第71話 プライド高め
「なんだよ、呼び出しといてだんまりか?」
「…………」
時は少し経って、俺は無理矢理カルディアの謝罪の場を作り出した。
石の机を挟んでカルディアとアッカドが向かい合い、それを俺、コラブル、ユーリィ、フレアが少し遠くから見守っていた。場には異常に気まずい空気が流れ続けていたが、カルディアがその空気を打ち破ることはなく、たまにアッカドに文句を言われながら時間を浪費していた。
「おい」
「……」
「おい!」
「……」
アッカドの機嫌がもう見たことないくらい悪くなっている。次第に空気がピリつき始め、俺の横に立っている太くて大きな体は小刻みに震えていた。
「カルディア」
俺は出来るだけ優しい声でカルディアに呼びかけた。その声を聞いたカルディアは一瞬こちらを見た後、再び俯いて、今度はモジモジし始めた。
「言いたいことはなんだ?」
「……その」
やっとカルディアが声を発した。それは普段の彼女からは想像できないほどか細く、弱々しかった。それを聞いたユーリィは驚きを隠せないのかフレアに絡み始め、アッカドは姿勢を正していた。
「えっと、だね……」
「……なんだ?」
「………なさい」
「あ?」
お、これはもしや。
「…ごめんなさい……」
「な…んだと…!?」
言った!
「ちょっと待て、お前今なんつった? 『ごめんなさい』!?」
「そうだよ! 悪かったね馬鹿なことしてすみませんでしたこれで満足かい!?」
突然マシンガンの如く言葉を発したカルディアにアッカドは少し困惑していたが、少しして、
「へー、お前が謝罪かあ? 面白えな」
カルディアをからかい始めた。その表情には明らかに悪意が込められていて、それを見たカルディアの顔は一瞬で怒った猿のように真っ赤になった。そして俺の方を見て、
「だから嫌だと言ったんだ!! こいつらは性格が悪いし人の不幸を楽しむ節がある! 酷いだろ!?」
見たことのない形相で俺を責め始めた。だが、
「カルディアにだけは言われたくないかなー」
「うぐっ!!?」
カルディアが言っていることはそこそこ正しいんだけど、カルディアが言っているから意味がない。言ってる本人も性格悪いんだもん。
「アラタ、今日のカルディアはやけに感情的っすね。何かあったんすか?」
「あ、お前は何も知らないんだっけ」
「留守番だったっすから」
「私もだ。何がどうなっている?」
俺は何も知らないフレアとコラブルに簡単な経緯を伝え、今の状況を具体的に説明した。
「へー……つまりどういうことっすか? カルディアはなんであんなに顔真っ赤なんすか?」
「詰まるところだな……」
俺はとっておきを自慢する子供のようにウキウキしながら、先程得たとっておきの情報をコラブルに伝える。
「カルディアはプライドが高いんだ。それこそ子供みたいに」
「「………!!?」」
なんていいリアクションなんだろう。その台詞を聞いたフレアとコラブルはあまりの衝撃に目を見開きながら絶句し、さらっと盗み聞きしていたユーリィのカルディアを見る目は、その目が子供に向けられる時同様に輝いていた。
「へーー……?」
しかしコラブルは先程のアッカドのような意地悪な声をあげ、その顔は数回見たことあるかないかぐらいに悪くなっていた。
「カールーディア」
コラブルはスキップしながらカルディアに近づき、顔を覗き込んで、
「恥ずかしいんすかぁ?」
カルディアの地雷を踏み抜いた。その台詞を聞いたカルディアは顔に力を込めた。同時に顔もさらに赤くなり、白い肌の面影はもう無かった。
「イキるなデブ!」
「ふっふっふ…なんとでも言うがいいっす。今は何処の誰よりもカルディアの方が滑稽っすからねえ」
「こんの…っ!」
「おいおい、謝ってる人間がそんなこと言っていいのか?」
「〜〜〜〜〜!!」
アッカドもまだいじり足りないらしく、コラブルに加勢した。謝罪のための気まずい光景が、一瞬にして目も当てられない惨状になった。謝罪の場だったはずが、いつの間にか公開処刑の会場になっている。
「アラタ」
「なに」
「伝えるタイミング間違えたんじゃないか」
「言わないで。俺が一番分かってる」
フレアの言う通り、戦犯はどう考えても俺だった。ウキウキし過ぎたようだ。コラブルに伝えるべきではなかった。
「どうしてくれるんだ!!」
カルディアは強く俺を睨みつけた。俺はそんなカルディアに対して、両手を合わせて決まりが悪そうな顔をしながら、謝罪の意を示すことしかできなかった。




