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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第68話 話し合い

「ふむ………」

「どうしますか?」


 少年を広場に連れてきた。メリーゴーランドはもう消えていて、アッカドがエルリアを肩車していた他は皆大人しくしていたようだった。少年を連れてきた時、ユーリィとアッカドは驚いていたが、ガイウスはそうでもなかった。冷静を装っているだけかもしれないが。

 今は少年の面倒をユーリィに見てもらい、他の面子で輪を作って話し合っている最中だ。アッカドは一人で体操のような運動をしていたので参加していなかった。


「お前自身はどう思う」

「俺ですか? そうですね……」


 難問が過ぎる。だが以前にも一度見られてるんだよな……あれ、これみんなに言ったっけ?


「俺既に一回見られてるんですけど」

「なに?」

「この前襲われたじゃないですか。その時に」

「……ふむ」

「街に変化はなかったのかな?」


 カルディアは平然と質問した。ガイウスには既に話したが、また後で話し合う時間が必要だな。


「特にない」

「そっか……漏らしてないってことになるのかな」

「そうなるだろうな」


 ならば。


「このまま帰すっていうのはどうでしょう?」

「ええ!? 僕は反対! 無策は考えられないよ!」

「……それでもいいかもしれん」

「本気ぃ!?」


 カルディアが素で驚いているが、あの少年のことは、実のところ深刻に考える必要はないのかもしれない。いくつか聞いておきたいことはあるけど。


「ちょっとあの子に色々聞いてきますね」

「ああ」

「本当にそうするの…?」

「一つの選択肢だ…」


 俺は話し合いの輪から抜け出し、ユーリィにベタベタされている少年の元へ歩み寄った。


「ちょっといいですか」

「ダメー。もうちょっと触らせて」

「た、たすけて」


 ユーリィはしゃがんで少年と目線を合わせ、満面の笑みを浮かべていた。少年はほっぺたを指で突かれ、つねられ、ぐるぐるされていた。少年は終始声を発し、ユーリィの動きに合わせて声が震えていた。


「やり過ぎると嫌われますよ」

「ちょっと行き過ぎなくらいがちょうどいいのよ、子供の世話っていうのは。カワイイわねぇ……」

「たすけて…!」

「助けるよ」

「わっ!」

「あ、ちょっと……ちぇ」


 俺はユーリィの後ろから手を伸ばし、少年の両腕を掴んで持ち上げ、後ろを向いてゆっくり降ろした。そして身を屈め、少年を上から見下ろした。少年は純粋に見つめ返してきただけだった。


「膝の傷、治してもらったんだ」

「うん」


 いつのまにか膝にできていた血の塊が綺麗になくなっていた。ユーリィが治したのだろう。もしや見返りにスキンシップを求めたのか。子供相手になんてことを。


「ちょっと聞いてもいいかな」

「なに…?」


 俺は出来るだけ優しい声色を発し、質問をし始めた。


「君の名前は?」

「……フォード」

「フォードか、いい名前だね。どこら辺に住んでるの?」

「……もりのなか」

「森の中? 森の中に街があるの?」

「ううん、ぼくとお母さんだけがすんでるんだ」


 大丈夫なのかそれは。魔物、主にカカトカバネが出るし、街から離れて暮らす利点はこの国の中では無さそうなものだけど。


「お父さんは?」

「いない。ぼくが来てからはいない」


 独特な表現をする子だ。つまり、この子が生まれる前に離婚したか亡くなったのか。


「どうやってここが分かったの?」

「ずっとさがしてたんだ。きょうやっと見つけて、それで……」

「楽しそうで見入っちゃったんだ?」

「……うん」


 少年は俺から目を逸らし、下を向いてゆっくりと頷いた。ずっと探してたってことは、俺を探してたのか? そしてたまたま今日見つけたと。なんて災難。なおさらカルディアを止めてよかった。


「もう少し聞いてもいいかな」

「いいよ」


 少年は再び俺を見た。気のせいか緊張がほぐれてきている。


「ありがとう。お母さんと暮らしてるって言ってたけど、具体的にはどんな暮らしなのかな」

「お母さんはおうちでなにかをつくってるんだ。それを売って、おかねをかせいで暮らしてるんだ」

「君はずっと家にいるの?」

「うん」


 おかしくないか。つまり友達がいないってことだ。なんでそんな暮らしを……今はいいか。他のことを聞こう。


「じゃあ、俺たちのことは誰にも言ってないんだね?」

「うん。お母さんにもいってない」

「そっか」


 非常に都合が良い。話す相手は母親しかいないし、話す気があるようにも感じられない。


「じゃあ、一つ約束してくれるかな」

「なに?」

「俺たちのことは秘密にしておいて欲しいんだ。訳あって、他人に知られちゃいけなくて」

「うん、いいよ」

「……あ、いいんだ」

「うん、その代わり…」


 少年はもじもじし始めた。俺は少しの間それを見守っていたが、なかなか話を切り出してこないので、


「代わりに、なんだい?」


 自分から聞いた。


「あ、ううん。やっぱりなんでもない」

「そう?」

「そう」


 うーん、怖がらせてしまったか? 子供の相手というのは難易度が高い。この容姿なら尚のことだ。だが方針は固められるだろう。ガイウス達を呼ぼう。












「カルディア」

「なに?」

「お前の行動についてだ」


 ガイウスはカルディアに向き直り、先ほど聞かされたカルディアの行動について言及し始めた。


「殺そうとしたようだな」

「うん。それが確実だし」

「本当にそう思うか?」

「ん?」


 ガイウスは少年の方に目を向けた。丁度狼が少年を持ち上げているところで、少年が降ろされたところでカルディアに視線を戻し、話を続けた。


「あの子供には当然家族がいる。殺せばバレる。そうなったら、別の意味で旅が難しくなるとは思わないか」

「………ああ、確かに」

「浅慮だったな」

「いやー君の言う通りだ」


 カルディアはしまったしまったと言いながら後頭部を掻き、少年を見た。それに釣られ、ガイウスも再び少年に目を向けた。


「危なかった。揉み消せないんだもんねえ……」

「以後もそういう行動は控えてくれ。その行動にメリットは絶対にない」

「分かったよ」


 それから二人の間に会話はなかった。二人ともただ黙って少年を見つめ、その表情から感情は読み取れなかった。


「ガイウスー! カルディアー! 良いことがわかりましたよー!」

「へー、良いことだってさ」

「行こう」

「はいはい」


 狼に呼ばれ、二人は狼の元へ歩き始めた。













「良いことってなんだい?」

「それがこの子、森の中で母親と二人きりで暮らしてるらしいんです」

「へー、それは都合が良いね」


 色々聞いたが、伝えるのは最低限のことだけで良いだろう。親しくなるために聞いただけだし。


「なのでこのまま帰しても良いと思うんですけど、どうでしょうか」

「賛成だ」

「僕もいいよ」

「案外あっさり……分かりました。じゃあ」


 俺は少年の前で膝をつき、目をまっすぐ見た。


「ごめんね、怖い思いさせて。でももう大丈夫だから」

「うん、だいじょうぶ」

「一人は危ないから、これから君を家まで送るよ」

「んん?」


 カルディアが眉をひそめた。


「送るの? それこそ母親に見られたら……」

「うるさい効率厨」

「こう…!?」

「森の中にあるんだから、木の後ろに隠れればいいだろ」

「……気をつけなよ?」

「もちろん。いいですよね、ガイウス?」

「構わない」


 よし、ガイウスにも許可を貰えたことだし。


「行こうか」

「うん」


 そうして俺は、フォードという少年を家まで送ることにした。

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