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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第64話 輝く遊具

「何をするつもりなんですか?」

「見ていれば分かる。お前たち、本の周りに立て」

「さてさて、どう活用すんのか見ものだな」

「わくわくね」

「わくわく!」


 俺たちは、言われた通りに本の周りを囲むようにして立ち、ガイウスの行動を待った。ガイウスは周りの様子を確認し、やがて目を瞑って掌を地面の本へかざし、


「『空洞満たすは魔女の空想、大地を覆うは魔の帳。賢なる久遠の礎ありて、我らが黄金よ城となれ』」


 呪文を唱えた。瞬間、本が黄金のように輝き始めたかと思うと、本から金色の魔力が一気に吹き出し、広場全体を覆ってしまった。


「どうなってるんですか…!?」

「ボスの魔法だよ。言うなれば、『特大障壁』だな」

「魔法障壁みたいなものだけど、形を自在に操れるの。今回はどんな形になるのかしら」


 アッカドとユーリィが親切に解説してくれていたが、正直それどころではなかった。

 その光景はあまりに美しく、壮大だった。先程までは草木と空の二色だけだったというのに、ガイウスの魔法によって辺りが黄金色で満たされ、それを透過して通る日の光が虹色に輝いていた。魔力はまるでグラスハープのような、大きく美しい音色を奏でながら動き、俺はその光景から目を離すことができず、口を開けたまま見惚れていた。

 しばらくすると、広場を覆っていた黄金の魔力は段々と集積し、確かな形を作っていった。やがて魔力の鳴動が収まると、そこには、


「すごい……!」

「これは……なんて言うんだ?」

「遊具かしら」


 そう、まるで遊園地のような、それはそれは大きな遊具があった。

 ジャングルジム、滑り台、アスレチックなどがふんだんに織り込まれている。上級者向けの場所もあるらしく、鉄棒のようなものが不規則に、広い感覚で並んでいるのが見えた。高く大きく、日本のそれにも劣らない。


「すごーーい!!」

「……準備は整った」


 ガイウスは本を拾い上げ、パタンと閉じ、俺たちの方を見た。


「おもてなしするぞ」


 おもてなし。


「すごい気合ですね……」

「一周回って燃えてきたんだろうな」

「よく分からないところで燃えるのよね、この人」


 エルリアを楽しませようとする心は理解できる。しかし、ここまで全力を出してくるとは。これは俺も全力で楽しむしかない。


「行こう、エルリア!!」

「うん!!」

「気をつけてねー!」

「任せてください!」


 俺はエルリアを肩車して跳び、遊具の頂上へ向かった。


「ボス、いいのか? 一緒に遊んでやらねえで」

「よくない。すぐに向かう」

「お、おう。いってらっしゃーい…」














「またデカいもん出したねー」


 黄金の輝きからはみ出した、広場の端の木に寄りかかりながら、カルディアは呟いた。

 遊具の中はかなり騒がしいように見える。幼女があれをやりたいこれをやりたいと休む暇もなくせがみ、狼と着込んだままの男が付き合っている。そこから少し離れた所では、暑くなったのか、暖かそうな上着を脱ぎ、イチャコラしている男女が一組。こちらはゆったりと、散歩をするかのように楽しんでいた。


「まったく、遊んでいる暇があるのかなー」


 カルディアは地面に尻をつき、ただその光景を眺め続けた。途中から狼と軽装の男が激しく動いていたり、遊具の形が大きく変わったりしていたが、カルディアの表情が変わることはなかった。

 それから一時間ほど経ち、昼食の時間になった。驚くべきことに、彼らは途中休憩を挟みながらも、一時間遊び続けた。

 狼が少女を肩車してこちらへ向かってくる。少女の顔は笑顔で溢れていた。カルディアはそれを見ても、


「くだらない」


 そう呟いただけだった。
















「楽しかったね、エルリア」

「うん!」


 昼食の時間になった。やはり道具が素晴らしいと、自然と夢中になってしまうものなんだな、遊びって。最近の遊びというと、カラオケだったり映画だったりと屋内のものも多いが、もちろんそんなものはこの世界には無いし、ここまで遊びで運動したのは久しぶりだ(俺がインドア派というのもある)。

 俺はカルディアの元へ歩み寄り、昼食の入ったカゴを持ち上げた。


「カルディア、昼ご飯にしよう」

「分かった分かった」

「……? どうかしたのか?」


 どこか呆れた様子なのが気になり、率直に尋ねてみた。


「なんでもないよ。そっちへ行けばいいんだろ?」

「あ、ああ」

「ほら、ボサッとしないで。早く食べよう」

「……ああ」


 カルディアは俺を置いて歩いて行ってしまった。

 明らかに普通ではない。だが大して親しくもない俺に原因が分かるはずもなく、俺はそれを気にしないことにした。








「いただきまーす!」


 エルリアの元気な声とともに、俺たちは昼食を取り始めた。


「食え食え! うまいぞぉ」

「ふむふむ………いつも通りね」

「いつも通り美味えか」

「……いつも通りね」

「意固地ですね」

「かっこわ」

「それ以上は言っちゃダメだよエルリア」


 俺のあぐらをかいている足の上に乗り、禁句を容赦なく言い放とうとするエルリアの口を押さえ、アッカドが作ったサンドウィッチを食べる。『サンドウィッチ多くね』という疑問は受け付けていない。持ち運びに便利なものがそれぐらいしかないのだ。


「どうですか、ガイウス」

「……何を聞いている」

「味ですよ、味」

「お前が聞いてどうする」

「どうもしません。気になっただけです」

「……いつも通りだ」

「いつも通り美味しいということで?」

「………いつも通りだ」


 一見味気ない返答に見えるが、否定はしていないので、美味しいということだ。エルリアも何かを察したのか、ガイウスの方を見て笑っている。ガイウスはそれを見て、少しだけ口角を上げていた。

 今この時間がちゃんとガイウスたちのためになっているみたいで、なんだか嬉しくなった。まるで家族みたいだ。


「……? ガイウス?」


 ガイウスが突然エルリアを睨み出した。何故。普通に顔怖いんだが……エルリアはどういう反応をするのだろう。

 俺は足の上に乗っているエルリアの顔を、上から覗き込む。するとエルリアは、


「めっ!!」


 ガイウスを指差しながら叱った。


「叱った………」


 少女が大人を叱った。この光景、見覚えがある。


「俺も叱られたことある……!」

「……こいつは、睨まれると叱り返すんだ」

「どうしてですか」

「リーアさんの名残りかもしれない」

「………!」


 ここでその名が出てくるのか。


「彼女も睨まれると、叱るわけではなかったが、呆れながら注意していた」

「そもそも睨んだことがあるんですか?」

「意図的ではないが、初めて会った時は目つきが悪かったらしい。初対面の開口一番にそれを指摘された」

「……そうですか」


 やはりエルリアは、リーアさんが持っていた一面をある程度受け継いでいるのだろうか。であれば今の行為は、ガイウスにしてみればエルリアがリーアさんである証明で、彼女に想いを馳せる機会でもあるのかもしれない。


「……俺は………」

「………ガイウス?」


 突然ガイウスは、手に持ったサンドウィッチを見つめながら黙ってしまった。


「どうかしましたか」

「……いや、なんでもない」


 なんでもないわけないが、今はそれを追求する時ではない気がするので、それ以上は聞かないでおいた。


「……この後はどうしますか?」


 気まずくなってしまったので、話題転換を試みる。


「そうだな……アラタ」

「はい?」


 ガイウスは俺を呼びつつも、エルリアを見ていた。俺も再びエルリアの顔を覗き込む。すると、


「あ」


 エルリアがウトウトしている。いつもより激しく動いたのと昼食を食べたので、眠くなってきたのだろう。昼寝には少し早いのだが…。


「エルリア、ちょっと早いけど、お昼寝しようか」

「うん」


 エルリアは目を擦りながら返事をした。俺はエルリアを抱き抱え、遊具から離れて木陰に入り、俺も座って膝を枕代わりにして、エルリアの頭を乗せた。


「おやすみぃ……」

「うん、ゆっくり休んでね」


 エルリアは目を瞑り、やがて小さな寝息を立て始めた。思わず銀髪を触りたくなったが、背徳感が凄かったのでやめておいた。


「寝たか」

「はい」


 ガイウスはエルリアの様子を確認すると、


「アラタ、お前に用がある」


 俺を呼んだ。


「俺ですか?」

「ああ。気になることがある。大したことではないが」

「でもエルリアが……」

「私が変わるわよ。久しぶりに髪撫でたいし」


 そう言うとユーリィは、もう髪を撫で始めた。そういえば子供好きなんだっけか。忘れていた。


「だそうだ。休みたいというなら無理強いはしないが、どうする」


 俺は少しの間考えたが、気持ちよさそうに眠っているエルリアの顔を見て、


「……行きます」


 ガイウスに付き合うことにした。

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