第73話 修行再開
「さて、それじゃあ今日も張り切っていこうか」
俺たちは再び修行に身を投じるため、いつもの広場に来ていた。メンバーはいつもの如く俺、カルディア、コラブル、フレアの四人だ。ガイウスたちも以前のように金を稼ぎに行ったらしく、今朝目覚めた時にはもういなかった。ちなみにエルリアの寝顔も確認したんだけど、とても気持ちよさそうに眠っていた。それはもう可愛くて、スマホがあったら激写していたところだ。
「さて、アラタ。昨日言われたことは覚えているかな?」
「昨日……誰から言われたこと?」
「ガイウスだよ。ほら、言われたろ? 『目標はもう少し明確に持て』って」
「ああ、それか。言われたな」
ガイウスに色々教わった時に言われた言葉だ。よく覚えている。
「そこで、僕が目標を提示しようと思う」
「カルディアが? てっきり自分でつけるもんだと思ってた」
「他人に決められた方が強制力がある。仮に自分で決めるとして、どんな目標にするつもりかな?」
「うーん……」
障壁を完璧にするとか、強化魔法をマスターするとかかな。
「それじゃダメだ!」
「え? ……俺今声に出したっけ」
「魔眼で見たよ!」
「潔いな」
よく分からないところで最上位の魔法を使わないで欲しい。
「もう一度言うけど、それじゃダメ。明確な目標っていうのはそういうのじゃない」
「じゃあ、例えばどんなのだよ」
「『〇〇に勝ちたい』とか!」
「……なるほど」
正論。確かにその通りだ。
「でもなぁ、競える相手はアッカドとフレアぐらいだし」
「あれ? オイラは?」
「お前戦いに関しては弱いだろ」
「口で負かすっす」
「なんの意味があるんだよ」
コラブルが会話に入ってくると話が脱線しがちだ。目標はちゃんと決めたいし、今は無視しよう。
「私も今は本調子じゃない。目標としては適していないと思う」
「そっか。じゃあアッカドってことになるけど……」
「無理っす」
「ですよねー」
一時はアッカドを目標にしていたが、あれは何十年もかけてやっと追いつけるレベルだ。今定める目標としてはいささか強すぎる。
「アラタ、あいつらは覚えてる?」
「あいつら?」
「君を襲ってきたやつ」
「……あー、あの奇抜な格好した女の子と鎧着た男の子か」
なるほど、カルディアの言いたいことが分かってきた。
「うんうん、分かってくれたみたいで僕は嬉しいよ。でもあえて口に出そう。彼ら、丁度良いんじゃないかな」
丁度良い。カルディアの言う通り、彼らは俺が目指す目標としてとても丁度良い強さをしている。あの女の子は俺より少し強かったし、あれに勝てるぐらいになれば、十分成長したと言えるだろう。
「うん、決まりだな」
「……少し待ってくれ」
「ん?」
俺は納得がいったんだけど、フレアは何故かしっくりきていないようだった。
「私には丁度良いと思えない」
「え」
「二人なら厄介だが、一人一人は大したことないように思える」
マジか? まあ強いフレアからすればそう見えるのかもしれないが……。
「ちょいちょい、勝手に話進めないでよ。ていうか君、全然分かってないじゃん」
「ええ? 違うのかよ」
「全然違う! まあ負けたフレアに言う資格は無いと思うけど、僕がはっきり言おう。あいつらはまだまだ弱い」
カルディアは容赦なく現実を突きつけてきた。女の子本人も強くないとは言っていたが、ここまではっきり言い切られると、一方的にやられてた俺の立つ瀬が無え…。
「したがって、あれに勝てなかった君はもっと弱い! てか雑魚!」
「うぐっ!? ちょ、おま、それぐらい自分で分かるから! あえて言う必要無いだろ!?」
「いいやあるね! 君は気持ち悪いぐらいタフな体に甘え過ぎだ!」
「ぐはっ!?」
何かが俺の心に突き刺さる音がした。
「君は体が丈夫なだけで、本当はもう何回も負けてるんだよ!」
「ぐへっ!」
また何かが俺の心に突き刺さる音がした。
「なのに結果的に、『結果的に』勝てたからって、調子に乗るな!!」
「ぐほぁっ!?」
さらに数本突き刺さり、いくつかは俺の心を貫通した。結果。
「もう立ち直れねえ……」
心の出血多量により精神が死んでしまった。全身から力が抜け、俺は雑草が生い茂った地面に倒れ込んでしまった。
「そこまで言うことないじゃんか……昨日のこと引きずり過ぎだよ……」
「死んじまったっす……」
「呆気なく逝ったな」
「フレア……?」
「なんでそんな追い討ちかけるんすか。ほら見るっす。生と死の瀬戸際で親友に裏切られた時の目でこっちを見てるっす」
「そ、そんなにキツい言い方をしていただろうか? すまない、以後気をつける」
「素っすか? 怖っ」
怖え……。
「はいはい、茶番はそこまで。アラタもやかましいこと考えてないで元気出して。だから修行するんだろ?」
「……その通りだな」
俺は傷ついた自分の心を優しく労りながら体を起こし、カルディアを見た。
「結局、カルディアが俺に求めるのはどれくらいの強さなんだ」
「あいつら二人を相手にして、楽に勝てるぐらいの強さ」
それは俺が想像している少し上をいくものだった。
「二人を相手にして、か」
「『楽に』っていうのが重要だね。それぐらいにならないと、修行の意味がないかな」
「彼らは二人で戦う方が得意なのかもしれない。連携は良くできていた。だがそうなると、アラタに求められる実力はかなりのものだろう」
「…そうだろうけど」
俺は勢いよく立ち上がり、軽く腕のストレッチを行いながら、
「不可能じゃない。やるだけやってみるよ」
そう意気込んだ。素面の俺ではないが、既に一度達成している目標だ。できない道理はない。
「なら、早速始めようか!」
そうして、今日の修行が始まった。




