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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第63話 遊びと言えど油断は禁物

「……ふわぁぁ……はぁあ」


 大きなあくびをしながら、階段を一歩一歩降りて行く。一階に着くと、すでにアッカドとユーリィが活発に動いていた。アッカドは髪がボサボサで、ユーリィは上着を羽織っておらず、髪を結んでいない。テーブルではコラブルとフレア、そしてカルディアが談笑していた。みんな寝起きのようだ。


「おはよう……」


 重い目蓋を無理矢理開きながら、朝の挨拶をする。皆その声で俺の存在に気づき、


「おはようっす」

「今日も早起きできて偉いねぇ!」

「騒がしくしないで頂戴。おはようアラタ君」

「……おはよう」

「おう、朝飯もうすぐできるぜー」


 軽く挨拶を返してくれた。


「ちょっと心配だったけど、寝坊しなくてよかったわ」

「お前の寝坊はめんどくせえからな」

「なんかすいません…」


 何も言い返せない。自分でも、どうしてあんなに荒れるのか分からない。前世でもたしかに寝覚めは悪かったが、あそこまで激しかっただろうか。

 ひとまず洗面台へ向かい、歯磨きをして、眠気を覚ますため顔を洗った。後処理が大変そうに見えるが、炎魔法ですぐ乾かせるのでなんの問題もない。

 再びリビングへ向かい、椅子に腰掛ける。キッチンから、まな板に包丁が当たる心地いい音が聞こえてきた。

 朝ご飯ができるまでの間に、テーブルの上にあったものを物色する。そこには、見たことのない本が一冊置かれていた。


「なにこれ」


 俺はそれを手に取り、ゴラブルに見せながら質問した。


「本っす」

「見たら分かる。なんの本?」

「御伽噺っす」

「どんな」

「破壊神の」

「破壊神の!?」


 思わず聞き返してしまった。御伽噺と言えるのかそれは。


「クレイが暇つぶし用にこの家から見つけ出したものらしいっす。ある国が滅ぶまでの物語なんだとか」

「物騒だな……」


 俺は忌避すべきものを扱うかのように本をテーブルに置き、大人しく朝食を待った。


「そういえば、ガイウスは?」

「エルちゃんのところ。昨日は珍しくベッドで寝たから、起こしに行ってるわ。ま、寝顔を眺めてるだけでしょうけど」

「なるほど…」


 昨日はシルフィーのところへ行く前に寝てしまったし、俺たちがベッドで寝かせたから、珍しい現象が起きている。シルフィーが寂しがっていそうだ。


「ほい、朝飯」

「おー、おいしそうっすね」

「最近サンドウィッチ多くない? 僕飽きちゃった」

「なら食べなきゃいいだろ」

「そんなこと言うなよー、冷たいなあ」


 ただをこねるカルディアを他所に、俺はテーブルの上に出されたサンドウィッチを掴み、ゆっくりと口へ運んで、味わうように咀嚼した。美味しいには美味しいが、昨日食べたものには遥かに劣る。鮮度の問題だろう。これはゴッデスから運んできたものだし、しょうがない。

 俺が食べ始めた後に、アッカドも椅子に座って、みんなで朝食を取り始めた。


「ちょっとあれね、味がいつもより落ちてるわね」

「お前のに比べりゃ絶品だろ」

「なんでそう喧嘩腰なのかしら……!?」

「勝算があるからかなー」

「もっと穏やかにいきましょうよ」


 料理のことになると、この二人は喧嘩してばかりだ。全部ユーリィが負けるのは必然と言える。経験から学んで欲しいものだ。


「……起きていたか」

「おはよー!」

「おお…おはよう」


 ガイウスとエルリアが二階から降りてきた。エルリアは、昨日と打って変わって元気ハツラツだった。


「わたしもいっしょにたべるー!」

「隣においで」


 俺はエルリアを俺の横の席に座らせ、テーブルの上に残っているサンドウィッチを手渡した。エルリアはそれを必死に頬張り、口を大きく動かして咀嚼した。


「落ち着いて食べてね」

「うん!」


 やっぱり、エルリアには笑顔がよく似合う。口周りを汚しながらも、笑顔でサンドウィッチを食べ続ける姿がとても愛らしい。ユーリィとアッカドも、それを見て微笑んでいた。


「余程楽しみみたいね」

「腕が鳴るな」

「貴方は鳴らさないで頂戴」

「なんでだよ」

「加減を知らないんだもの」

「エルリア相手にいらねえだろ、そんなもん」


 アッカドはエルリアをなんだと思っているんだ……まあいらないだろうけど。

 ガイウスは席には着かず、立ったままサンドウィッチを一つ食べた。ちょっと行儀が悪い。なんか良いな。

 朝食を取り終えて。


「昼食の用意は」

「ここにあるぜ」


 そう言うとアッカドは、重量感のあるカゴを見せてきた。昨日街の女性に、朝食といっしょに渡されたものだ。貰ったみたいになっている。


「よし、準備しろ」


 その掛け声と同時に、アッカドとユーリィは身だしなみを整え始めた。髪を整え、上着を羽織り、見たことのないモコモコした服を取り出した。ガイウスはもう着ている。


「なんですかそれ? すごくあったかそうですけど」

「昨日頂いたの。いつものは寒いし、折角だから活用しようと思ってね」


 いいなあ、俺も欲しい。


「留守番は任せるっす!」

「今日は私も残る。楽しんでくるといい」


 コラブルとフレアは家に残るようだ。クレイも休みたいだろうし、今日はいつもと面子が変わる。


「準備はいいか」

「おう」

「ええ」

「いっくぞー!」

「いくぞー!」

「お、おおー」


 なんだこの空気。大人陣も楽しむ気満々だなこれ。


「ていうか、カルディアも来るんだ。四番目に声上げてたけど」

「当然! 見張りが居ないとね」


 カルディアも一見張り切っているように見えるが、きっとそんなことはないのだろう。俺はそれよりも、一瞬だけだが、アッカドがカルディアを睨んでいたのが気になった。























「いくぞぉぉぉぉぉぉぉ……せーのっ!!」

「わあああぁぁぁ………」

「上げすぎでは」

「いつものことよ」

「感覚麻痺してますよそれ」


 広場に着き、アッカドとエルリアの戯れが始まった。いつも通りの、レベルの違う高い高いである。見ていてヒヤヒヤしないのは何故だろうか。エルリアも満面の笑みだ。


「……ぁぁぁぁああ!」

「キャーーッチ!」

「よくもまあそんなに真っ直ぐ上げられますね」

「練習したからな」

「これだけのために…!?」


 一周回って感心してしまう。それほどの余裕があるということだろうか。


「そろそろみんなで遊ぼうぜー」


 エルリアを下ろし、頭をポンポンと叩きながらアッカドが言った。


「でも、具体的には何をしますか? 道具とかもないですし……」

「アラタ君が知ってる遊びでいいものないかしら?」

「うーん……『だるまさんがころんだ』とか?」

「どういう遊びなのかしら」

「えっとですね…」


 ルールを簡単に説明した。


「おもしろそー!」

「なるほどなるほど…面白そうだな!」

「気をつけてねアラタ君。彼、変なこと企んでるわよ」

「そんなことはないって!」

「流石の俺でも分かります」

「はっはー、信じてくれねえんだ? これは何をされてもしょうがねえな」

「怖いぃ………」


 指を鳴らすアッカドに怯えながらも、俺が鬼になって『だるまさんがころんだ』が始まった。


「いきますよーー」

「いいぜーー!」


 距離は広場の端から端まで。超長い。ちなみに、この距離を提案したのはアッカドだ。超怖い。

 俺は木に体を向けた。


「ふぅ……やれるぞ俺…」


 ちょっとした自己暗示を挟んだ後、俺はゆっくりとあの言葉を口にし始めた。


「だーーーるーーーまーーーさーーーんーーーがーーー」


 一個一個の間を長めにとり、大きな声で発生する。そうでないと聞こえないだろうし、エルリアが楽しめないかもしれない。ドタドタと足音が聞こえるが、たぶん気のせいだ、うん。


「こーーーろーーっっゔへぇ!!?」


 何かが俺の背中に突っ込んできた。もろ腰に食らい、思わず木にもたれかかる。


「逃げろーー!!」

「わーーーーい!!」

「アラタ君も災難ねーー!」

「………俺悔しいよ……」


 俺は背中をさすりながら立ち上がり、後ろを振り向く。背後には、すでに広場の端まで逃げ切った三人がいた。無慈悲すぎる。アッカドの野郎、跳び膝蹴りを入れてきやがった。正気の沙汰じゃない。これは俺も本気でいかねば。


「狙うはアッカドただ一人ーー!!」

「やべ、怒らせちったかな」

「なんで怒らないと思ったのかしら」















「ふう……結構楽しかったですね」


 『だるまさんがころんだ』だけでなく、鬼ごっこや隠れん坊など、あらかたやり尽くした。久しぶりにやってみると、結構楽しいものだ。


「もっとあそびたーい」

「子供の体力ってすごいわね」

「ボスどこだ? ずっといねえじゃねえか」

「ですね」


 俺は辺りを見渡す。どこにもガイウスの姿は無く、見つかったのは、広場の端っこで木にもたれ掛かっているカルディアだけだった。


「逃げ出したのかしら」

「そりゃねえだろ」

「冗談よ。あの人エルちゃんが関わるといつも本気だから、何か準備してるんじゃない?」

「うーん……」


 エルリアが目を閉じ、両人差し指をこめかみに当てて唸っている。念力みたいなものを使って探しているように見える。


「いた!」


 突然エルリアが森のある方向を指差した。そこには、こちらに向かって歩いてくるガイウスがいた。右手で辞書よりも厚い本を抱えている。


「分厚い本を持ってますね」

「おお……『あれ』が見れるんじゃねえか!?」

「久しぶりね」

「あれ……?」


 ガイウスは俺たちの元まで歩いてくると、本を開いて地面に置き、


「さあ、全力で遊ぶぞ」


 そう意気込んだ。

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