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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第62話 孤独

「よかったのか、明日休んで?」

「いい。むしろ必要としていたところだ」

「それにしては悩んでなかったか?」

「……気にするな」


 今は帰り道、もうすぐ石製の家に着く頃だ。日は傾き、空からは眩しさが消え、空気が勝手に冷えてきていた。貰った冬着のお陰で寒さに悩むことはないので、特に急ぐ様子もなかった。


「っつうか、休み必要だったのかよ。やっぱあれか、歳か」

「体は老いていない。歳のせいにするな」

「じゃあどうして?」

「……着けば分かる」

「「………?」」


 アッカドとユーリィは互いに顔を見合わせた後、会話をやめ黙って歩いた。二人とも、理由を想像しているに違いない。














「戻った」


 家の扉を開け、三人が中に入る。中は不自然に静かで、クレイが憂鬱そうに椅子に座って頬杖をついていた。一度ガイウスを見るも、話しかけることはせずに目線をテーブルに移す。ユーリィとアッカドは重い空気に耐えかね黙っていた。


「………どうした」


 ガイウスがゆっくりと口を開く。その声を聞いてクレイは、顔だけをガイウスの方に向け、


「どうしたと思う?」


 尋ね返した。


「いや、いい。分かっている」

「分かってんのかよ……ならあんま放っといてやるな。二階の寝室でぐずってる。行ってやれ」

「……ああ」


 ガイウスはゆっくりと階段を上がって行った。アッカドとユーリィは、何があったのかをクレイに尋ねていた。














「疲れた」

「オイラもっすよ。全然見つけてくれないじゃないっすか」

「だから難しいんだって」

「すまない……」

「フレア、次謝罪したら埋めるからな」

「理不尽の極みっすね」


 俺たちは修行を終え、家に向かって森の中を歩いていた。

 フレアの業火の魔眼の練習は、特別うまくいったようには思えなかった。剣を燃やすことはできたが、俺が作り出した障壁を燃やすことはなかった。一応障壁の練習にはなったので俺的には問題ないが、フレアにはもろもろ乗り越えてもらわないと。もろもろを知らないので強く言えないのが難点だ。

 ちなみに午後は隠れん坊だったが、今日は何にも襲われなかった。良かった。でも今日も見つけられずに、コラブルの魔力切れで終わった。コラブルの特訓は隠れん坊の鬼役だけだった。カルディアはコラブルも指導するって言ってたんだが、今日は他には何もしなかったな。


「毎日これなんすかね」

「だろうな。むしろ増えると思うけど」

「オイラ、今の食事量じゃ魔力回復し切らないっす。どうすればいいんすかね」

「そのままでいいんじゃないか? 追い込めば魔力量増えると思うし」

「厳しいっすね……」


 ただでさえ食べる量が多いというのに、これ以上増やされたらたまったものではない。昼食だって俺の分の半分は譲った。我慢を覚えて欲しい。


「森見飽きたなあ……」

「急にどうでもいいこと言わないで欲しいっす」

「妙に静かだと思ってたらそんなこと考えてたのか。どうでもいいな」

「君たち僕への当たり強くなってない?」


 その通りだが、止めるつもりはないので適当に「気のせい気のせい」となだめているうちに、森を抜け、家が見えてきた。それと同時に、


「きーーーらーーーいーーー!!」


 幼女のものと思わしき叫び声が辺りに響いた。他に音がほとんどないからなおさらだ。俺たちが借りている家の中からした気がする。というかエルリアの声だろう。


「急ごう!」


 俺たちは残りの短い距離を走り、扉を勢いよく開けた。


「どうしたんですか!?」

「きゃっ!? ……びっくりした。もっと丁寧に開けて頂戴」

「あ、すいません」


 驚かせてしまった。

 クレイ、アッカド、ユーリィの三人がそれぞれ椅子に腰掛けている。表情が暗く、どこか気まずそうに見えた。


「もう帰ってきてたんですね。ガイウスは?」


 俺が尋ねると、クレイが黙って天井を指差した。二階か。

 ……エルリアも見当たらない。もしやガイウスが叫ばれている?


「何があったか聞いても?」


 俺は中に入り、余っている椅子に腰かけた。コラブルとフレア、カルディアはテーブルのそばに立って黙っていた。一緒に話を聞くつもりのようだ。


「俺から話すけどよ」


 アッカドは姿勢を整え、決まりが悪そうにしながら話し始めた。


「エルリアが拗ねてんだ」

「拗ねてる? どうしてですか」

「それはだな……俺たち、お前も含めて俺たちに責任があるというか」

「……? どういう……」

「あー、なんだ……」

「ほっとき過ぎたのよ」


 ユーリィが痺れを切らした。ほっとき過ぎた? ……なるほど。


「そういうことですか……」

「俺たちも一回行ったんだが、思いっきり拒絶されちまってよ」

「俺、行ってきます」

「…まあ頑張れや」


 俺は駆け足で二階へ上がり、女性陣の寝室に入った。今は躊躇している場合ではない。

 中にはベッドの上で布団にくるまっているエルリアと、そのすぐそばに腰かけ、布団に語りかけ続けているガイウスがいた。


「ガイウスのばか! あほ! あんぽんたん!」

「話を聞いてくれ」


 エルリアはご機嫌斜めだ。知っている限りの罵詈雑言を浴びせながら拒絶しており、ガイウスですら手を焼いている。


「大丈夫ですか」

「……アラタか。見ての通りだ。話を聞いてくれない」

「俺がいってもいいですか」

「……頼む」


 ガイウスはベッドから立ち上がり、同じ場所に俺が座った。エルリアは全身を布団で覆っていて、顔を見せてくれない。


「ごめんね、エルリア。最近全然構ってやれなくて」

「おにいちゃんもきらい! ばーかばーか!」

「そんなこと言わないで」


 リヴァイアに来てから、全然エルリアに構ってあげられていなかった。ある時は一人置いていったし、ある時はクレイに任せっきりだった。ゴッデスにいた頃からクレイに相手をしてもらっていたから、ガイウスと俺は、その頃から寂しい思いをさせてしまっていたんだ。

 エルリアはきっと、ガイウスがいいのだろう。ガイウスに構って欲しいのだろう。俺が出しゃばるのは筋違いかもしれないが、俺にも責任はある。


「ガイウスたちも忙しいんだよ。なんならエルリアのために頑張ってるんだ」

「ちがうもん! わたしのためじゃないもん! いっつもおいていっちゃうんだもん!」

「それは…それこそ違うよ。ただ、君はちょっとだけ普通じゃないんだ。こうするしかないんだ」

「知らないもん! ばーか!」

「うぅ……」


 こういう時はどうすればいいのだろう。小さい子供の相手なんてしたことないし、こうまで強く拒絶されると、気圧されて言葉がうまく出てこない。

 しばらく黙っていると、突然布団がゴソゴソと動き出し、エルリアが顔だけをひょっこりと出した。息が苦しくなったのだろう。俺はここぞと言わんばかりに顔を覗き込む。だがエルリアは、顔をベッドに擦り付けた。絶対に顔を見せないという強い意志を感じる。


「エルリア、悪かったよ。……顔見たいなー、なんて」

「やだ」

「………そっか…」


 叫ぶことをやめている。幼女にしてはかなり低いトーンで返された。このまま続けてもジリ貧だ。

 俺はベッドから立ち上がり、ガイウスのもとへ歩み寄って小さい声で話しかけた。


「すいません、無理でした」

「いい。責任は俺にある」


 いい歳した男二人が幼女に振り回されてしまうとは……エルリアの元を考えると、おかしくはないのかもしれない。


「おーい、晩ご飯できたよー」


 一階からカルディアの声がした。時間的には少し早いが、じっとしてられなかったんだろうな、アッカド。


「どうしましょうか」

「……はあ。一度飯にしよう。そのあと、また説得する」

「分かりました」


 そういうわけで、俺たちは晩ご飯を食べた。一応エルリアも誘ったのだが、当然断られた。ガイウスはエルリアのそばでご飯を食べた。エルリアの分も持っていっていたけど、食べてもらえたのだろうか。

 食卓の空気はなんとも言えないものだった。コラブルとカルディアはいつものように話しながら、時折フレアも混ざって楽しそうに食事していた。もう少し空気を読んで欲しかった。他三人は食事どころではなくて、なかなかスプーンが進まなかった。クレイもあまり話さず、どちらかというと怒っているように見える。

 食事を取り終えたのち、ユーリィとアッカド、俺は再び二階の寝室へと向かった。中に入ると、布団から出てきているエルリアがいた。そばには手のつけられていない料理が置かれている。やはり食べていなかった。


「みんなきらいだもん……」

「……腹が減っているだろう。冷めてしまうぞ」

「いらないもん」


 エルリアは少し疲れた様子だが、ガイウスに背を向けて、抵抗の意志を示し続けている。


「どうだ」

「……クレイ」


 クレイが様子を見にきた。表情が明るくない。


「ご覧の通り、全然ダメです」

「全く……なにしてんだお前らは」

「本当にすいません…」

「……ちょっとこい」


 そう言うとクレイは、ガイウスを廊下に呼び出した。その間俺たちは黙ってエルリアを見ていた。申し訳なさでいっぱいだ。もっと早く気づけただろうに。


「………ん“ん」


 ガイウスが戻ってきた。襟を正し、エルリアの正面に行き、屈んで目線を合わせて話し始めた。


「すまなかった」

「………」

「アラタが来てからあまり構ってやれなかった。寂しい思いをさせているのは、なんとなく分かっていた」

「……なんで一人にしたの?」

「一人ではない。クレイやシルフィーがいた。だが、一人でなければいいという問題でもなかったな」

「………」

「もう寂しい思いはさせない。約束する。そこでだ。お詫びと言うつもりはないが、明日遊びに行かないか」

「……どこに?」

「アラタたちが最近行っているという広場に」

「……アッカドとユーリィもくる?」

「ああ」

「おにいちゃんも?」

「ああ」


 代弁された。そのつもりなので、口を挟むことはしない。


「行くか?」

「………」


 エルリアは少しの間モジモジした後、


「うん」


 そう返した。


「決まりだ。今日はもう寝よう。たくさん休んで、その分明日たくさん遊ぼう」

「うん!」


 エルリアの表情が一気に明るくなった。それに釣られ、俺も思わず笑みをこぼした。


「じゃあ一緒に寝ましょう、エルちゃん。ちゃんと歯を磨いてからね」


 そう言ってユーリィは、エルリアを抱っこして一階に連れて行った。ユーリィもきっと責任を感じていたに違いない。その証拠に、楽しそうにエルリアに話しかけながら階段を降りていった。


「助かった」


 ガイウスが入り口に向かってそう言った。俺も視線を入り口に移すと、クレイが呆れた顔をして壁に寄りかかっていた。


「もう繰り返すなよ。朝からすげえ機嫌悪かったんだから」

「本当にありがとうございます」

「明日、目一杯遊んでやるんだぞ」


 そう言い残して、クレイも一階へ向かった。きっとエルリアの相手をして疲れているのだろう。もう寝るつもりかもしれない。

 しばらく寝室で待っていると、ユーリィがエルリアを抱っこして戻ってきた。腕の中のエルリアは、気持ちよさそうに寝息を立てながら寝ている。ユーリィはエルリアをベッドに寝かせ、優しく頭を撫でた。


「もう寝ちゃったんですね」

「ええ、疲れていたのね。私ももう寝るわ。明日、早起きしなさいよ」

「はい」


 部屋を出る前に、俺はエルリアに近寄って、


「おやすみ、エルリア」


 そう言った。エルリアの表情はとても安らかで、枕に広げられた銀の長髪は、相変わらずとても綺麗だった。

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