故か無尽蔵に近いので、結局日暮れ近くまでずっと打ち合っていた。少年はずっと俺たちのことを見ていた。一体何がそんなに気になるんだろう。
「久々によく動いた」
「疲れた……」
「お疲れ様。学びはあったのかな?」
「沢山あったよ。体に頼り過ぎってのを実感した」
「それはよろしい。いい事じゃないか。フレアは…そもそも魔眼使おうと努力したの?」
「……努力はした」
「そ。ならいいや」
そういえば、フレアも業火の魔眼の練習をしているはずなのに、さっきは使ってこなかった。手抜きはしていないはずだから、もっと別の、精神的な何かを乗り越えないと使えないのだろう。
「もうすぐ日が暮れるけど、フォード君は帰らなくていいの?」
お母さんと二人で暮らしていると言っていた。そもそも一人でこんなところに来て、お母さんに心配されないのだろうか。
「帰るよ」
「そっか。送るよ」
「ううん、大丈夫」
なにぃ?
「一人で帰れるの?」
「うん。もう道覚えたから」
なにぃぃ?
「記憶力すごいな…」
「そういう問題なんすかね」
「帰るならさっさと帰った帰った」
「うん、バイバイ」
カルディアに催促されて、少年は走り去って行った。
「二度と来るなよ!」
カルディアは去っていく少年の背中に大声を浴びせた。なんて大人気ない。ていうか、
「それフラグっす」
「それな」
「そういうこと言うからフラグになるんだろ!」
ごもっとも。てかフラグって言葉あるんだ。
そんなことを話しているうちに、少年の姿は見えなくなっていた。カルディアの言葉は聞こえてたのかな。聞こえてないふりしてまた来そうで怖い。
「結局何が気になったんだろう」
「少年のみぞ知る、だね。僕たちも帰ろうか」
「そうだな」
そうして俺たちも、茜色に照らされる木々の下を、くだらない雑談を交わしながら歩いた。
「戻りましたー」
「あら、おかえり」
家に戻ると、ガイウスたちも既に帰ってきていた。台所からは何かを炒める音が聞こえてきていて、ユーリィは既に風呂を済ませた後のようで、全身から湯気が出ていた。
「結構早く帰ってきたんですね」
「ええ、ガイウスの要望でね。エルちゃんに構ってあげる時間が欲しいって」
「なるほど」
尊い。
「これからはずっとこんな感じなんすかね」
「そうでしょうね。貴方たちは鍛えて、私たちは稼ぐ。あと一週間ぐらいで終わると思うけど」
なるほど、ここでの生活はあと一週間か。一瞬短いと思ったが、これはあくまで旅なのだからそんなもんなのだろう。
「頑張ろうな」
「っす」
「…ああ」
「主に君がだけどね」
せっかくだし、ここでの日常を楽しみながら、あいつらよりうんと強くなってやろう。




