第75話 実験
「どんな風にやればいい」
「初めは軽く頼む。要望は俺から順次言っていくよ」
「分かった」
フレアはゆっくりと剣を抜き、久しぶりに淡い赤の剣身が日の光に照らされた。俺は両腕に意識を置きながら構え、フレアからの攻撃を待った。
「いくぞ」
「バッチこい!」
「……いくぞ」
フレアはゆっくりと走り出し俺に近づいて、俺が防御しやすいよう剣撃を繰り出した。それは左腕に張られた障壁に命中し、障壁は壊れることなく、若干揺めきながらフレアの剣撃を防いだ。
「防げた…!」
「このままいくか」
「おう、しばらくは弱いの頼む」
「分かった」
俺はこれがちゃんと障壁の役割を果たしてくれるか確かめるため、しばらくフレアの弱い剣撃を受け続けた。結果は上々、見事に全部防ぎ、障壁に損傷は見られない。
「一旦止めてくれ」
「分かった」
フレアは俺の言葉に従い剣撃をやめ、剣を一度鞘にしまった。俺は一度障壁を消し、内側にある皮の上着の状態を確かめた。
「傷一つついてない…」
「フレアが手を抜いてたのもあるだろうけど、多分形が常にちょっと揺らいでるから、攻撃をうまく吸収してるんだろうね」
「なるほど!」
カルディアはちゃんと見ていてくれたらしく、冷静に解説してくれた。障壁としての役割はちゃんと果たしているようだ。
「今度は強度を確かめよう」
「なら、強めの一撃でいいか」
「頼んだ」
フレアは再び剣を抜き、姿勢を低くして構えた。俺は再び炎による障壁で左腕を覆い、フレアが打ち込みやすいように左腕を構えた。今度はすんなり張ることができた。意外と簡単かもしれない。
「いくぞ」
「バッチこい!」
「ふっ!」
フレアは俺の左腕に向かって容赦なく剣撃を放った。それは先程の剣撃に比べて目で追えないほど速く、俺は思わず一歩後ろに下がってしまったが、それはしっかり俺の左腕に命中していて、左腕に張られた障壁は形が歪んでいた。
(やっぱ脆いか!?)
初めはそう思った。しかし次の瞬間、障壁が大きく揺らめいたと思うと、剣撃を受けたのと反対側、すなわち腕の内側から、受けた剣撃の威力をそのまま吐き出すかのように炎が吹き出した。それはまるで噴火のようで、俺はその衝撃を受け流すために、後退しながら体を一回転させた。
「……なに?」
「これは……」
ふと左腕を見ると、障壁はまるで何事もなかったかのようにケロッとしていた。
無傷だ。
「フレアー、ちゃんと本気出したのかい?」
「全身全霊ではないが、少なくとも手抜きはしていない」
「ほうほう、それを受けてもなお無事と」
「強度もバッチリってことか?」
「いや、ちょっと違うかな」
カルディアは再び俺に近づき、また俺の腕に張られた障壁をベタベタと触り始めた。
「威力を受け流すことに長けてるんだ。もしかしたら『強度』っていう観点自体必要ないかもね」
そう言いながらカルディアは、小さな手をグーにして俺の左腕を殴った。それから少し間を置いて、さっきと同様に攻撃を受けた反対側から、今度は小さく炎が吹き出した。
「ほら、吹き出す炎の量が威力に比例してる。威力をそのまま流して吐き出してるんだろう」
「なるほど……そういえば、障壁ちょっと小さくなってないか?」
「威力を逃すときに炎ごと吐き出すから、同時に魔力もちょっと失うんだろうね。でも補給できるんじゃない?」
ためしに俺は腕の障壁に魔力を流し込んでみた。すると、小さくなっていた障壁の面積が元の大きさに戻った。
「できるな」
「強いねー」
「見事と言わざるを得ない」
フレアとカルディアがめっちゃ感心している。どうやらとてもいい発想だったようだ。
「オイラにもできるっすかね」
「無理。これは多分極上の『質』が為せる技だ。君も割といい方だけど、全然足りないね」
「残念っす……」
なるほど、質か。俺はエルリア、つまりかのリーア・エル・リンケージの魔力を借りているから出来た訳で、普通はまず無理なのかもしれない。帰ったらエルリアと魔眼戦争いっぱいやろう。
「それ、指先まで覆える?」
「できると思う。ほら」
もう感覚を掴んだかもしれない。いつものように想像しただけで、簡単に手首から指先まで炎による障壁を展開できた。
「完璧だね。うん、すごくいい。炎魔法にも活かせそうだ」
「炎魔法か……まだ苦手なんだよな」
「これから伸ばそう。いずれ強化魔法とも掛け合わせて貰いたいからね」
炎魔法と強化魔法の合わせ技か、どんな感じになるんだろう。
「それの名前はどうするっすか?」
「そうだな……『炎魔法障壁』」
「堅い!」
「まんまっすね」
「長いな」
「じゃあ略して『炎壁』」
「シンプル!」
「悪くないっす」
「呼びやすくていいんじゃないか」
「はっきり意見言ってくれて俺は嬉しい」
かくして俺は新しい魔法『炎壁』を編み出した。それに加え、これによって可能性が一気に広がったようだ。
「それじゃあ、まずはそれをマスターしちゃおうか。フレアと打ち合い、頑張って」
「よろしくな、フレア」
「ああ」
「オイラは?」
「ずっと『エージェント』使ってて」
「地味っす……」
それから時間が経って、昼飯の時間になった。今日はアッカドが作っておいてくれたものを持ってきている。品目がサンドウィッチであることは何となく察せてしまうだろう。
「これ多いっすね」
「美味いんだからいいだろ」
「嫌なら自分で作れば良いんじゃないかな?」
「嫌とは言ってないっす」
俺はカゴに詰められたサンドウィッチのうち端にあるものを手に取って、口の中に運んだ。うん、相変わらず美味い。
「ちょっと席外すね」
「どうかしたのか?」
「うん」
カルディアはおもむろに立ち上がり、森の中へ歩いて行った。どうかしたのかという質問に対してシンプルな肯定を返す人初めて見た。カルディアのことだから嘘ではないだろうし、思わず身構えてしまうな。
俺が手に取ったサンドウィッチを食べ終えた頃、カルディアが戻ってきた。そのすぐ側に、
「………あの、何でいるの?」
「知るか!」
「気になっちゃって……」
フォードという少年が、申し訳なさそうな顔をしながら立っていた。




