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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第74話 合わない

「うーん……」

「まだか」

「もうちょっと待って。うーーん……」

「……埒が明かないな」

「ちょっと、悩める呻き声がこっちまで聞こえてるよ。どうしたの」


 俺があることに頭を抱えていると、その声を聞きつけて、コラブルの面倒を見ていたカルディアが駆けつけてくれた。


「この際はっきり言っていいか」

「どうぞ?」


 俺は今まで心の奥に秘めていた正直な感想を、了承を得てぶちまけた。


「障壁と俺、相性悪い」

「…………は?」

「障壁使うと戦いづらい」

「今言うそれ?」

「もっと早く言うべきだったな、ごめん」

「すぐ謝るな!」

「今日情緒どうしたんだよ……」


 結局俺が悪いんだけど、とっても正直なことを言うと、魔法障壁はどう考えても俺の戦闘スタイルと相反するものだった。


「防ぐだけならいいんだよ。でも、そこから反撃に転じれない」

「なんでかな?」

「間合いが定まらないんだよ。俺は間を詰めたいんだけど、障壁を使うとなるとそれができない。強化魔法を覚えればなんとかなるだろうけど、そもそもなんとかして習得することじゃないと思うんだ」

「うーん、それはその通り。基礎のスタイルに刷り込みたい訳だから、なんとかするもんじゃないね」

「体にフィットさせるのはどうっすか?」

「「うわっ!?」」


 いつの間にかコラブルが近くにいて突然声を上げるものだから、俺とカルディアは驚いてしまった。コラブルは全身に闇魔法をまとい、完全に気配を消している。


「あ、脅かすために『エージェント』使ってる訳じゃないっす。魔力消費のためっす」

「あ、そう。…でも、体にフィットさせるのも無しだな」

「なんでっすか?」

「関節曲がんなくなるだろ」

「そこだけ上手い感じに避けるっす」

「それに漬け込まれるわ。意味ないだろ」

「じゃ、どうするの?」

「そこなんだよなぁ…」


 剣や鎌などの斬撃から身を守るために障壁を会得しようとしている訳であって、今の俺はそれなしでは戦闘すらままならない。体は確かに丈夫だけど、だからといって切り刻まれながら反撃の機会を窺うのは無謀すぎる。だからこうして障壁の練習をしているのだが、そもそも障壁自体が俺に合わないとなると、いよいよ八方塞がりだ。


「あー、なるほど。それで頭を悩ませてたんだ」

「そうなんだよ」

「私としては早く解決策を編み出してほしいんだが」

「フレアに急かされると思考がまとまんなくて…」

「分かった分かった。ゆっくり考えなよ。僕が相談に乗るから」


 必要なことだからか、カルディアは優しくしてくれた。ここは言われた通り、ゆっくり、声に出しながら考えてみよう。


「魔法障壁以外に防御に役立つ魔法って何かあるかな」

「あまりないね。そもそも、戦う時は普通道具を使うし。君も剣とか使ってみたら?」

「いや、それも合わない。昔から道具使うのは苦手だった」

「不器用なんだねー?」

「そうなんだよ…」

「はいはい、落ち込んでないで考えて」

「分かってるよ。…魔法障壁って何魔法?」

「原点回帰か、いよいよ追い込まれてるねー」

「実際追い込まれてるよ」

「おっといじっちゃいけないやつだったか、ごめんごめん。魔法障壁は共通魔法。ただし難易度が高い」

「一応難しい部類なんだ?」

「作り出すだけなら簡単だけど、強度が絡んでくるからね」


 そこまで話した後、俺は一人で頭の中で考え始めた。


 障壁は共通魔法。共通魔法は確か、素質を必要としない誰でも使える魔法のことだったな。だからガイウスはそれを極めたんだっけ。でも俺には【炎】の素質があるから、他にもいろんな魔法が使える。


「………あ」

「お、何か思いついた?」


 俺はふと思い至ったことをそのままカルディアに伝えてみる。


「素質使って共通魔法って使える?」

「……分かりずらい言い方だね。つまりどういうことかな」

「えっと…」


 俺は一度頭の中で考えを整理し、カルディアに伝わりやすいように言葉を選んだ。


「【炎】の素質で障壁って作れるのか?」


 俺がそう言うと、辺りにしばらく静寂が流れた。俺はその静寂に少し怯えながらカルディアたちの返答を待っていた。


「……あの、どうなんだ?」

「ちょっと待って。考えてる」

「お、おう」

「…………」


 カルディアは顎に手を当てながらしばらく考え込んでいたが、


「分かんない! でも多分できる!」


 そう言った。


「多分?」

「そりゃそうだよ。前例がない。でも魔法ってとーーーっても便利だから、多分できる。とりあえずやってみよう!」


 そう言うとカルディアたちは俺から距離を取った。全身タイツ状態のコラブルが視界に入り一瞬吹き出しそうになったが、どうやらやる流れのようなので、とりあえずやってみよう。


 俺はまずイメージを掴むため、普通の障壁を腕に沿って展開させた。案の定肘が曲がらず、長い筒を腕にはめたみたいになった。ちょっと楽しい。


「何してるんすか」

「あ、や、なんでもない」


 俺は慌てて障壁を解除し、次に炎によって作られる魔法障壁を想像した。瞬間、俺の両腕から青い炎が勢いよく溢れ出し、やがて炎は俺の全身を覆ってしまった。


「ちょ、何してるんすか!?」

「コラブル、邪魔しない。今は大人しく見守る番だよ」

「……わ、分かったっす」


 ありがとうカルディア、非常に助かる。

 俺も少しびっくりしたが、初めてなのだからこういうこともある。俺は冷静に頭を働かせ、今度は先程よりも鮮明に腕を守る炎を想像した。すると、無造作に腕から吹き出していた青い炎がゆっくりと腕へ集約され、やがて綺麗に俺の両腕を覆った。


「……できた!」


 成功だった。

 俺の両腕を覆う青い魔法障壁は炎のようにゆらゆらと揺らめいており、しかししっかりと俺の両腕を守っていた。壁の役割を果たしながらも、確かな形を持たないために肘も曲げられる。俺はそれを確かめるように肘を曲げては伸ばしてを何度も繰り返していた。


「できたよ! ほら、触ればちゃんと壁なのに、肘も曲がる!」

「………」

「……カルディア?」


 カルディアは俺の腕を見てしばらく呆けていた。が、次の瞬間。


「すごい、すごいすごいすごい!!!」


 まるで子供のようにはしゃぎながら俺の元へ駆け寄り、障壁に覆われた俺の腕をベタベタと触り始めた。


「なんとも魔法らしいじゃないか! デメリットは一切なく、使用者が求めるものをそっくりそのまま体現する! うーん、すごい! アラタが求めていた魔法そのものじゃないか!」


 俺はその様子をニヤニヤしながら見守っていた。コラブルとフレアはちょっと引いてたと思う。


「カルディア」

「なんだい!?」

「可愛いな」

「あ…………」


 俺の一言を聞いた途端カルディアは言葉を失い、羞恥心に頬を赤くしながら俺から距離を取った。


「カルディアって無機質なやつだと思ってたけど、思ったより表情豊かだし、はしゃぐ時もあるんだな」

「うるさい。可愛いとか気持ち悪いこと言うな!」

「今日はよく叫ぶな…」

「全く……そんなこと言うのは君と……」


 カルディアはそこまで言って、何故かその先を言おうとしなかった。俺はその先に続く言葉が気になって、


「……君と?」


 自分から聞き返した。だけど、


「いや、君たちの知らない人だ。言っても知らないよ」


 結局話してくれないみたいだった。かつて親しい人がいたのかな。


「さ、実戦だ。フレアと打ち合おう」


 カルディアは脱線しかけていた話を本筋に戻した。俺もそれを聞いて本来の目的を思い出し、フレアに向き直った。


「分かった。フレア、やろう」

「……ああ」


 見た目では成功しているように見えるが、実際どうかはやってみないと分からない。フレアの剣術を相手にどこまで防げるか、見ものだな。

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